第46話 瘡蓋

 

 闇雲に瞑り、眠りにことごとく思いを返してみてもただ、黙って私の思いを汲んでくれる。見えないように覆い尽くして、無限にある時に悔い改めるように愛撫する。何もかも溶かすようでいて決して取れはしない澱の檻に投獄される。しかしながら2人だけの小さくて悲惨な陶器の箱庭。積み重なる懺悔と公開を始めます。


 生まれて仕舞ったこと、

 膿んで しまえなくて 紅く腐って逝った、欠片たち。

 何処にも飛び立てない、空想すら、ねえ。ともに見つからないよ、とふたつ此処に仕舞い混も。


 小さな小さな心に刻む記帳に几帳面に並べられた言葉、楽に粗く落としていく。どうせすぐに消えてしまう私もあなたも、たかだかいきとしいけるだけで、直ぐに誰にも見えやしない。死んでしまうのだ。


 願いは届いていたのだろうか。もう、解る術は無い。

 私だけの真白な神にお祈りし 滔々、尽きた。


 薄明かりの光を頂く淡水。ぺらぺらな白装束は賢狼に頂いたものだと、在りきたりの嘘を点いた私は、かの人の見知らぬ色にふらふら、見知らぬ海にいた不知火に酔いったのだと。

 言いくるむことが出来れば 自分の視界の範囲などを思いのまま。時が何らかの障害をお与えに為られて、赤子すら滑らしたと仮定しても、その最終判断は自らが選んだものから仕方なしと割り切れて、みち作られた時の采配に因っておりますので、やはり後悔はできそうにありません。そうでも思わなくては生きてゆけませんでした。


 一番ひとつがいに成りたくとも出 遅れてしまった私たち、式も挙げずに光もいだけずに個々で影となる。けれどそれでもあなたと航海をしたいと夢を描いた。

 此処から抜け出す道は見つからないというのに。


 私の懐いた創造主は何時だって優しかった。

 今沙羅に弔いを。川面に灯りを浮かべます。


 一枚の紙面に順風満帆のを点つけて小さな手桶に滑らせる 。と、ふたり 微笑んだままで、ま いつの間にか時をずらし、らくにゆきたかった、とも。 やはり神は涙で滲みとっぷりと笹の葉舟は沈んでしまった。

 雪は頬に触れて紅を汚しては、あゝ紙吹雪に散った世。冬枯れの軌跡。

 ざわざわと竹林から漏れ出たお月様、まあるい盆、青白いつら。覗き込んでいる、私の面を、朝のお寝坊さんは微笑んで逝ったのだろうか、誰も知らないうちともし供死火は消えて、もう思い出せない、声色は、

 叫んでも走りても追いつけはしない。なまらに渇いた死にづら すらひび割れ 欠片と分つ わたしふね。満開の焼夷弾に今更焦がれている。一緒に逝きたかったのに神はお許しにはならなかった。


 ああ、なんておろかなこと。

 時は厳かに過ぎ去ると願い、心に巣食うものは変わりなく、何とかかんとか私的自我を保とうとするものです。その密やかな見てくれ薄明の美しさに皆賛美と云う碌でもない言葉が、何もかもなくしただただ美しい羽を幾重にも重ね合わせ、簡単に時を流し世界を廻す。おもいばかりの鎮魂歌。


 その祈りと誓いに私も身を堕とします。

 そっと惹かれた白銀に視界は静寂に満たされてゆくというのに、そこはかぐわしいほどの色と心証を持って触れるもの全て賭死、性を犯していくように、喜びも悲しみも悦楽も遊楽もただただ、あなたに包まれて堕散る、幸ユキ。

 これは夢であっても。

 終わっても良いんだよって容易くあなたに連れ去られ、散々まみれている頬を拭いた血塗られた腕。皮は零れ柘榴となり露を腐らし芯は露出する。それでもおぞましい想い呪い慕いに私は、核も憐れな花弁は潰れ涸れたと思われていた涙も、緋と掬い。

 救い盗られるなんて、これは思い出だけ、でも私の愛は欲深く溢れてしまうのでしょう。

 しまい込むことも容易ではないほど細まった道を無理くり繋いでいた欠陥すら、ひうひうと呼吸は乱れ、これは生死の境 表と裏の糸口 とを辛うじて縫い合わせ、ちんまりとしおらしい感情の糸で育まれたまま、あやふやに動かした今迄も、ようやと絡まれたものも程説ほどとかれだらけた口元が赤い糸に寄焦よじれるくちづけ。


 赤い紅に染まる生臭い紅、噤んだ我儘でゐィって。

 大嫌いも洗いざらい、白んだ指を滑らせる 愚痴で犯して、ねえ。ああ、内々に籠る。白金で結ばれる絆。けれども、ありふれた日常は自然の摂理だから。ときはまってくれない、このままずっと夢をみていたいのに。


 白むだけのおそとなんて大嫌いだ。私はこの場で愛を手に入れたかったのです。行き場を亡くしてしまった魂は放浪を繰り返しやっぱり丸裸で透けて逝く、捕まえてもともにはなれない。命は尽きてしまった。だけどこの白骨に光は充ち満ちて、いつか私たちは共に成れる、その可能性だけを想い、未来を怖がらずに今を必死に耐え抜いてはその薄い皮膜、おんぼろの心に陶器の器を配し、面と皮にくだらない瘡蓋を纏う風采を整える。


 ほら、私たちに今が現れ、そして独り今を生きる。

 ボタンの取れた洋服で街は闊歩できない。繕っただけの安い常識では、そこが私の描いた仮想空間でも、打ち付けられた過去の釘によって、錆び出した私の体を蝕んで、時とともに風化させていければ、私は容易いだけ、都会に紛れてひそりと声もあげれず、目立たずにこの街に忘れ去られる影に成れるでしょう。出来るならば緋色の影に添われ眠りに誘われたいのです。いつか、本当に、終いを見つける時迄、最期まで夢の褥でいついつまででも出遭えましょうか。


 今生も来世も、貴方様をお待ちしております。それが愛という唯のモノなのでしょう。

 私たちは常に囚われている、思い込めればそれが楽で洛を覆う人という愛慾に支配された者のさがなのでしょう。おかわいそうに、かわいらしい。かたちなくしてつたわることはなし。


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