第3話 敵将襲来
ディヴェルティメントに乗り込んでからしばらくが経った。今日は革命軍の占領区で物資補給をするらしい。どうにもメルカの町に着いた時点で物資はギリギリだったんだとか。メルカはアルの監視付きでの自由行動が許された……何か矛盾している気もするが。
「さて、どうしようか。メルちん」
「アル。そのメルちんっての止めてって言ってるじゃない……」
今、メルカとアルは街の中に居た。一時期は戦場になったとは思えないような場所だった。大きなショッピングモールが遠くに見える。
「お、あそこ行ってみる? 色々売ってるよ」
「そうね……服とか買いたいかな……」
軍服じみた。というか軍服な革命軍の制服には飽き飽きしていた。
「よしじゃあアタシ車出すよちょっと待ってて」
そう言って今は地面に着陸しているディヴェルティメントへ戻るアル。しばらくすると小さい二人乗りの車に乗ってやってきた。
「ごめん、これしか借りれなかった。他は食料の買いだしとかに使ってるみたい」
「ううん、これで十分」
助手席に乗り込むとショッピングモールに向かい車は走り出した。
中に入ると上まで吹き抜けがある開放的な空間でピカピカに磨かれた床がメルカの姿を反射していた。様々な店が立ち並び。メルカの居た町の商店街を何倍にもオシャレにして何層にも重ねたような印象を受けた。
「どう、すごいでしょ?」
「うん……すごい」
「さ、洋服売り場は二階だよっ」
メルカの手を取り進むアル。それに引きずられるように進むメルカ。相変わらず辺りを見回して物珍しそうにしている。
「メルカってもしかしてこういうとこ来た事ない?」
「うん、だってあの町、田舎だったし」
「あー、まあ確かにねぇ」
洋服店もいくつも並んでいた。まずどの店に入ればいいのか分からないメルカ。またもアルに先導され進んでいく。
「このワンピースとかいいんじゃない?」
「ホントだ……かわいい」
それからもアレがいいコレもいいソレはダサい等々、二人で姦しく喋りながら買い物を進める二人。そこでメルカは気付く。
「私、お金持って来てない……というか持ってない」
「あー大丈夫大丈夫。今回は私が払っとくし、そのうち上からメルカにも給与が行くだろうし、その時返してくれればいいよ。あ、このシュシュはプレゼントにしといてあげる」
「……革命軍の上って?」
「知らないの? SCORE連盟。対ファンタジアを掲げる国々の集合体だよ?」
知らなかった。メルカの通っていた学校の教科書にはファンタジアの功績などがデカデカと歴史として語られていたが、革命軍の事などはテロの一種としか書いていなかった。またしても自分の無知を自覚してどこか恥ずかしくなる。
「どったのうつむいちゃって」
「いや私なんも知らないなーって」
「そんなのみんな一緒だよ。全部を知ってる人間のが少ないに決まってる」
アルの意外な言葉にきょとんとするメルカ。
「アタシもさ、実は学校とかまとも通ってなくて馬鹿なんだよね。ディヴェルティメントの皆が勉強教えてくれたりしたけどさ。それでもまだまだでエウルなんかには『お前は勉強より戦闘のが向いてるな』とか言われちゃったりさ」
隣人の言葉に励まされたような、どうリアクションすればいいのか分からなくなるような不思議な気持ちにさせられた。メルカがそんな状況の中、アルは会話を止め、洋服の会計を済ませる。
「はい、このシュシュ付けて行きなよ。戦闘の時そのロングヘアじゃ邪魔になるときもあるでしょ?」
「う、うん」
言われるがままポニーテールにするメルカ。
「おお似合ってる似合ってる!」
「そ、そうかな……でもそんなすぐに戦闘なんて起きないで――」
しょ。と言い切る前に爆音が遠くから聞こえてきた。
「嘘でしょ……!?」
急いで車に乗り込む二人。既に戦闘は始まっている。シャウトとハミングが各地でぶつかり合っている。
「まさか占領区に戦闘を仕掛けてくるなんてね。ホントにメルカって狙われてるのかも!」
アクセルを全開にして走っていく。他の車を器用に躱してぐんぐんディヴェルティメントを目指して進んでいく。その時だった。ハミングが目の前に現れる。
「ま、まず!」
「まずくない!」
ハンドルを切るアル。ハミングの足と足の間、股下をくぐり抜け、そのままハミングを無視して先を急ぐ。後ろでダダダダダッという銃撃音が鳴り響く。しかしそれはこちらを撃ってきたモノではなく。味方のシャウトが先ほどのハミングを攻撃した音だった。振り返ってそれを確認するメルカ。
ディヴェルティメントに乗り込む事に成功した二人。それぞれの搭乗機に乗り込む。
「クリュメ! ノート起動して!」
『了解です! ノート稼働開始! システム・オルフェウス、オールグリーン!』
カタパルトからノートが射出される。続いてアルのハミングも発進する。
街は混乱状態だった。あちこちで起こる戦闘、逃げ惑う人々。この中に兄さんはいるのだろうか。自分は何をすべきなんだろうか。メルカはここに来て自分のやるべき事を見失いかける。
『未確認機発見! やっぱ姉さんの情報は正しいなぁ! さぁ大人しくファンタジアに投降しろ!」
一機の白いハミングとも黒いシャウトとも違う白と金で彩られた機体が全体通信でこちらへと呼び掛けてくる。未確認機というのが自分だと気づいたメルカは、その敵へと対峙する。
『へへっ、投稿する気になったか?』
「私の兄さんはどこ? ファンタジアに追われてたって聞いた」
同じく全体通信で話しかける。
『あ? あー……あのもう片方のオンボロ機体の事か……そうだな、お前の兄貴とやらはこっちで預かってる……多分な。つーかそんな事どうでもいいから機体置いてけ! ああいやお前も投降しろ!』
「多分なんて不確かな情報じゃ行かない。私は自分の目で兄さんの無事を確かめる」
ビームハープを構える。
『……は? おいおいこの新星のキール様に逆らうっての? 俺の『キャロル』はハミングとは違う。お前に勝ち目なんてねえ!』
「私のノートだって他のチューニングクラウンとは違う。絶対負けない」
『……いいぜぇ! やってやろうじゃねぇか!』
背中から巨大な両手剣を取り出すキャロル。その刃は青く輝いていた。ビームハープの弦と青い刃がぶつかり合う。互いに斬れる事なく鍔迫り合いになる。
『へぇ、このプラズマブレードとかち合うとはねぇ!』
キャロルの蹴りが飛ぶ。それをフィギュアスケートの回転のようにひらりと躱してみせるノート。そしてその勢いを利用した裏拳を繰り出す。見事にキャロルの顔面を捉えた拳が相手を弾き飛ばす。地面に倒れ伏すキャロル。
『俺が・・・・・・倒れてる……? おいおいおいおい嘘だろ』
「アンタのお姉さんとやらに私の兄さんの事聞いてくれない?」
さして気にしていない風のメルカ。ノートに乗っているとどこか全能感のようなものに包まれるのだ。
『うるせぇブラコン野郎!』
両手剣が真ん中から二つに割れる。そこからプラズマの奔流がノートに向かって放出された。しかしノートは避けない。
『ちょ、メルちん危ない!』
どこかからこちらを見ていたのだろうアルからの注意が飛ぶ。しかしノートは動かない。プラズマの奔流の飲まれるノート。
『ひゃ、ひゃははは! やった! やったぜ! って違う違う、ああもういい残骸でもいいから回収を――』
「その心配ならいらない」
そこには無傷のノートが立っていた。ノートはビームハープを構えると滑るようにキャロルに突進する。
『おい、来るな! やめろぉ!』
ガキィィィン!という金属音が街に鳴り響く。ビームハープの弦ではなくそれを張っている剣の部分でキャロルを思いっきり叩いた音だった。頭がぐしゃぐしゃに潰れている。
「これで他のチューニングクラウンが居なくちゃ時空変異から逃げれなくなったね」
メルカはどこか嘲笑うかのように言う。彼女はどうしてしまったのだろうか。
『クソックソックソッ! ふざけやがって! 絶対覚えてろよ! 俺の名前は新星のキー』
ブチッと全体通信のスイッチを切った。そこにアグリオスから革命軍メンバーへの通信が入る
『敵指揮官機撃破、他のハミングも撤退している。我々の勝利だ皆帰還してくれ』
結局、それらしい情報は得られなかった。ただ可能性は上がった。
兄はファンタジアに居る。メルカは自分が狙われている事など構いもせずに。
その事だけを考えていた。
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