第2話 逢引

 ソコには確かにぽっかりと空いた穴。

 ぷかりと浮した彼方のお顔が、嗚呼。

 鎮まりし雫、青白い光に否が応でもくっきりと、私を見透かすように、底には何もいないのです。そうなのです、解っておりました。

 私を常々、素のお優しゅう笑みで縛り付けていたその眼球はとうに、身から崩れて転げ溶けて解けて……

 いつまでも私を睨み、ここにいてよ、ともう何もない、何も見えない世界にあなたはいないというのに。私はここに囚われ続ける、其れが好きであったから。


 忌忌しい酔いに浸る深縁の暗がりで、

 私は水面に遷る貴方を追いかけて滔々此処まで来てしまったのです。天の焔を遷す水鏡、煌々と朱い月が、恐ろしく凪ぐ天井に地は伝染るようで、

 未だ季節は春だというに。

 なのに何処からか紅葉、はらりと波風を落とし。

 ゆらゆら、と私自身も貴方の御顔も判らなくなりました。記憶が崩れて逝くように、池は大層 漣、まして 舞い散る光 中空の蛍。季節が、廻る視界が塒を巻いてゆぅるり宙を仰ぐ時。

 瞑られる視界に光が散開する、何処からか落ち葉 とんと入り。

 きえちまった生命が黒く瞬ぎ増して。

 一艘の小舟にはふらりふらりと真白に初雪が降りてゆきました。

 蕩けて仕舞え天鵞絨の古城、らくえんの焔に夢を見続ける

 羽根孵る空に崩れて、今宵は満月のように嘗ての愛が咽び泣く、鈴蟲はなにを喰ろうて生を魅せるか。

 其処に滔々諾々、水堪る。それだけが、杯もなく櫂もない。

 逝き場所を喪ったは逢い狂おしく愛らしい、彼方。

 怖色は奏多だけに届く合い弾き。

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