tea party 6

【茶番6】



「愚鈍の黄、理想と実力で全てを塗り潰す英雄狂い」


 色彩が奪われたモノクロ世界。大テーブルに広げられたお茶菓子は(主に高月さんの手で)あらかた片付かれ、二人っきりのお茶会に終わりが見え始めていた。


の輝きは周りを狂わせる。けど、そんなの本人が引け目を感じること?」

「まさしく。凄い奴が凄いのは当たり前だぜ。むしろ誇れ」


 尊大に踏ん反り返った高月さんを見ると、それもそれでどうなのだろうと疑問を覚える。


「他人の偶像に縛られ、英雄は矮小化した。でなきゃ、アレが主役を張っていたかも知んねえな」

「あの人の願い⋯⋯⋯⋯きっと根本から英雄に向いていなかった。高月さんのような、独りで自我を確立出来るような人こそが、目指すべき道なのでしょうね」


 苗字を呼ばれて、高月さんが露骨に嫌そうな顔をした。お相手の少女も分かってやっている。

 少女は空のカップに口付けした。


「人は人を鏡にする。どう思われたいか、求められたいかで自我を造る。貴女も⋯⋯実はそうなのでしょう?」


 まさか、と色のない怪物は鼻で笑った。


「俺様は俺様だ。それ以外に何がある? そこが偶像の英雄ヒロイックと俺様の差だ。だから奴は主人公アリスになれなかった」

「貴女の人形も同じでは?」

「⋯⋯⋯⋯なーーんで俺様のあやかは負けたかなあ。絶対完全勝利の流れだったぜ、アレ」

「成るべくして成った、というわけよ。何か大事なことを見落としているんじゃないの?」

「皆目見当つかん」


 今度は少女が鼻で笑った。

 唸りながら招待主は指を鳴らす。浮かび上がる盤上。高月さんの側にあるのは橙・赤・緑・黄色の駒。対する少女には紫の駒が一つだけ。


「ん? 一つ足りないな?」

「はて、かしら?」


 噛み合わない対話。二人して首を傾げる。


「……まぁいいさ。最後の駒を頂けばゲームセットだろうぜ」


 二人を囲むモノクロ世界が揺れ動く。それは世界を映す鏡。

 盤面に置かれた紫の駒。






「ジョーカー――――執念に取り憑かれた、影の獣を解き放て」

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