九、「貴女は私の勇者様」

ヒーロー・オリジン

【ヒーロー、漆黒起源】



 短い人生を省みると、十二分に悲劇的ヒロイックだった。

 不幸を経験した。不運に見舞われた。理不尽に襲われた。行き着く先の袋小路デッドロック。しかし、少女の激情スパートは全てを塗り潰した。その原動力は、圧倒的な欲望デザイア

 欲があった。

 才能があった。

 可能性があった。

 少女は主人公ヒーローとして羨望の目を向けられ、多くの腕に求められる。人の身に降りかかる幸運と不幸、その全てを笑って踏破する。手を伸ばせばきっと届く。だから伸ばし続けた。


 高みは果てしない。


 究極の頂を見据える。


 少女が出した答え――――神の座を。


 生も死も飲み込んで、現も夢も塗り潰す。そんな少女は圧倒的な『本物』だった。一片の偽りも存在しない。届く。届く。きっと届く。手を伸ばし続ける。伸ばして、掴んで、また伸ばして。さらに、もっと、貪欲に。

 そうして、少女は神の座に指を掛けた。

 女神アリス。情念の連なりが至らせた、神至りの少女。その運命的な光に焦がれる。羨望。その座をこの手に掴む。だから手を伸ばした。


 結果、敗北した。

 だが、勝利も敗北も、少女の腕は止められない。


 鮮やかにおおせるその魂は全てを塗り潰す。絶対的な魂の煌めきは人を惹き寄せ、憑き壊す。高月あやかは止まらない。誰にも止められない。世界も神も、自分の世界で塗り潰す。

 少女は太陽を見上げた。



「太陽は、全てを塗り潰す漆黒の座。俺様がいつか届く頂きだ」

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