涼ちゃんに片想いをしたのは、中学生くらいの頃だった。

 ひとりっ子だったわたしにとって、小さな頃からお兄ちゃんみたいな感じで、いつも家に行くと一緒にいてくれる存在だった。

 年頃になってきてからは不思議と意識してしまうことが多くなってしまった。

 でも、好きになっちゃダメなのかもしれないけどね。そんな淡い初恋はたぶん長くは続かないかもしれない。

「涼ちゃん、写真。撮ってもいい?」

「うん」

「わたし、がんばるよ」

 わたしは高校の写真部の展示で撮ることにしている写真を取りに行った。

 お祭りの前日の練習に涼ちゃんがいて、わたしはドキドキしながら写真を撮っていく。

「怜香ちゃん、おかえりなさい」

 わたしは怜香ちゃんと一緒に待つことにした。

 涼ちゃんが踊っているのは、お祭りの演目で重要な役割を担っているみたいで、とてもかっこいい。

「涼輔、本気でこの演目を任せられたのは、一年目みたいだしね。撮っても、かっこよく写るはずだよ」

 明日の朝四時近くから地区を一周してくるみたいで、わたしは実質留守番係になったけど、八時にあるお祭りの演目は全部を写真に撮るつもりでいる。

 涼ちゃんと怜香ちゃんが久しぶりに線香花火をしようと、提案してくれた。

「澪ちゃん、とても懐かしいね。この花火」

「うん!」

 わたしは父さんのお下がりの一眼レフを取ってきて、写真を撮影した。

 ほんの一瞬の間に本人には知らない表情が出ると教えてくれたのは、カメラマンをしていた父さんだった。

「そういえば叔父さんたちは元気?」

「うん。父さんはやっぱり海外での仕事が多くて、なかなか日本に帰って来なくて。帰ってくるって連絡が来たときに、生存確認できるって感じで」

「そりゃもちろん、戦場の方にいるからね。命がけだもんね」

 うちの父さんは戦場カメラマンとして、小学校に上がるまえから扮装地帯に潜り込んだり、とても危険な場所で写真を撮影したりしているのが、仕事だってのは知ってる。

「命がけだから、心配なの。父さんが久しぶりに帰ってきたら、生存確認することが決まってたけど、最近……四年くらいは帰ってきてなくて」

「そうなの。涼輔、少しだけ澪ちゃんといてくれる? 朝の準備をして来る」

「うん」

 

 涼ちゃんと二人きりになって、心臓がバクバクと波打っている。

 わたしは涼ちゃんの顔を見る。

 整った顔立ちをしていて、絶対にモテる。

「涼ちゃんてさ、大学とかでモテるでしょ? 絶対にさ」

「いや、逆に男子しかいない学部にいるから、全然」

 わたしは線香花火を終えて、片付けをしてから寝ることにした。

「怜香ちゃん。寝るよ」

「おやすみ、澪ちゃん」

 わたしはそのまま寝た。

 翌朝はわたしにとって、特別な日になった。

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