tea party 4

【茶番4】



「憤怒の赤、ままならない世界に振り回された悲劇のヒロイン」


 白と黒のモノクロ模様の背景。お茶会を嗜む二人は向かい合って座っていた。


「あら、お気にの子から食べていくなんて手癖が悪いのね」


 お相手の少女は辛辣な言葉を吐き捨てる。反応に困る招待主を尻目に、紅茶を一口含む。


「――おいしい。高月さんにこんな嗜みがあったとは意外」

「話をそらすなよ、お嬢ちゃん」


 苦笑いしながらも強引に話を戻す。


「アレは、どうしようもねぇ世界の事情に引っ掻き回された、可哀想な被害者だ。同情するぜ」


 無責任にまとめながら、カップの紅茶を一気に飲み干す。空になったカップには、見えない手が紅茶を注ぐ。湯気を放つそのカップを再び手に取った。

 一方、一口ずつちびちびカップの縁をつつく少女。


「スマンスマン。紅茶を冷ましてやるのを忘れてたな」

「……そんなんじゃないわよ」


 少女は伏し目がちに睨む。


「そもそもあの子、ヒロインって柄かしら?」

「そこだよ」


 高月さんは笑う。その口が、三日月のようにぱっくりと割れた。


「求められているのは、一方的な救いじゃない。理解なんだよ」


 単なる被害者ではなく、暗い影を持つダークヒーローだと。高月さんは愉快そうに笑った。


「それって何も特別なことかしら? 誰も彼も、結局はそこにたどり着く気がするけれど」


 少女の目は鋭い。高月さんとは対照的な、冷めた目をしている。


「一体何がそこまで気に入ったのかしらね。たかだかよくある悲劇の一つじゃない」

「身も蓋もないな、お前は」


 高月さんは若干不機嫌そうに紅茶のカップを弄ぶ。


「悲劇は物語だ。一期一会の大脚本だぜ。そのは誰も彼もが特別さ。好みの問題は別にしてね」


 少女は、お相手以上に不機嫌そうな顔をする。紅茶を啜りながら、溜め息混じりに反論した。


「どこまでも上から目線なこと。何様? 同じく物語の主人公から言わせてもらうと――他人の話なんか知ったこっちゃない。結局、デッドロックはいじけていただけだろうが」


「おいおい、言葉遣いが乱れてるぞ?」

「あら、失礼」


「しかし、辛辣だな。嫌う理由も分からなくはないが」

「どうせ高月さんには些細なことでしょう?」


 違いない、と笑う。


「語り切れなかったトラウマが、魔法の効率を落としていたってとこか。デッドロックの本当の実力は、まだ上乗せの余地がある。俺様のあやかも、早く追い付いて欲しいもんだぜ」

「結局、いいとこなしだったわね。そろそろ諦めたらどうかしら、高月さん?」


 なぁに、とそれでも余裕そうな顔で。


「俺様は諦めが悪いのさ。俺様たちの戦いはまだまだこれからだ」


 そのまま打ち切られちまえ、と少女は舌打ちをする。


「さてさて、お次は正義の主人公。我らがあやかは一体どうするのかな?」


 茶化したように、高月さんは喝采を上げた。

 お茶会は続く。泥沼の群像劇を眺めながら。片や不敵に笑い、片や物憂げな表情で水面を覗く。盤面に置かれる青い駒。






「スパート――――直情可憐に輝く、正義一直線の物語だ」

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