第54話あさはかないしき

左目からこぼれた夕焼けが雨を呼び込んでいく

そうして滲んで作られた大地がだいたい転がしていく

僕はただ、坂道に硬くなった石

贋作の渋い柿は二重の意味で痛々しい


穴につまずいたばかりだと思っていたのに

けれどそれは、凸凹で美しく光沢を放つものでした。

永遠に時をとどめたあなたのように、美しく飾られること

その廃石は価値があると私が決めるのものです


しがない一日。そうやって息を吸っては入っている

磨き抜かれた廊下

僕は崖の上で飛び立てない羽を持ち、

重い足取りでここに戻していく


最上階からの見下げる景色は何もかも清らかだった

ふたりならば 遠くに見えた摩天のビル。

きらびやかな星星たちだと思っていたか。

今は眼下に見える公園の渋柿が気になって仕方がないが

僕はそれを見上げたことはなく、夢でありたいのだ。

近く手に取ってしまえば、現実をありありと見せつける、

ただ何食わぬ顔でそこにあり、続ければいい

本物にはしたくないのだ


昊を廻る。

昨日より少し傾いた天体間、僕はまた満ちて欠けてゆく。

深淵は僕を饒舌にさせるんだよ

ぽっかり空いた眼光がまん丸お月さんを吸収する

そして浮かんだ茶ごと飲みくだす。


ため息とも深呼吸ともとれる生易しい風が

孕んだあなたを生まれさせ、

遠く見える道の駅が暗闇に包まれる黄昏時

そこに再生されるあなたが、私 の視界に

揺れ 揺られ 揺する

霞白抜かすみしろぬきに浸される、

嫋やかな喪屑の海が月夜光と分担した役割を果たし、

ゆっくりと沈み込む夜の闇に僕は抱かれていく


優しく狂っていくこの世にさようなら。

おはよう、あなたとわたし。おやすみわたしの、あなた。

僕は一生、夢を描き続け追い翔ける鳥で有りたいのだ。


みなそこの瞬間が好きだ

できるなら、このまま眠りに落ちて終わりにしたい

朝は無償にも現れるだろう

優しい嘘。いつか飛び立てるのなら僕らは鳥になりたい

飛び降りる勇気がない。しがない人間なのだ

僕は息をしているだけだ。ただ、それだけの命、人の一生。

右目に入り込んだ、だいだい。

僕を優しく起こしてくれる光に惹かれ

当たり前に朝がくるから。僕は大事に廃石を転がし続ける。


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