第60話罅

【日日】


手に負える満月、虜囚の燻し盃、

飲み干した華王の雫

夥しいほど残光、辿る道、

足取りは重く泥に狭まる

沈みゆく、格子の毬 

弾む息 震えていることに、


あらたか

朝日が伺える、ねじれた緞帳の季節

潰れた右腕はどす黒い垢が裂く


それで、どこへいこうか

肩を引いて、身を屈(かが)めた

ただ、明日を求めている


散らばる光たち、埃が舞い踊る

まるで胡蝶、錆びれた痕

巍巍 巍巍

高くて遠い塔 見下ろす影、屹度逝き解ける

名残雪 扉はとうに砕かれて鋳る


溢れ出した過去 唯の灰で在ろう 亡くしたもの、

それだけの時を投げ棄てた


室内に並ぶ古紙を少しずつ切り崩して暖をとる

爆ぜた実が痛痛しい 香りを運ぶ

腹も空く 仕方なく、喰らう

これは連鎖だ、生き延びてしまったのだ。


懐かしい思い出もすべて 祖の記憶すらも燃やしてしまう

轟轟と唸りをあげるは少しばかりの時であろう


がらんどうの心 踏み拗られ傾げた首

破裂しただけの愛

なくせもしない情に 積み重ねた 野晒しの頭骨

芯の臓腑が洗われる 赤い雨

濡れ衣は酷く重たく

綻んだ面が張り付いただけの、春の笑顔であった


生は遺棄を啜る 花は肥やしに 美々しく腐す

風を呼んだ この辞世の句 活ける息吹

凝視する ナナカマドの詰った 雑踏が


窪地を平らげるまでに

此処に痛々しく留め続ける 正に罅割れの踵

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