*第6話 絣(かすり

 年輪を刻む床板が、ひとことひとこと

 吐息すらでも軋むよう

 ぎしぎしと動かし続ける陽の満ち、

 私の足跡、で舞う。

 君がけほりといきを すう、と風化を覗く幸福な陽は、

 

 淑やかなカーテンと戯れては、君に 宙を泳がせる微風と気息。少しばかり開けられて、ほんのりと朱に潤う。朝の雫は拙くも伝う。温かく光が注がれて、いる、歪んだ隙間。

 乾びた地割れからは緑緑と若葉が顔を覗かせ、雑草の強さが影も落ちない鈍色に生きを這わす。

 

 朝日と共に洗われる日々、掻き変わる訳でも無いのにこの胸を抉る思いをすげ替えて終(しま)えるならば楽にしてあげたい。今日こんにちの陽を怨み、

 浄化の光であればいいのにと、願いたところで時の無駄なのだろう。

 

 日課である君の存在を認め終えるとようやと生きた心地がする。今日もまた迎えられたことに礼を抱く。諦めにも似た安堵感に身はどお と疲れ、これがまた朝光に呑まれ無くするよう、有難いとも想え。

 矛盾した日日。

 しかし赤子のように泣いて仕舞えば楽に生けるのか、誰も答えなど反さず。またしめしもつかないので、だが、君に認めて欲しくて踵を反したのちも無駄に鼻を啜り、大して隠しもせず此処から立ち去れずにいる。

 

 いつもと同じ時刻にさえずる小鳥たち、青い鳥のつがい。

 青空の広さのようでいて、海の深さでもある、息もできなくなるほど不快なアオだ。毎度毎度イロを変え愛を囁くよう見せつけるもので、日々、彼らが共に窓辺から立ち去るのを恨めしく思う。哀れなことだが、彼らには罪はないのだ。

 

 君はそれらには気づくことなく、呑気にも鼻歌を詠う、いつものように。

 はらはらと零れていきる。

 しかし涎塗れた朱墨の髪が、かたまりし間々重たげに風に乾いていくのをいつだって哀れとも可愛く想えたのは、の別れが最悪だったからで。

 

 口紅にも似た朱に染まる血痕は、病床に誂えた節の空いた欅の床をより一層黒く澱んませ、酷く傷んだものだと。永く使い込まれ汚濁を幾度も吸い込んだ我が家にすら決まって朝日を忍ばせる。

 ゆるりと溢れる塵芥が光と対流して苦楽も昏く楽時を刻んでゆく。

 道足りたときと想えば。

 今日はなにをいてしてあげようか、とうと、わすれられないおもいでを、我擦わすれてしまわぬよう、

 かぞえうたをしよう。

 

 すると、今日の君は童子のよう。大好きだけを繰り返す御人形に成りませう、と。

 当時(陶磁)のイロハを繰返すようで。ぎゅっと私を締め付けて抱っこをねだった。

 こわれものあわれとも合わさる事無く、意識と外面はちぐはぐに嵌るだけで偽りの今も、

 包み苦しくも、ふたりならおわりなき未知でゆく。

 

 だいぶ大人の君と一迄も幼馴染の私たちの紅差し指は鎖で繋がれているが、腐れ落ちた指先では糸は括れないから、最期まで一緒にいようねって、微笑み返すしかできることはなかった。

 

 昨今、しぶとくも好い因る何も識らない、無垢な君と共に、死装束で我が儘事を。

 如何かおしあわせに往けることを願う。

 打ち掛けとも白く赤く染まり往く誰そ彼の今。



静寂が流れ少しばかり眠りに尽き

 消えそうな軽さで存在を示す恋歌

 微笑む吐息は荒く押し混み噎せた

 重ねられた唇は今でもあたたかく

 虚ろ遺志傾いで不可思議可笑しく


 簡単に癇癪をおこすキミ

 今日和小さきお日様は光

 微笑ましい透き通る日常

 緩い積木は簡単に崩れて

 陶磁のひびは脆くて儚い

 幻想だと引き戻す我モノ


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