第6話 猛将
巨大な砲塔を片手に携えたカノン。各種砲塔を全身に備えたレッドノート。今、壮絶な銃撃戦が開始されようとしていた。
だがその時!
『まずはこちらも邪魔な者達にご退場願おうか』
それは砲塔であって砲塔ではなかった。巨大なビームカッターだったのだ。
それを勢いよく振り下ろすカノン。ディヴェルティメントが真っ二つになるかと思われた。それほどの衝撃。そしてまだ終わらない。横薙ぎに一閃。シャウトを蹴散らすように光剣を振るう。
『全員避けろぉ!』
アグリオスの号令でディヴェルティメントを盾にして何とかして躱すシャウト。
「相手は私でしょうが!」
メルカがレッドノートの砲弾、ミサイル、レーザーを一斉に発射する。それはカノンに直撃した!
煙る戦場、やったか!? と誰かが叫んだ。煙の向こうから現れたのは無傷のカノンだった。
「嘘……でしょ……」
『無敵の防御が自分の専売特許だとは思わない事だ……そして……!」
巨大な光剣が迫る。ハッと意識を目の前に集中させるメルカ。ギリギリで躱す……いや躱しきれない!
「きゃああああああああああ!?」
一撃で半壊にまで持っていかれた。ノートの無敵の装甲を貫いて。
『おい! 大丈夫かメルカ!?』
衝撃でコンソールに頭を思い切りぶつけて額から血を流しながらもメルカは吠えるように返す。
「全っ然平気よ!」
一旦レッドノートを通常のノートに戻して状態回復を図るメルカ。壊れて個所は無くなったものの攻撃手段も無くなったに等しい。ビームハープであの光剣を受け止める事は出来ないだろう。
「ねぇクリュメ。防御に特化したパターンってある?」
『はいグリーンノートがあります……ですがそれでもあのビームカッターに耐えられるかどうかは未知数です……』
「耐えられる可能性があるならそれでよし。グリーンノート起動!」
『了解、システムオルフェウス、グリーンパターンに移行します!』
ノートの形が流線型から球状へと変わっていく。緑色の機体には各所に突起がついていた。
『追加時空防御層、展開します!』
クリュメの宣言で突起から何かが放たれるのをメルカは見た。それは島で見た時空変異を思い出させた。
「時空変異を防御に転換してるのか……これならいける……?」
『いえメルカ様、時空防御層は常にノートに展開している防御機構です。あのビームカッターはそれを貫いてきたのです』
「って事はソレを追加しても破られる可能性大ありって事か……ううんでも他に手も無いしこれで行く!」
グリーンノートは加速する。防御形態ゆえスピードは出ないが、それは相手も同じ、攻撃が大振りな相手は攻撃後に隙が出来る。
『形態変化とはな……もはやそれはチューニングクラウンではあるまい……』
相手の言っている意味が分からなかったメルカだったが無視して突っ込む。すると敵の一撃が迫る光剣が目の前いっぱいに広がっていく。
(耐えて! お願い!)
祈った。そして――
光の奔流の中を突き進むグリーンノートの姿がそこにはあった。一撃で戦艦を沈める。その威力に耐えている。
「よし!」
『なんだと!?』
光の奔流が通り過ぎていく。振り過ぎたのだ。さあ次はこちらのターンだ。カノンへと最接近する。
「レッドノートに変更!」
『了解、システムオルフェウス、レッドパターンに移行します』
敵の目の前で赤く染まる機体。その砲塔は全てカノンへと向けられていた。
「超近距離……一斉発射!!」
爆撃、爆炎、爆音、爆発。レッドノートの目の前が火の海と化す。ガシャンと音を立ててカノンが膝をつく。焦げ付いた装甲、手に持っていた砲塔はへしゃげ、全身が熱で溶けかけていた。
「やった!」
『いいや、まだだ』
バークの声。カノンは(良かった殺していなかった)と一瞬。安堵してしまう。しかし、相手にまだ戦闘続行の意思がある事に驚きを隠せない。
『アーマー、パージ!』
バークの一声でカノンの装甲がはじけ飛んだ。目の前に居たレッドノートは弾丸のように飛んでくる装甲の破片をモロに喰らってしまう。そして目の前に現れたのは鎧武者の様だったカノンではなく細いシルエットの騎士甲冑のような姿と細いビームカッター、さしずめビームレイピアと言ったところか。
「第二形態!?」
『何を驚いている、お前にはもっと形態があるのだろう? さあそれを全て見せてみろ!!」
レイピアの鋭い突きが来る。レッドノートでは躱す事が出来ない。砲塔を一つ一つむしり取られていく。
「クリュメ! ブルーノート!」
『了解、システムオルフェウス、ブルーパターンに移行します』
ローラーで空中を駆ける。するとどうだ。驚く事に相手も空を飛んできたではないか!? メルカは驚きのあまり逃げ回ってしまう。
『何を逃げている! 戦え!』
その言葉がメルカの心を揺さぶった。
『メルカ……戦え、そして勝ち取るんだ……! お前の運命を……!』
兄の言葉。それが何を意味するのか、メルカは未だに理解に至ってはいない。しかし。それでも自分は勝たなくてはならないと、そう心に誓った。だから。
「ディヴェルティメントの皆! 力を貸して!」
意地でも勝つために手段は選ばなかった。自分を囮にしてシャウトにカノンを狙ってもらう。これが今考えうる最善手。
『総員! ジョーカーを援護しろ!』
アグリオスの号令。
『『了解!!』』
力強い皆の返事。それが心強かった。頼もしかった。
こうして総力戦が始まった。
カノンのビームレイピアの一撃をバレエのダンスのように躱すブルーノート。そこにシャウトの援護射撃。カノンはそれを避けるために行動を狭められる。そこに細身の実体剣で斬りかかりつつ一撃で離脱。離脱したところに援護射撃。これを繰り返す。
『ぐぬぬ。なんという連携……!』
「私達いつの間にこんなチームプレーが出来るようになったのかしら?」
『何言ってんのメルちんアタシ達もう親友でしょ?』
『そうっすよ姉御!』
『ま、一応同じ釜の飯を食う仲間だしな』
『短い期間だったかもしれないが確かに俺達は仲間になったという事だ!』
仲間……そう仲間の声に励まされる。
一撃、離脱、援護射撃。ヒットアンドアウェイ戦法を続ける。空中でちょこまか動くカノンとブルーノートにシャウトはバッチリと射線を合わせてくれる。
そして決着の時は来る。
「……今!」
キィンという音と共に、敵のビームレイピアをはじき飛ばした。手から武器を奪われたカノンにシャウトからの一斉射撃が見舞われる。
『ぐっ! ここまで、か!』
爆発。とうとうカノンが停止する。
長い戦いの決着だった。
壊れたディヴェルティメントに帰投する。
「これからどうするの?」
「とりあえずディヴェルティメントを修理せにゃならん」
アグリオスは頭を掻いてディヴェルティメントの傷を見上げる。
「そのためにはSCORE連盟の救助を待たないと……ですかね」
エウルも同じように傷を見上げていた。
「えー、って事はしばらくこの島で足止めって事ですかぁ?」
嫌そうにアルが言う。
「まあそう嫌がるな。虫もいない綺麗な島じゃないか」
「いやまあそれはいいんですけど、そういう問題じゃないというか……食料とか持ちます?」
「それなら心配ない、補給したばかりだからな。救助じゃ一か月後とかにならん限りは平気だ」
アルとエウルの掛け合いを見て無事に戦闘を終えれた事に安堵するメルカ。しかし彼女には思う所があった。
(私、人を殺しちゃった……んだよね)
皆でやったからとかそういう事ではない。そういう線引きで逃げる事は出来なかった。
戦え。と兄の言葉が頭の中で響く。小声でつぶやく。
「一体、何を掴めっていうの兄さん……」
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