Märchen richten Träumerei
【御伽噺が夢を裁定する】
『richten』
・裁く
・向ける
・調整する
・設定する
転じて、意義を見定めること。
♪
とっておきの秘策を明かそう。
それは魂の煌めきを投資する、囁きの悪魔との契約。
「出来る、よな?」
「うん、可能だ」
あっさりと肯定されて拍子抜けする。αは飄々と。
『それを試していない僕だと思ったのかい? 皮を被った終わりのあやかには、人間と同じように感情がある。情念がある。君の廃棄体とも一度契約を交わしているはずだ』
それは一番目、否、記憶の彼方に放逐された零番目のあやか。
九番目のあやかはここに来てようやく気づいたのだ。あやかたちを繋いだこの記憶の糸は、決して捏造などではない。隠された最後の謎、その答えをあやかは口にする。
「有り得ない現象を実現する――――即ち、魔法」
始まりの願いを思い出す。これは、これだけは覚えていた。
世界一幸せだと信じていたあの頃。あの純真な気持ちがこの奇跡を成就した。辛く、長く、苦しい戦い。しかし、そのおかげで彼女たちと関わり逢えた。真由美と友達になれた。
「真由美の言うとおりだったよ」
あやかは立ち上がった。一歩前に出る。この一分一秒が奇跡の連続。崩壊する世界には、たった二人分の広さしか残っていない。それでも、可能性だけは無限に
「『終演』という名前の破壊神。俺は神殺しの神話を成した。親玉がその
『ああ、その通りだ』
「チャンスはあるんだな」
何の、と尋ねるほど野暮ではない。
『本当にいいのかい? この先は『本物』だ。過酷で苦しい戦いになるだろう。君はもう十分戦い抜いた。これ以上は何も無いんだ』
突拍子もない提案に、αは思念をぶつけた。もしかしたら心配してくれているのかもしれない。そうだとしたら、とっても嬉しい。
「何があるのかは自分で決める。進む道は自らで選び取る」
挑戦する。意志を示せ。世界を拓け。
それが出来るのならば――――きっとそれは『本物』だ。
「もっとドキドキしたくないか? 俺たち二人で全てひっくり返そうぜ!」
「いいだろう」
囁きの魔力が脳を犯す。その魔毒を、あやかは笑って受け入れた。
「僕も覚悟を決める。これは君と僕の契約だ」
白い翼が空気を打つ。崩れ落ち、ただの瓦礫にまで成り果てた世界。翼が包み込む魂に、紅蓮の光が灯る。
「これまで幾重もの絶望を踏破した君に敬意を表する」
「悩み、苦しみ、それでも進んで来たこの輪廻の中」
「それでも内に意志を宿し、そして外に示してきた」
「その信念は『本物』であり、抱く情念は承認された」
「始原のαが紅蓮の意志を肯定、証明しよう」
「さぁ、願うといい――――」
「アタシは――――『本物』になりたい」
「さぁ、ここから先は『本物』同士の戦いだ。健闘を祈るよ」
「なぁにシケたこと言ってやがる!」
あやかは手を伸ばす。崩れ落ちる世界から、αを引き上げるかのように。
「特等席で見せてやる。お前も一緒に行くぞ!!」
♪
白い光の中、少女たちは再会する。
「待たせて悪かったな」
「ううん、来てくれただけで嬉しい」
起こるはずのないことが起きた。奇跡の具現化。その祈りは世界を越える。
「助けにきたよ、真由美」
「一緒に戦おうね、あやか」
分かり合うはずのない二人の少女。因果は巡り、今こうして。
嬉しそうに笑う少女に、少女は嬉しくなる。感情が爆発する。これが、『本物』の煌めき。
「私ね、ずっとこんな風に誰かと並び立ちたかった。あんな風には強くなれなかったから」
「一緒だよ。俺も、強くなれなかった。でも、きっとなれたんだ。だからここにいる」
夢が叶ったよ、ありがとう。
終わりのあやかから昇華したマギア。唯一始原の存在、αを引き連れ、外の世界に降り立つ。その姿が、背中が、あまりにも、
夢見がちな少女は、ふんわりと微笑む。
『貴女は私の勇者さま』
大道寺真由美が、
無上の幸福を噛み締める。祝福されて紅蓮の意志が咲いた。
世界が拓く。
紅蓮色のマギアが、色の無い世界に降り立った。
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