tea party 7

【茶番7】



「執念の紫、我執に染まって色を持ったか」


 色彩が溶け落ちた世界。

 最期の一杯。すっかり冷めてしまったカップを片手に向かい合う。広がるゲーム盤に視線を落とす。並ぶ駒には鮮やかな色が輝いている。


「影であることを欲した。それは自分の世界に閉じこもって、勝手に完結してしまったに過ぎない」

「手厳しいな。お前は違うのか?」


 少女が顔を顰めた。


「ここは俺様の世界だ。そして、ここが世界を覆えば、全てが俺様の世界の範疇だ。暁えんまが挑むのはそういった戦いだよ」


 他者を通じて存在意義を探した英雄ヒロイックとは真逆。自己完結した物語で世界を塗り潰す。


「まあ女神に届くはずもねえと思うが、健気さを見守ってやろうぜ?」

「…………そんなに悠長でいいのかしら?」

「あん?」


 少女は残った紅茶を飲み干すと、カップを投げ捨てる。に飲み込まれ、音も無く消えた。


「高月さん。ねぇ、高月さん。貴女はもう詰みかけているのよ、高月さん?」

「うるせえ何度も呼ぶな」


 高慢不遜。

 三日月のようなギラギラした笑みを浮かべる。両足を乱暴にテーブルの上に乗せて、威圧する。高月さんの前に並ぶ駒は全部で五つ。橙、赤、緑、黄、紫。

 対する少女の前には――――


「……なんだそりゃ?」


 灰色の駒。

 黒でも白でもない、色の無い駒。


「あら、駒が一つ足りないんじゃなかった?」

「いやいや! ソレは始めっから俺様のもんだぞ!?」

「そう? 足りない駒も見つからないんでしょう?」


 ひび割れていく盤上。少女は読めない表情で唇を噛んだ。睨みを利かせる。単純な敵意では無かった。色々な感情が織り交ぜになった、そんな想いが。

 唯一残った灰色の駒に差し向けられる五つの駒。カップが投げ捨てられた。


「……たった一つで「二つよ」


 少女は。魂の彩を。


「分からないの? 思い出せないの? 自分の結界に引きこもって、かってに自己完結して、どうしようもなく終わっていく気なの?」


 高月さんが笑う。そこに獣のような獰猛さは無かった。虚ろで薄っぺらい、張り紙のような笑い。それでいて、果てしなく、強い。


「そうか、その色だ。足りなかったのは、その色だ」


 目の前の、を見る。

 足りない駒は、最初から目の前に座っていたのだ。


「そうか――――そういうことだったのか。とんだお転婆姫のご登場だったが、受けて立つぜ」






「メルヒェン――――女神アリスの使者、童話の女王よ」

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