第27話 積極的なお二人さん


 一つ一つ、優斗たち三人はお店を回りながら、結果としては、オムライスの専門店へやってきた。

 理由としては二人が好きで、希望したからだ。

 そして運ばれてきた、トロトロしたオムライスを見て、二人は目を輝かせる。



「どうしてこう、お店で出てくるオムライスというのは綺麗なのでしょうか」

「そりゃあ、プロが作ってるからでしょ」

「そんなのわかってますよ、もう!」

「あははっ、だけど、ほんとに美味しそうだね!」



 優斗はスプーンを持ち、



「それじゃあ、食べようか」



 伝えると、三人は「いただきます」と食べ始める。

 二人はゆっくりと、一口サイズにしたオムライスを口へ持っていく。

 その瞬間、二人は幸せそうな表情を浮かべる。



「んんー、美味しいですね!」

「ほんと、このお店初めて来たけど、すっごい美味しい!」



 どうやら二人は満足してくれたらしい。

 そして食べ進めると、ふと、優斗は恵令奈に作ってもらったオムライスのことを思い出した。



「……ユウさん、何ニヤニヤしてるのですか?」



 自分ではそんな緩んだ表情にはなってなかったはずが、どうやら、優斗の表情は自然に緩んでいたらしい。



「いや、なんでも」

「怪しいです……あっ、もしかして、私が作ったオムライスの事を思い出したのですか?」

「えっ、恵令奈、ユウくんにオムライス作ったの?」



 恵令奈の言葉に、オムライスを口に運ぶ有紗は驚いていた。



「ええ、ユウさんのお宅で作ってあけだんです」

「あー、あの日か。恵令奈、料理できたっけ?」

「ふふん、勉強しっかりしましたから」



 どこか誇らしげな恵令奈に、有紗が目を細める。



「料理は勉強したからってできるもんじゃないよー……ユウくん、どうだったの? あたしにだけこっそり感想を教えてよ」

「感想って、別に美味しかったよ?」

「へー、嘘だー」

「有紗、嘘とは何ですか。ちゃんとその場でも褒めてくれましたよ。……まあ、見た目はアレでしたけど。でも、愛情はたっぷり詰まってましたよね?」



 その言葉に、優斗は控えめに頷いた。

 なぜ頷いたかはわからない。ただ、愛情は確かに詰まってた気がしたから頷いてしまった。

 すると、有紗は不機嫌そうにする。



「もー、なんか、ズルい!」

「ズルいって、別にただ作ってもらっただけだぞ?」

「それでもズルいの。だって、家に行ったんでしょ。それって、なんか……んー、やっぱりズルい! ……はい、ユウくん、あーん」



 オムライスをすくい、優斗の目の前へ運ぶ。



「恵令奈に、あーん、してもらってないでしょ?」



 ドヤ顔で恵令奈を見る有紗。

 だが、それ以上のドヤ顔を、恵令奈は浮かべた。



「ふふん、食べさせあいっこは経験済みですよ」

「なっ!? あの、恵令奈が……?」

「ええ、私のスプーンで、ユウさんのスプーンで、互いに食べさせあいましたよ」



 有紗は優斗を見る。

 嘘ではないので、優斗は何も答えない。



「もうもうもう! なんかイヤ! 二人でそんな事して! じゃあ……」



 有紗は考え、悩み、頬を赤く染めながら、差し出したオムライスを自分の口に含むと、首を傾げる。



「口移しは、まだ……?」

「「──ッ!?」」



 有紗の行動に、二人は顔を赤くさせる。



「有紗! そんなのはしたないですよ! ユウさんが困ってるではないですか!」

「んー、別にいいじゃん。だって恵令奈としてないんでしょ? だから、んー」



 見惚れるほどの唇を尖らせたキス顔は、優斗にとって魅力的過ぎた。

 だが、



「駄目です! ほら、飲み込んでください!」



 恵令奈は有紗の頭の天辺と顎を抑え、モグモグさせる。

 ゴクリ、と飲み込んだ有紗は、どこか不満気だった。



「ちぇ、後少しでしてくれそうだったのに」

「そ、そんなわけないだろ。しないよ、そんなこと」



 とはいえ、さすがに先程の表情はマズかった。

 そんな緩みきった表情を隠すように、優斗は黙々と食べ続ける。



「そうですよ。ユウさんがそんなはしたないことするわけないじゃないですか」

「えー、それはどうだろ。だって、さっきのユウくんの顔、まんざらでもない顔してたもん」



 ジーッとした二人からの視線が優斗に突き刺さり、汗が流れ、なぜたか痛い。



「ほら、馬鹿なこと言ってないで早く食べるよ。他のとこも見に行きたいんだから」

「あっ、誤魔化したー。ユウくんって、わかりやすいよね」



 そんな話をしながら三人は食べ進める。

 時刻はお昼を過ぎた頃で、まだまだ辺りは明るい。

 そして食べ終わると、



「さて、買った荷物を預けて他も見に行こうか」

「そだね。まだまだ楽しめる場所はあるもんね」

「あっ、私ちょっと、お手洗いに行ってきますね」



 恵令奈は立ち上がり離れていった。

 有紗と二人。別に彼女と二人だからどうというわけではないが、どこか、気まずい流れがある。

 それはおそらく、先程の──。



「ユウくん、したかった?」

「……何のこと?」



 何を言いたいのかはわかる。

 だけど敢えて聞き返した。すると、有紗はにっこりと微笑み、前屈みで優斗を見つめる。



「ん、なんだろね。なんだと思う?」

「……わからないから、聞いてるんだけど?」

「ふふ、嘘ばっかり。ユウくん、したそうな顔してる」

「してません」

「……あたしは、したいよ?」

「──ッ!」



 小悪魔のような囁きが、優斗に大ダメージを与えてくる。

 だけど、『嘘付くな』だとか、『大人を馬鹿にするな』といった、誤魔化す言葉が言えない。

 なにせ、誘惑してくる彼女の表情は、少し涙目で、顔を真っ赤にさせて、自分で言いながら小悪魔は自滅してるのだから。

 彼女が本気で言ってるように感じて、話を流せない。



「ユウくんがしたいなら、いいよ。あの日みたいに……今度は、ユウくんからしてくれても」

「……有紗、その」

「恥ずかしかったら、場所、変えよっか?」



 目蓋を閉じて、少しだけ唇を尖らせた有紗。

 二人の間だけ静かな時間が流れ、ただその唇に、優斗は自分の唇を触れさせたい衝動にかられる。

 もう、何も考えられないほどに、有紗の表情はズルかった。


 けれど、その雰囲気は突如として、凍えるほど冷たくなった。



「──ユウさん、何をしてるのですか?」



 背後から冷たい声が飛んでくる。

 振り返ると、そこには初めて見せる、怖い表情の恵令奈が仁王立ちしていた。



「えっと、恵令奈……いつから?」

「いつから? とは、いつからそんな雰囲気になってたのですか?」

「それは……」

「あーあ、恵令奈が来なければ、ユウくんとみんなに見られながらチューできたのに」



 やれやれ、といった感じで立ち上がる有紗に、恵令奈は頬を膨らませて詰め寄る。

 何とかターゲットを有紗に変えられ安堵する優斗は、食事を終え、他の場所へと二人と向かった。







 ♦






 空が暗くなり、辺りがライトで照らされた頃。



「はあ、もう夜か……」

「ですね……」



 夏の北海道では、19時になると一気に暗くはなる。

 なので現在の真っ暗な空が示すのは、19時を過ぎていて、高校生である二人をこれ以降も連れ回すのは世間体であまり良くないということだ。


 帰りたくなさそうな二人を見て、優斗は声をかける。



「二人とも、まだ時間大丈夫?」



 そう聞くと、二人はコクリと頷く。



「はい、今日は有紗と出掛けると両親に伝えてきてるので大丈夫です」

「でも、もう夜遅いからさ、開いてるお店とか少ないよ」

「予定はある。二人と行きたい場所があるんだ」



 優斗はこの日の為に用意してきたモノを渡した。

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