第6話 契約
「さて、色々と積もる話はあるが。
残念ながら今はその時間ではないようだ」
「え? どういうこと?」
頭をさすりつつ見た
同じ方向をじっと見つめてみるも、ヘンリーの目には瓦礫しか映らない。
「来るぞ」
ッッッドオオオオオオン!!!!!
その言葉と共に、再び揺れが襲う。
だが、それは今までのものとは何かが違っていた。
揺れの質が違うとかそういうものではない。
見えない分、ヘンリーは目を閉じ何かを感じようと集中する。
吹き付けてくる風が熱を持っている。
それだけじゃない、何かが焼け臭いがする。
「燃えてる……?
って、何かが爆発したの!?」
「……火、ってブレナ!
まさか、ヤツが来たってのか!?」
「ああ、そうだ!」
ッッッドオオオオオオン!!!!!
神父の声も、父の返事も。
続く爆発音によりかき消される。
「時間がない。
いいかい、ヘンリー。
君は今からこの父と契約をしてもらう」
「契約?」
この場に似つかわしくない言葉に、戸惑うヘンリー。
父との契約、それとこの今の状況が全く結びつかなかった。
「ああそうだ。
悪いが細かい話はあとで話す。
今は、とにかく父を信じてくれ」
ぽん、と。
本来であれば触れられないはずの肩に、父の手が置かれたように感じた。
あの遠い日の記憶がヘンリーの脳裏によぎる。
『そうだね。
君が15歳の誕生日を迎えた時、また話をしよう』
死んでからも、約束を果たしに父が来たということに、ヘンリーは嬉しくてたまらない。
そうでなくても、周りの奇異の目から守ってくれていた父だ。
ただ父であるという、それだけで信ずるに値する。
「わかったよ、父さん。
その代わり後で全部話してね!」
「ああ!
リアム! 聖水を!」
「準備できてる!」
ブレナの言葉に、小瓶を片手に神父が即答する。
「始めるぞ」
「頼む!」
小瓶には三日三晩祈祷が捧げられ、清められた特殊な聖水が入っていた。
それを数滴ヘンリーの頭にふりかけ、床に1滴ずつ落としていく。
大方の配置が決まったところで、神父は指で聖水を伸ばし、何かの文様――魔法陣を書き上げていく。
その間も、断続的に爆発が起こるが、描かれた魔法陣は歪むことなく形を整えられていく。
「よし、行けるぞ!」
「ありがとうリアム!」
水と指で描かれたとは思えない複雑な図形は、完成と共に薄い光を放つ。
「さあヘンリー。
父の言葉を続けて!」
「うん!!」
「我、ヘンリー・ウォルターの支配のもとへ」
「我、ヘンリー・ウォルターの支配のもとへ」
「汝、ブレナ・ウォルターの力を捧げよ」
「汝、ブレナ・ウォルターの力を捧げよ」
言葉とともに光が強くなっていく。
同時に、ヘンリーとブレナの体も光を帯びる。
「さまよえる魂に、救済と隷属を」
「さまよえる魂に、救済と隷属を」
「紡ぎし縁をここへ」
「紡ぎし縁をここへ」
いつしか二人の言葉は重なりあい、一つの音となる。
「
「
大きく膨れ上がった光は目を開けていられないほどになったかと思えば、小さな玉へと収束していく。
それに向かいブレナとヘンリーの体を包んでいた光も吸い寄せられていき、一際強い光の爆発と共に再び二人へ吸い込まれていった。
「これは……」
ゆっくりと目を開けながら、ヘンリーは今までなかった力が自分の中に溢れていることに気づく。
力強く、温かい、とても安心するその力は――
「父さんの力?」
「ああ、
君には、
死霊や死体を操る術を使う者。
ヘンリーが知る限り……その性質上、忌み嫌われることの多い、そういう職業だ。
「ウォルター家は代々
ま、詳しい話は時間がなくて省略するけど。
いいかい?
今から君はこの力を使って、“敵”と戦わなければいけない」
「……うん。
なにがなんだかわからないけど、父さんを信じるよ」
理解が追いつかないし聞きたいことがたくさんあるけれど、父を見るヘンリーの目に不安や疑念はない。
「良い返事だ。
では、いくぞ!」
「うん!!!」
ヘンリーウォルターと悪霊の庭 ただみかえで @tadami_kaede
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