第8話 占領
「というわけで、次通るファンタジア領を占領する」
アグリオスは端的に言い放った。メルカは家が吹き飛ばされた事を思い出し少し嫌な気分になりながら挙手をする。
「ねぇ、どうして占領する必要があるの? 物資ならまだあるんでしょう?」
「もうすぐファンタジア領中枢『浮遊区画』に近づく。そのための前線基地が必要だ」
「だからあのSCORE連盟の船もついてきてるの?」
「そういう事だ。他に質問あるか?」
うーんうーんと唸りながらブリーフィングルームを後にするメルカ。アルが近づいてくる。
「どしたのメルちん?」
「いや、どうしてこう皆戦いたがりなのかなって……私も他人の事言えないけど……」
「んん? メルちんメルちん、占領って言ってもね。別に必ず戦闘になるわけじゃないんだよ?}
「え、そうなの? 地元に人からの反発とか」
「そりゃ個人で武装したチューニングクラウンを持っているならそういう人もいるだろうけど。基本そんな大金持ちいないし、いたとしても一人二人じゃどうしようもないよ」
「でも私の町では家が吹き飛んで……」
「あの時は何故か私達通るより先にファンタジアの軍が駐留してたから」
「え……嘘……」
「嘘じゃないよ~じゃなきゃあんな激しい戦闘にならないもん。というか繰り返すけど普通は戦闘なんか起こらないんだからね?」
ファンタジアの軍がメルカの町に来ていたなどという事をメルカは今の今まで知らなかった。もしその軍の狙いがディヴェルティメントに対するものでなかったとしたら。
「狙いは私と兄さん……?」
小声でアルには聞こえないよう呟いた。
ディヴェルティメントから各機発進していく。メルカもそれに続く。時刻は夕暮れ。赤く染まる太陽が街も空も染め上げる。
「結局、シャウト出してるけど占領って何するの?」
『チューニングクラウンの入れ替え。棒立ちして時空変異から町を守ってる在中のヤツをこっち製、SCORE連盟製に置き換えるの」
「なんだそれだけなら簡単だね」
「まあめんどくさいから元々あるヤツは怖しちゃうんだけど……ねっ!』
「えっちょっとアル!?」
アルのシャウトが射撃を見舞う。棒立ちのチューニングクラウンはもちろん躱しもせずに爆発四散。それに続いて次々と連鎖的に街を囲っていたチューニングクラウンが爆発していく。
「ちょっとアル!? やりすぎなんじゃないのこれ!?」
『違うよ! アタシは一体しかやってない! 他の皆もまだ撃ってない!」
「どういう事……?」
辺りを宵闇が包みだしたころ。この街に対する扱いをどうすべきか会議する事になった。
「罠だな間違いなく」
先陣を切ったのはサブリーダーのエウルだ。
「俺も同意だな、あのチューニングクラウンと同じような仕掛けやら地雷やらが設置されてるに違いねぇ」
それに答えたのはシャウトに乗りながら整備も兼任しているベテランのグラティオだ。
「だが民間人はどうする。少し調べたところ避難はすんでいないようだが……」
アグリオスが眉間に皺を寄せて言う。エウルが反論する。
「リーダー、だからそれが罠なんだよ。その民間人ってのは俺達に対する人質だ! だけど無視して効果無しって分かればきっとアイツらが勝手に自分で後始末してくれますよ」
「もう既にあの町は見捨てられている可能性は? 罠に使われている。罠として使いつぶされている現状。その後始末とやらが行われる可能性は高くない」
グラティオが挙手する。
「だがよリーダー。じゃあ民間人を助けるっていったって何か手はあんのかい?」
アグリオスは沈黙する。悩んでいるのが表情で分かる。そこでメルカが挙手をする。
「私が罠を解除しに行きます」
それは質問でも意見でもなく断言だった。
ノートに乗り込むメルカ。いの一番にクリュメに話しかける。
「ねぇクリュメ。索敵特化みたいな形態ってある?」
『勿論! 万能機体ノートに死角はありません! システムオルフェウスをイエローパターンに移行しますか?』
「うん、それでお願い」
黄色く染まる機体。流線型から丸みを帯びた形に。
『全方位レーダー起動! モニターに索敵結果出ます!』
そこには線だけで描かれたような街並みが広がっており、危険物だけが黄色く塗りつぶされていた。
「ビンゴ! 地雷の位置までばっちり! ……でこれからどうしよう」
『まずはこの結果を他の方々に報告してみては?」
「そうだ。そうしよう」
これでは使っているのか使われているのか分かったものではない。
「なるほど。確かに罠だらけだな。だが以外と隙間も多い。慎重に進めば躱す事も出来る……よし! このメルカが出した罠の位置を元に住民を一時避難させる。その後、総員で罠の解除! 異論のある者は!?」
誰も手を上げない。異論は無かった。
こうして避難活動が始まった。住民の誘導はシャウトに乗らず徒歩で向かう。その方が罠にかかる確率も低いからだ。一軒一軒の家を周り避難を促す。どこか虚ろな様子の住人達。自らが罠に捧げられた事を知って絶望しているのかもしれない。避難活動は夜が明けるまで続いた。
そして夜明け、今度は総員がシャウトに乗り込み、罠の解除を試みる。
そこで大活躍したのがベテランのグラティオだ。整備の知識を活かして爆弾を解体していく。
「ねぇクリュメ。イエローノートにも解体機能があるんだよね?」
『イエス! ありますとも。しかしあれほどの技を再現出来るかは少し微妙ですね』
イエローノートも爆弾を解体していく。作業は順調……のはずだった。
『敵の反応を検知! 爆撃です!!』
「嘘でしょ!? みんな避けて!!」
空からの一斉爆撃で街が炎に包まれる。住民の虚ろな表情の理由はこれだったのだ。どちらにしろ自分たちは、自分たちの家は助からないと分かっていたから。
燃え盛る炎の中。グリーンノート形態へと変化し難を逃れたメルカ。しかし墓の皆は……
「アル! ピア! アグリオス! エウルさん! グラティオさん! みんな!!」
そこで弱弱しくも反応があった。
『はーい……真っ先に呼んでくれて嬉しいよ。メルちんは、無事みたい……だね』
「アル!」
「こっちは手ひどくやられちゃったよ……でもみんななんとか生きてはいるみたい……ゴホッ』
「アル! アル!?」
『メルカ様! アル様の言う通り各機シャウト内に生命反応を確認! 皆さん無事です! ですから第二波が来る前に!』
「爆撃機を……落とす!」
飛び上がるイエローノート、そのセンサーは敵の姿をはっきりととらえる。
「光学迷彩なんて効かないんだから!」
レッドノート形態へと変化、
全弾命中。敵の光学迷彩が剥がれていく。現れたのはまるで巨大なコウモリのようなチューニングクラウンだった。
『全く……光学迷彩中は動けないっていうのに……』
全体通信。敵の指揮官機。
「悪いけど、ここで落ちてもらう……」
『あら怖い、だけどこの惨謀のトイファとこの『エレジー』に勝てるかしら?』
ブルーノートに形態を変化、敵へと高速で突撃するように疾駆する。
細身の剣が敵の羽に突き刺さる。しかし。それが蜃気楼のように溶けて消えていく。
『私の超迷彩機に普通の手で敵うわけがないわ!』
返す刀で足元のローラーを翼から生えた爪で壊されてしまう。
「だったら!」
イエローノート形態へ変化。レーダーやセンサーが感知した敵の姿が浮き彫りになる。
『その形態、戦闘に向いてないんじゃなくって?』
「うっさい! この場で解体してやる!」
メルカは怒っていた。感情的になりやすい彼女だが仲間を傷つけられた事がよほどショックだったらしい。
コウモリと黄色い丸。奇妙な物体同士がぶつかり合う、イエローノートに食い込むコウモリの爪。至近距離でエレジーの装備を解体していくイエローノート。
コウモリが距離を取る。そして放たれるミサイル。
「まずっ。グリーンノート!」
『了解!』
防御形態へ移行。すると途端にエレジーの姿を見失う。
「これじゃ埒が明かない!」
『メルカ様! 提案があります! オレンジノート形態への移行を推奨します!』
「オレンジノート? それってどんなっと!?」
敵の攻撃は続いている。
『目には目を、罠には罠を。です』
「信じるわよクリュメ!」
『了解! システムオルフェウスをオレンジパターンに移行します!』
緑の機体が橙色へと染まっていく。その姿はまるで蝶の様だった。
『鱗粉機雷散布!』
「え、なにそれってうわ!?」
ぶわぁという音が聞こえてきそうなほどの圧倒的な量の粉が辺りへとまき散らされていく。
「まさかこの粉が全部爆弾!?」
『イグザトリー』
「久々に聞いたわねそれ」
しかしこれで相手も迂闊に行動出来ないはずだ。もし好奇心で爆弾に触れでもすれば。
そして目の前に爆炎が広がった。
「ビンゴ!」
『馬鹿な! 惨謀のトイファ様がこんな!? 私がこんな!?』
「爆弾のおかわりならたくさんあるわよっと!」
鱗粉を爆発個所目掛けてまき散らす。たまらず逃げ出すエレジーもそれを避けきれず爆発に巻き込まれる。
荒れ狂う爆風の嵐。爆炎に飲み込まれた哀れなコウモリは地面へと落ちていった。
その後、イエローノートでエレジーを探し回ったがどうやら逃げられてしまったらしい。
消耗している仲間の事も考え、今回の戦闘はここまでにする事となった。
かくして予定外の襲撃はあったものの浮遊区画への前線基地を手に入れたディヴェルティメント。
メルカの運命が近づいてきていた。
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