第67話 酔生夢死

私だけの手ひらにともる。慕われる朱き血脈、小さなカルマ。

魂の中心はブリキで作られ、しおれた花

紙縒りにして 織り込んだ 思い出、

小さな町工場からひっそりと運ばれた。


出荷されたものだって僕が言ったら、君はモノクロの夕景に溶けて、

壱等いっとう尖った墨色のスタートラインを越え、

僕の手のひらに、かえろ。


夢だ、夢であれ、夢なのだと過去をほじ繰り返して、

何も宿らないゼンマイ仕掛けの心臓にひとつまみシを零す。

何気なく唇を突き立てて呆気なく殺してやりたい、

あなたにあげる生の多様さを、幾度でも生かしてあげたい。


芯の中心に眠る、私を燻べる。

(末梢の血管が拡張する。炎が立たずに煙だけが出る煤で黒くなる)


硯に酒を注ぎ、愛用の筆を落とす。

足先まで漂う霊魂が、器の蝋燭と戯れている姿。

世界が率直にズレを熾し、私の瞳を少しづつ削いでいる。


誘い込まれる現実とを吸い尽くした未来が、今の私を一瞬の泡沫に沈みこませる。

羽根がまだ白い妖精だったころの小さいややこのイメージ、

クリアなスクリーンは短略化して沁み込ませる。

とてもきれいな夢を満ち いていたらしい、深深とした多幸感。

溢れながら、てんからがら。創り出された似せの雪上に、ぎこちなく引き起こす身。


恐ろしく緩慢な眠気が煙る、鉛管に付加した淫靡なかほりと共に、

鉛灰色えんかいしょくの混濁が爛れた渦を広げ、世界を如実に噴き明けて往く。


翳、新たな波が生まれては消える、魂、曳かる。


あゝ そうして全て忘れてしまったが、それでも、騙るのだろう、

自動筆記された雪上には、朱で染まる明に曝され、こう経つた。


凍りついた羽根 血に堕ちた もうすぐに浅黒い夜に変わる

純白の内掛けが汚れてしまった 切々、天から降り続く

非情にも 愛を引き裂いても たどり着けなかった。足跡はもう、


恨んでも切れない縁だけがスクスクと膨らませ、

身も心も水葬に ぶくぶくと超え太る。

臓腑に縺れ、脳味噌っ滓。ふやふやと灼け、果て、はて?

太陽がにやけている、何故だ、嘲笑うのか、

それでもいい、それでいい、いっそう蔑んでくれ、

それで居て、満杯に懺悔を恋おう。


あいたい夜


そこに誰もいない、風花だけ


撒いて、

蒔いて、舞散らす、まいどまいど。


正し、ゼンマイを捲いてくれ。

青白い君と、弔いの灯 それがしあわせと末路とも


あなたごと 挟み込む、湿り撓んだ古紙を重ねる旅路だ

あの産廃を全て燻して、人形ヒトガタに戻してあげて。

崇め経っても、焚いて 祀りて。偲ぶ。


酔生夢死



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