第7話 SCORE連盟


 SCORE連盟の救助は予定よりも早く来た。時空変異によって生まれた特異な島の研究も兼ねているらしくディヴェルティメントの修理用以外の機材も多く持ち込まれていた。

「ねえ、ディヴェルティメントを修理するよりあっちの船貸して貰った方が早いんじゃないの?」

「残念だけどそれはダメだよメルちん。アレは修理用の船だからねぇ。戦うために出来てないの」

 メルカにはいまいち違いが分からなかった。

「やる事ないねぇメルちん。この島なーんにも無いし……」

「そうだねぇ……森林浴……って気分でもないし、なんかあの森マイナスイオンとかなさそうだし……」


「そこの君、君がメルカ・バートだね?」

 見かけない顔。SCORE連盟の職員だろうか。

「はい。そうですけど……」

「君と君の機体を是非調査させて欲しいと上から頼まれている。君はディヴェルティメントのメンバーではないため強制は出来ないが、どうか協力してくれないだろうか?」

「調査ってまさか、ノートを分解したり!?」

「そこまではしないと約束しよう。それに謝礼も出る」

 別に謝礼などいらないのだが……といった気分だったが。他にやる事も無し。

「分かりました。いいですよ」

「えっ! 本当にいいのメルちん! 断ってもいいんだよ!?」

 アルが心配そうにしている。それに笑顔で返す

「大丈夫大丈夫、悪いけど先に暇つぶししてくるよー」

 SCORE連盟の職員に案内され連盟の船へと乗り込んでいくメルカ。


 そこで行われたのは血圧、体温、血液検査。などの簡単な検査からレントゲンやCTスキャンなどなどの健康調査の様なものばかりだった。

「なんでこんな検査を? 私病気でもないのに」

「一つ気になる事があるんだ。さあ次で最後だ」

 一面の白に覆われた立方体の箱の中。奇妙な形の椅子がぽつんと置いてあるの部屋。その椅子は頭の方が頭を覆うような形に飛び出ており、手足の部分もそこを包むような作りになっていた。

「これはなんの検査?」

「時空変異侵度……君は時空変異に触れたそうだね?」

「ノート……チューニングクラウン越しにですけど」

「うん、それでも何か身体に影響がないか調べる装置がこれなんだ」

「なるほど……」

 椅子に座る。頭の部分は口と鼻以外すっぽり頭を覆ってしまう。手足も突っ込むとぴったりと包み込まれる。身動き取れない状態に少し不安に駆られる。


「誰かいますかー」

 返事は無い。もう職員は出て行ってしまったらしい。グイィーンという低い駆動音が鳴る。バッと目の前が光に包まれる。映し出される景色は今までの情景だ。ただし時空変異に触れた時とは違う。兄と過ごした記憶が映し出される。それが加速する。何倍速にもなって駆け巡っていく。そして今に追い付く。メルカの住む町が革命軍に襲われた。そうそれが始まりだった。そしてノートに乗る事になった私はファンタジアと敵対する事になる。しかし、それとは関係ないように、まるで私自身に何か狙われる要素があるかのように次々とファンタジアの指揮官機が現れる。そう最後は……。爆発。『ぐっ! ここまで、か!』最後の声。

(私は……人を……殺して……ぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!)

 発狂。メルカは初めて他人の命を奪ったという経験が思い出されたせいで改めて蓋をしていた気持ちが溢れ出してしまったのだ。

 

 はじけ飛ぶ装置。いつの間にか白い立方体はぐにゃぐにゃに歪んでいた。そして目の前の景色も滅茶苦茶に壊れている。これは――

「時空変異……!?」

 でもなんで? という気持ちに襲われる座っていた装置は壊れ部屋もぐちゃぐちゃになるほどの時空変異がこの一瞬で起きた。原因は……

「私……?」

 部屋から出ようとする。しかしすぐ目の前にあるはずの扉に手が届かない。歩けども歩けども前に進まない。かと思ったら一歩進んだだけでドアに叩き付けられた。

「痛っ……」

 時空変異でまともに進むことも出来なかったがなんとか扉までたどり着いた。開けようとする。しかし。部屋が歪んでいて開かない。

「助けて!」


 自分は一体何者なんだろう。

 壊れた部屋に閉じ込められたメルカは一人考える。

 兄とだけ過ごした幼少期、無い母と父との記憶。

 自分にだけ動かせるという機体ノート。

 そして時空変異に触れて見たルストラ・バートと兄の過去の映像。

 さらに自分が引き起こしたかもしれない時空変異。

 これだけの要素が揃ってなお自分が何者か分からない。時空変異に関わる重要な何か。そうなのかもしれない。もしかしたら自分は人間ではないのかもしれない。

 ひどく怖くなる。目の前の歪む景色がおどろおどろしい。

 その時だった。部屋の壁が壊される。現れたのはチューニングクラウン……シャウトだった。

『メルちん無事!?』

 外部スピーカーで話すアル。その存在を見てほっとしたメルカは思わず意識を失った。


目が覚めたのはすっかり慣れてしまったアルとの相部屋である自室だった。

「ひどいよねあいつらメルちんの事騙したんだよ?!」

「騙した……?」

「時空変異侵度検査なんて嘘っぱち! ホントはメルちんの頭の中を覗き込もう

としたのよ! 許せないったらないわ!」

 隣のベッドからアルは非常に激怒していた。

「アルは見守ってくれてたんだね……」

「もっと早く止めれたら良かったんだけどね……ごめん」

「ううん、謝らないで。ありがとうアル」

「良いって事よ! メルちんのためなら火の中水の中だよ!」

「……修理が終わったらファンタジアの本拠地を目指すんだよね?」

「うん。それがどうかした?」

「いやきっとそこに行けば分かると思って」

 メルカの顔は真剣だった。

「分かるって何が?」

「私が、何者なのか」

 沈黙に包まれる部屋。しかしアルはそれ以上追求しないでいてくれた。追求されても答えなど出ないだろうから。

 答えはきっと行く先にある。兄の言葉が蘇る。『メルカ……戦え、そして勝ち取るんだ……! お前の運命を……!』自分の運命とは、自分の正体とは,だんだんと兄の言いたい事が分かって来た気がする。


 メルカは眠りにつく。もう悪夢のような過去は見ない。

 隣のベッドでアルが寝ているという安心感もあってその日メルカはよく眠る事が出来たのだった。

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