終わる

 わたしは翌朝六時に目を覚まして、朝食を作って食べた。

「あ、伯父さん。おはよう」

「澪ちゃん、おはよう、早いね」

「大丈夫です。カメラもバッチリなので」

 そして、神社に戻ってきた。



「怜香ちゃん、お疲れ様~」

「ありがとう、澪ちゃん」

 カメラを構えて、演目の始まりを告げるお囃子が鳴り響くなか、涼ちゃんの最初の演目が始まった。

 赤い獅子になってたけど、全体的に自然な感じに撮ることができたはずだ。

 だいたい一時間くらいの演目で、涼ちゃんが汗だくで戻ってきた。

「澪ちゃん、写真、撮れた?」

「うん! こんな感じだよ」

「かっこいいな。ありがとう!」

 そのとき、神社の鳥居の方に、涼ちゃんと同い年くらいの大学生が来ていた。

 一瞬、誰かの親戚? と思ったけど。

「澪ちゃん!」

「どうしたの? 涼ちゃん」

 その人のもとへ涼ちゃんと一緒に向かった。

「涼輔、この子は?」

「いとこの笹島澪ちゃん。高校二年生で、写真を撮ってもらってるんだ」

「いとこね、よろしく。澪ちゃん」

「はい」

 涼ちゃんは少しためらって、こう言った。

たちばな澪莉みおり、俺の彼女です。澪ちゃん」

 その言葉にびっくりしてしまった。

 そのあとにフラフラとするから、少しだけ涼ちゃんの方に倒れそうになる。

「澪ちゃん、大丈夫!?」

「うん。脱水症状だと思うから、少しだけ寝てればいいから」

「澪ちゃんを少しだけ寝かせてくるから、待っててくれ。澪莉」

 澪莉さんは心配している表情。

「わかったわ、涼輔」

 涼ちゃんに横抱きにされて、そのままおばあちゃん家に戻った。



「涼ちゃん。ごめんね、ありがとう」

「大丈夫、ポカリ飲んでね。今度の出番は昼くらいだから。それまで、寝てて」

「涼ちゃん……」

「ん?」

 ――好きです。

 その一言を言うだけなのに、喉の奥まで出かった言葉は本人には言えない。

「どうした? 澪ちゃん」

「なんでも、ない」

 涼ちゃんはそのまま神社に戻っていった。


 わたしは部屋で寝ることにした。

 それなのに……涙が溢れてくる。

 好きだと言ったら、困るよね、涼ちゃんが。

 失恋したのかも。








「涼ちゃんが出る演目は?」

「いるよ。涼輔があそこにね」

 伯母さんと一緒に写真を撮る位置にいた。

 怜香ちゃんもいた。

「怜香ちゃん。ここ、すごいね」

 わたしはカメラを構えて、レンズ越しに涼ちゃんの姿を見る。

 お囃子が響くなか、涼ちゃんが出てきた。澪莉さんが見るのは初めてのはずだ。

「囃子方、伊倉いくら涼輔」

「涼輔~!! 本気でやれ~!」

 わたしは深呼吸をして、カメラを構えている。

 ――ベストショットは一瞬だ。澪、絶対にレンズから目を離してはいけない。

 父さんからのアドバイスは結構利にかなっている。

 絶対にいい写真は撮れる。

 いける! と思った瞬間にシャッターのボタンを押した。

 わたしは涼ちゃんを見て絶対に、悲しくなると思ったのに、感情が少しだけあったけど、吹っ切れたのかもしれない。

 涼ちゃんの姿を写真に撮ったのが、一番良かったんだ。

「怜香ちゃん。これ見て」

「いいじゃん! 本気でコンテストとかに応募してみたら?」

「うん。涼ちゃんに聞いてくるね」

 わたしは少しだけためらっていた。

 澪莉さんがいたからだ。

 ダメだ……どうしたらいいかな。

「澪ちゃん、どうした? 俺の写真を撮ってたもんね」

 わたしはすぐに涼ちゃんに写真を見せた。

「すごいね! ほんとに~、一番良かったんだ。この写真が」

「うん。あとね、涼ちゃん……あのさ」

「少しだけ待ってて、電車の時間は間に合うから」

「うん。涼ちゃん。わかった」



 お祭りが終わり、わたしはすぐに帰らないといけない。

「大丈夫? 澪ちゃん、時間とかも」

「母さんには連絡済みだから」

「澪ちゃん。俺が送っていくよ」

 涼ちゃんが荷物をもって、そのまま駅まで行く。

 わたしはドキドキしている。

「話したいことって?」

「あ……うん。あのね、涼ちゃん」

「うん」

「好きだった。涼ちゃんのこと」

 涼ちゃんは少しびっくりした顔をして、笑っていた。

「気づいてたけど、本人から聞くのを待ってたんだ。俺は澪ちゃんに恋愛対象じゃなくて、普通に妹みたいな感じに接してた」

 わたしはようやく話せたと、安心できた。

「うん。これで、初恋も終わったよ。涼ちゃん、これからもよろしくね」

 涼ちゃんはそっと、お守りをくれた。

 高校卒業するまでは野球部をしていて、その頃につけていた必勝守だったの。

「いいの? 大事なものなのに……」

「うん。澪ちゃん、また来てね」

 そして、駅に向かった。

 失恋したけど、なんかスッキリとした。

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