ジョーカー・オリジン
【ジョーカー、色彩獲得】
「あああああぁぁぁ――――!!!!」
悲鳴が。黒い叫びが、結界内に
(お願い、もう――――ッ)
これ以上は、保たない。ネガが放つ精神汚染は圧倒的だった。片腕を引き抜かれて、全身を黒で濡らして。気が狂う。正気が崩れる。
しかし、叫びながらも止まらない。ただ、目の前の脅威を。
「り、りぃぃいいりりいい!!」
束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。
ネガの存在を少しずつ引き千切り、黒い世界を揺らしていく。ヒロイックは辛うじて繋ぎ止めている自我を絞り尽くす。気が狂うのが先か、ネガが崩れ落ちるのが先か。
「ああ、ぁぁ――――ぁ、りり」
何回目か。
束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。
(おちて――落ちて墜ちて堕ちて)
束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。束縛が。
「ヒロイック――――ッ!!」
はっと気付き、鎖を投げ捨てる。自らの首を縛っていた。このまま自分に
「今の声……ジョーカー?」
戦い早々散り散りになってしまったが、どうやら無事だったみたいだ。その事実が崩壊しかけた自我を立て直す。英雄の腕が動いた。
「自縛城塞ヒロイック」
魔力の奔流が。鎖の乱舞とリボンの絞殺が次々と。
巨人が雁字搦めに潰される。這い出た黒人形どもが泥沼に沈められる。英雄が進撃を開始した。
初めて巨人が声を上げた。積み重なる怨嗟の声。我執を束ねた断末魔。執着が霧散し、狂気だけが残った。ネガが倒れて結界が崩壊する中、ヒロイックは静かに崩れ落ちていった。
「ヒロイック」
ジョーカーがヒロイックに手を伸ばす。紫に色づいたマギアは、どこか、奇妙なほどに芯が通っていた。
ヒロイックがそれに縋る。反射的に利き手を伸ばした。伸ばそうと、伸ばし、全く感触が、無かった。
「――――っっ」
悲鳴のような。ひりついた叫びが喉をついた。熾烈な戦いで失った片腕。ネガの精神汚染が強すぎる痛みをセーブしていた。しかし、こうも実感として、喪失を感じてしまうと。
「……大丈夫。魔法でどうとでもなるわ」
慰めにもならない言葉をえんまは零す。泣きじゃくり始めるヒロに、えんまは戸惑った。
「…………殺して」
低い声が。
「もう……嫌。何もかも、嫌なの。どうせ、このままずっと……独り」
黒い巨人との戦い。それだけではないだろう。マギアとして戦ってきたこれまで。繊細で優しい彼女にとっては辛過ぎる日々だった。
やりたくてやっていたわけではない。郁ヒロには始めから選択肢は無かったのだ。記憶なく契約させられ、多くのものを犠牲にした。したくもない戦いで沢山傷ついた。
「………………」
えんまは知っていた。思い出したし、それ以上に見てもいた。だから何も言わない。無言で銃口を彼女に向ける。
「……ありがとう」
自ら頭を小銃に擦り付ける。まるで猫が飼い主に甘えるような仕草。すりすりと頭を擦り付けながら小さく笑う。
――――タン
乾いた銃声が一つ。郁ヒロの身体が大きく傾き、倒れ、そして二度と起き上がらなかった。ジョーカーはその後、的確に心臓を打ち砕いた。苦痛は無かっただろう。暁えんまは顔を上げる。
「…………今度はこちらの番。反撃のターンよ」
運命の至る空。『終演』の砂時計が虚空から出現する。アレは舞台装置。役目を果たせなくなった
『へえ。何かが変わったみたいだね』
「…………いたのね。忘れていたわ」
二足歩行二頭身の白ウサギ。白いウサギは、アリスを不思議の国に誘った案内人の象徴。今は自分が誘われている現実に、ジョーカーは噴き出した。晴れやかに笑う。
「私も参加するわ」
『あまり勝手なことはしないで欲しいんだけど』
「ダメ。欲が湧いた。私は『幸福』が欲しくなった。そう、『幸福』よ」
そして、えんまは右手に掴んだ白い光を見せびらかせた。口を封じられた白ウサギががくがく震える。
『私の、全てが、ここに、ある』
執念の獣が獰猛に笑った。
その笑みは、奇しくもあやかのものに酷似していた。
「トロイメライ。貴女は
時空が歪む。ジョーカーが次なる世界への道を拓く。
囁きの悪魔は一度だけ世界を振り返り、ジョーカーの後に続いた。
――――カチ
「私は諦めない。私は止まらない」
世界の崩壊に巻き込まれる水色の少女。ゲーム盤が崩壊し、元の世界に戻される。唇を、強く噛んだ。ひび割れていく星空を見上げる。
「絶対に、貴女を取り戻してみせる――――」
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