トロイメライ・ラストコール
【トロイメライ、最終決戦】
『始まりの門』
少女の想いと悪魔の投資。
自称マルガレーテの死体から最初のネガは生じた。
何百年もの時を彷徨い、悪魔と少女はついに再会する。
長い長い物語の門出を二人でお祝いしたものだ。
『終わりの砂時計』
悪魔が夢見た情念の行き着く果て。
悪魔が描いた終わりは本当に存在したのか、女神すら知りえない。
どこで生まれ、どこから至り、どこへ沈んでいくのか。
終わりなんて、本当はないのかもしれない。
♪
運命の至る空。最果ての時。
そして最果ての始まりへ。
荒れ狂う空模様から、ひび割れた星空が見え隠れする。全てを薙ぎ払う暴風圏が少しずつ近付いてきた。その真っ正面に、二人の少女が立つ。
「よお、覚悟はいいかい?」
「とっくに決まっているわ」
あやかはえんまに拳を向ける。小首を傾げる少女に、あやかは苦笑を浮かべた。
「こういうときはな、拳を合わせるんだよ」
よく分からないまま拳をぶつける。何の意味もない行為。しかし、そんな姿がどこまでも人間味に溢れていて。
えんまの口元が少し綻ぶ。
「貴女は紛れもなく『本物』よ。私が保証する」
今度はあやかが面食らった。
「でも忘れないで、
どのような道を歩み、どう在りたいか。
人は惑い、迷い、歩いていく。それこそが迷いの六道。人としての
「立ち止まって、打ちのめされて、それでも踏みとどまった。お前にとってもここがスタートラインだ」
これまでずっとマイナスの道を歩んできた。
だから、ここから、きっと。
あやかは、えんまは、一歩踏み出す。
「「さぁ来い――――運命を乗り越える」」
入場のファンファーレ。色取り取りの灯火に、極彩色の地面。世界が侵蝕される違和感。脳内を揺さぶる悲鳴。二人と『終演』との間に始まりの門が聳え立つ。
「「こいつ、あの時の!?」」
奇しくも言葉が被る。どちらの記憶にも残っている最初のネガ。どうしてここに、という疑問が奇声に掻き消される。
「PGYUUUUUUUOOOOOOOOOOO[[:[:――――!!!!」
極彩色の凱旋門が爆走する。
二人が咄嗟に左右に分かれた。
「始まりの門――ッ!?」
アリスの言葉を想起する。この世界は始まりの門と終わりの砂時計に支えられている。固定化された空間の壁に凱旋門が動きを封じられた。えんまの目配せを受け、あやかが拳を握り締める。
「リロードリロード――インパクトッ!!」
爆発的拳撃。阻む空間ごと極彩色を破壊する。トロイメライもジョーカーも、最初の頃から比類なき成長を重ねていた。始まりなどもはや敵ではない。
だが、始まりはどこまでも纏わりついてくる。全てのものに始まりはあり、決して消えずに残り続けるのだ。
「キャハ」「キャハハハ!」「ハハハハハ!」「キャハハ!」「ハハ」「ハハハハハ!」「キャハハハハハハハ!!」
飛び散った極彩色の破片が人型を彩った。それが、幾つも。まるで『M・M』の呪詛人形のようだった。動き始める『終演』に呼応するように、極彩色の少女たちが殺到する。
「走って――ッ!!」
えんまが叫んだ。両手に小銃を握り、発砲。狙いも、反動でブレる体幹も、お構いなし。空間を跳躍して極彩色の少女たちを撃ち抜く。
「リロードロード!!」
『時空』の
道は出来た。灰色の道で急加速、一息で重力崩壊圏まで突入したあやかは拳を握る。
「イ、ン、パ、ク、ト――――キャノンッ!!」
砲弾の如き一撃。崩壊した力場を伝って、終わりの砂時計に届く。派手にぶっ飛ばされた『終演』だが、威力は半減以下に殺されている。何事も無かったかのように再浮遊し始めた。
「いいぜぇ――ッ」
「囲まれるわ! すぐ、離脱を!」
えんまが声を張り上げた。あやかはすぐに下がる。殺到する極彩色の殺意。数が多い上に、一体一体がそれなりに強い。追う極彩少女らを銃弾が次々と撃墜していく。
「……あんまり、突っ走るとやられる、かも」
「助かった。今ので決まるほどヤワじゃねえか」
高層ビル群を巻き込んで上がった土煙の中。
運命の砂時計がその存在を誇示する。
「今度は二人で」
あやかは頷く。機動力に任せて先行しようにも、極彩色の少女どもの数が多すぎて追撃される。多数相手を苦手にしているあやかには相性が悪い。
「そうだ! アリスはどうしてる!?」
蹴りかかる少女の足を掴んでぶん回す。遠方から飛んでくるビームがたまたまその少女に当たって蒸発した。始まりの門の破片、極彩色の少女。彼女らはなんでもありだった。
「近い。けど、気配が多くて、どれが本命か分から「来るぞ!」
暴風に攫われ、根元から引き抜かれたビルが飛来する。囲う極彩少女を銃弾が襲い、あやかは周囲を気にせず拳を握る。
「クラッシュキャノン!!」
粉微塵に砕け散るビル。後ろからえんまが追い抜き、銃口を前に。
「捉えた」
真っ正面、『終演』。
無限に湧いてくる門の破片に囲われ、巨大な火球を携える。
「行け、えんまッ!」
両手の小銃を極彩色どもに投げつける。空間歪曲、拡散。暴発した銃弾と銃の破片が炸裂する。えんまは両手を前に。『終演』の居る空間そのものを握り潰すため。
『終演』が巨大火球を吐き出した。圧倒的な質量。えんまの狙いが必然的に相殺に移る。
「リロード! リロード! リロード! 突っ込めええ!!」
しかし。
遮るようにあやかが前へ。
「
増幅された破壊魔法。巨大火球に真っ正面から衝突する。
衝撃がうねり、莫大な熱量が心身を溶かす。あやかは力の限り吠え猛った。それでも勢いの落ちない大技を、その身を以て引き受ける。熱量が削れて小さくなった火球を両腕で抱き抱え、ロードで軌道を変えながら諸共大地に落下する。
「歪めぇぇぇええ――――!!!!」
えんまが両手を握り締める。運命の砂時計が有する圧倒的な存在。ソレを空間諸共潰し壊す。大岩を素手で握り潰すような無謀さ。だが、魂の煌めきを賭ければ或いは。
(見極める)
あちこちから湧いた極彩色の少女らが寄ってくる。時間は与えられない。タイミングを逃せば嬲り殺しにされる。『終演』を囲う彼女らが一斉にこちらに向かって飛翔し始める。
「――――今!」
同時、えんまが両手をバッと開いた。一点に凝縮させた空間が、歪んで、弾け跳ぶ。まるでゴムの反動のような衝撃波。この揺らぎの波動こそが空間歪曲の真骨頂。
見えない衝撃波が、極彩色の少女らを片っ端から薙ぎ払った。放った張本人すら容赦無く撃墜される。それでも、歪みの芯中に在った『終演』こそ無事ではいられないはずだ。
♪
「⋯⋯⋯⋯よぉ、無事か?」
「⋯⋯⋯⋯ええ、なんとか」
お互いボロボロになりながら、拳を合わせる。支えながら立ち上がる少女二人は運命の最果てを見上げた。
すぐ近くに叩きつけられたのは何かの因果か。どちらも決して少なくないダメージを負っている。爆炎と土埃に覆われて何も見えない。だが、それも僅かな時間で晴れた。
「こいつ⋯⋯不死身、かよ?」
見上げる光景。極彩色の少女どもが哄笑を上げる。
『終演』は――――健在だった。
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