トロイメライ・デザイア
【トロイメライ、破滅の途】
クレヨンで描き殴ったような、そんな稚拙な星空。
ネガの結界の中で、あやかはぐるりと周囲を見渡す。まさに四面楚歌。敵勢力の真っ只中だった。ペラペラの紙の騎士が全方位から取り囲む。足元まで気を張ると、牙を剥く魔本が複数目に入った。
まさに孤立無援。ここまで来れば、あやかの覚悟も据わったものだ。
「へ、準備万端ってことかい。言っとくけど、もう油断はしねえぞ」
あやかが拳を握る。強く、強く。両手首の銀のリングが、逆方向に回転して推進力を生んだ。回転力が拳に威圧を醸し出す。
まさに飛び出そうとした、その時。
無数の
「――――おい、一間!?」
「悪い、トラブった。よく来てくれたよトロイメライ!!」
雑魚専。一間は、自分の魔法をそう称していた。小粒の多数には滅法強いが、一撃の威力に欠ける。包囲網を半壊させた一間が、背中合わせに立った。
「俺の拳は、俺の魔法だ」
「⋯⋯⋯⋯ああ、うん」
鈍い反応に、あやかはがっくり肩を落とした。だが、これで戦況は優勢に傾いた。ネガを圧倒する、一撃の破壊力。あやかは一間に足りないものを持っていたし、一間はあやかに足りないものを持っている。
「「いくぞ」」
棍棒片手に一間が飛び出した。マギアの筋力で振り回される凶器は、使い魔どもを次々と叩き潰す。その反対側、あやかの徒手空拳が使い魔を捻じ伏せる。周囲に浮かぶ泡の群れが光を捻じ曲げ、全方位の視界を確保する。
「さっすがに、多い!!」
「いや、十分減らした! ネガ本体を探すぞ!」
一間の泣き言も、今のあやかには頼もしい限りだった。残る使い魔たちを振り切って先に進む。あまり遠くない。マギアたちはその気配を感じ取った。だが、その前に立ち塞がるのは紙の騎士たち。
「どんだけ「下がれ!!」
あやかの声に、一間が大袈裟に飛び退いた。あやかの踵が落ちる。牙を生やした魔本が粉砕された。上げた視界の先、最初の包囲網に匹敵する使い魔どもの姿を目視する。
「おいおいまだまだうようよ⋯⋯トロイメライ! ヴィレを僕に投げろ! メルヒェンから受け取ったやつがあるだろ!!」
「――――――あ」
「⋯⋯⋯⋯駄犬っ」
戻ってきた反応で、全てを察する。一間は、マギア・デザイアの魔力は、既に底を尽きようとしていた。魔力を回復するヴィレをあやかが消費してしまった以上、ジリ貧は避けられない。
「ここを突破してネガを叩くしかない!」
「その作戦だと多分僕が死ぬ」
化け物集団相手に、棍棒一つで何が出来るのか。しかし、敵は待ってくれない。雪崩れ込む使い魔たちの前に、あやかがその身を賭して立ちはだかる。
「一緒に行くぞ!!」
「バカヤロウッ!!」
行くしかない。あやかの肩を一間が踏み台にし、飛び越える。勢いよく振り下ろす棍棒。結界の地面を叩く余波が、使い魔どもを飛ばした。総崩れになった陣形にあやかが突貫する。
あやかの、そして一間の口から咆哮が溢れた。稚拙な星空に、魂の咆哮が木霊する。反響する執念。無傷ではいられなかった。全身に切り傷を作るあやかに、血溜まりを作りながら棍棒を振り回す一間。
(クッソ――無理か、無理なのか!?)
使い魔どもが次々と押し寄せてくる。物量に押し潰され、拳が、棍棒が、その動きを鈍らせる。追い詰められた先、あやかはソレを見た。
巨大な魔本。まるで、豪奢な絵本のような装丁。ページが開く。中から現れたのは、水色の、巨大なマネキン。
確信した。アレがネガ本体だ。
血濡れの一間が既に走り出している。
「へい、こっちを見やがれベイビー!!」
ドサクサで使い魔の防衛戦を抜け、途中で拾ったモノを投げつける。ネガは、いや使い魔どもも、その投擲物に注意が引き寄せられていた。
そして。もちろん、あやかも。
「え――――――――――どういうことだよ」
デザイアがネガに投げつけたモノ。あやかの見間違いでないのだとすると。
ソレは――――大道寺真由美の死体だった。
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