第5話 双子とお試しデート 2
「は、はじめまして、ユウさんっ!」
「ユウくんだ、生のユウくんだっ!」
二人は目を輝かせながら、片方ずつ握った手をぶんぶんと上下に振る。
突然の二人の反応に優斗は困惑して固まっていたが、すぐにこの状況がマズいことに気付く。
「ちょ、ちょっと待って二人とも! 周り、周りの視線……」
優斗が小さな声で伝えると、興奮する二人は辺りを見渡す。
どうやら騒がしくして、周囲からの注目を浴びてしまったのだろう。二人は赤面して、慌てて手を離す。
優斗も恥ずかしそうに、視線を右往左往させた。
「……場所を変えようか」
優斗は周囲から浴びせられた視線を逃れようと移動する。その後ろを、二人も付いて来る。
♦
「……食べようか」
「は、はい……」
「……うん」
三人は駅構内にあるカフェへ場所を変えた。
時刻はお昼時。優斗は元から挨拶や自己紹介なども兼ねて、エリサと昼食を済ませようと思っていた。
相手によってお店は変えるつもりだったが、二人の希望もあって、あまりお腹が空いてないのでカフェに決まった。
優斗はサンドイッチとコーヒーを注文する。
黒髪の彼女も同じく、サンドイッチとコーヒーを注文して、茶髪の彼女は長ったらしい名前のクリームが上に乗ったココアを注文した。
「えっと、自己紹介からかな?」
二人はコーヒーとココアを飲んでから名乗る。
「私が里峰恵令奈で、こっちが里峰有紗です」
「……有紗、だよ」
「名字が一緒ってことは、姉妹なの?」
「いや、あたしと恵令奈は姉妹というか、双子なの」
優斗は顔には出さなかったが、内心ではかなり驚いていた。
なにせ、優斗の中での双子のイメージというのは、似た顔で、似た性格で、似た雰囲気を持った感じであった。
けれど目の前に座る二人の顔付きは、どちらも美少女と呼ぶに相応しかったが、身形や雰囲気は全くの正反対だった。
「そう、なんだ。えっと、俺は八島優斗だよ」
そう伝えると、恵令奈は優斗を見つめる。
「こういう場合は、ユウさんと呼んだ方がいいのでしょうか? それとも、優斗さんと呼んだ方がいいのでしょうか?」
「好きなように呼んでいいよ。俺は……」
恵令奈と有紗。
ゲーム内ではエリサだったが、この場合はどう呼ぶべきか迷っていた。
すると落ち着きを取り戻した有紗は、本来の彼女なりの明るい笑顔をみせる。
「じゃあ、呼び慣れてる、ユウくんで! あたしたちのことは、名前で呼んでほしいな!」
「そっか、じゃあ……恵令奈と、有紗で?」
照れくさそうに名前で呼ぶと、恵令奈は「はい」と微笑み、有紗は「うんうん!」と満足そうにする。
「そういえば、ユウさんは私と有紗が二人で来たことに驚かないのですね」
「なんとなくゲームでチャットしてた時から、エリサは二人で一人みたいな、そんな感じがしてたからかな。だけど、双子だとは思わなかったよ」
その言葉に、恵令奈だけでなく有紗も驚いているようだった。
「そっか……双子だってのは、気付かないよね。ところで、ユウくん」
有紗は意地らしく笑う。
「チャットで言った通り、あたしたち、女子高校生だったでしょ?」
「みたいだね」
その言葉に、優斗は頷く。
自称女子高校生だったエリサ。けれど会ってみて、二人が正真正銘の女子高校生だとわかる。
少女と女性の中間といった感じはあるが、大人の女性に近付いてる感じがした。
「会うまで信じてなかったでしょ?」
「だって二人とも、俺が仕事から帰ったらいつもログインしてるからさ。なんとなく……ニートかなって」
その言葉に、有紗は頬を膨らませる。
「あー、ヒドい! あたしたちだってずっとログインしてるわけじゃないんだよ? ユウくんの仕事そろそろ終わりそうだなー、って思ったときにログインするもん」
「そうですよ。それに、ログインしてからユウさんが来るまで、パソコンを起動させたまま放置してますから」
「知ってるよ。宿題やったり、携帯いじったりでしょ?」
そう聞くと、二人は笑いながら頷いた。
それから優斗と二人は、食事をしながらゲーム内で話したことで盛り上がった。
優斗は気付かなかったが、話していくうちに二人と会うまでにあった不安感は薄れ、二人との会話を素直に楽しめていた。
それはきっと、二人がゲーム内のままの感じだからだろう。
そして三人は食事を終えると、これからのことを話す。
「これからどうしようか」
予定では顔合わせを終えて、二人とは別れると思っていた優斗。けれど話題が盛り上がり、今では普通に会話ができている。
なのでここで別れるとは言い出せなかった。
すると、有紗は持ってきた鞄から携帯を取り出す。
「もし、ユウくんが行きたいとことかなかったら……これ、見たいな」
スマートフォンの画面には、今上映中の映画の時刻表が載っていた。
そして有紗が指差したのは、CMなどで一度は見たことのあるほど話題の恋愛映画だった。
「……これ、見るの?」
「ダメ、かな……?」
上目遣いで有紗に見つめられ、優斗は視線を恵令奈へ向ける。
彼女はため息をつく。
「有紗は流行りにすぐ乗っかりたいタイプなので、話題作りを含めて見てみたいのだと思います。私はあまり興味ありません」
「ちょ、話と違うじゃん! もし映画の話題になったら賛成してくれるって約束したじゃん!」
「……有紗から話題にしたように見えましたよ」
「一緒じゃん」
「……はいはい。優斗さんは、恋愛映画はあまり好きではないですよね?」
「えっと……」
優斗は恋愛映画を映画館で見たことがなかった。
というよりも、映画館は一人か男同士で来ることが多かった。なので一人や男同士では絶対に見ないであろう恋愛映画を見ることがなかったのだ。
まあ、恋愛のドラマや映画自体をあまり興味を持たないのだが。
けれど有紗は見たいのだろう。
優斗に頷いてくれと念じてるような、強く熱い眼差しを向けてくる。
「まあ、好き、かな……」
そう答えるしかなかった。
「やたっ!」
すると、有紗は拳を握って恵令奈にドヤ顔を向ける。
「ふふん、ほら、ユウくんも好きだって!」
「……断ったら有紗が泣き出しそうだから、合わせてくれたんだと思いますけど?」
「そんなことで泣くわけないでしょ!」
「はあ……恋愛映画、私は好きではないのに」
わくわくした有紗とは違い、恵令奈は何度かため息をついていた。
「とか言って、どうせ見たら好きになるでしょ?」
「そんなわけないでしょ。私が、ああいう映画が嫌いなの知ってるでしょ?」
「うん、知ってるよ」
有紗はニヤリと笑い、
「恵令奈はそういう恋愛映画にすぐハマるタイプだってね」
その言葉を受けて、恵令奈は呆れたようにため息をつく。
「そんなわけないでしょう。さあ、ユウさん、お会計を済ませましょうか」
「あ、うん」
初対面の優斗でもわかるほどに、恵令奈がムスッとしたように見えた。
そして優斗は、有紗と共にレジへ向かう恵令奈に付いて行く。
「恵令奈は、恋愛映画とか好きじゃないの?」
「んー、好きじゃないというか、食わず嫌いな感じかな。きっと見たら好きになると思うよ」
「なるほどね。有紗は恋愛映画とか好きなの?」
「あたしはね……」
すると、急に有紗は優斗の腕を組んだ。
「恋愛映画、好きだよ……。見てたら、恋愛したくなってくるもん」
「えっ、ちょ、有紗!?」
「ふふっ、こんな感じで……ねっ」
有紗の柔らかく大きな胸が当たり、優斗は目を丸くさせ驚く。
だが、
「──どうしたのですか、二人とも」
恵令奈が振り返った瞬間、有紗は組んだ腕を離した。
なんだったんだ? そう思い有紗を見るが、彼女は無言で笑顔を浮かべたまま、恵令奈の元へ走った。
そして三人はレジへ。
すると、二人は財布を取り出す。
「いや、ここは俺が出すよ」
さすがに高校生の二人に払わせるのは……。
そう思った優斗だが、有紗はピッと手を前に出す。
「それは駄目!」
「えっ、でも……」
「あたしたちは高校生だけど、ちゃんと自分たちのは自分たちで払うから。ねえっ?」
有紗は恵令奈に聞くと、恵令奈も頷いた。
「有紗の言う通りです。それにここで奢ってもらうと、ユウさん、映画代まで奢ることになってしまいますよ?」
「まあ、それは……」
流れ的に食事代を払えば映画代も、次から次へと、奢ることになるだろう。
その流れ的なものを気にしてか、二人は奢ってもらうことを拒んだのだろう。
いいや俺が払う! などと押し問答をしても二人は絶対に良しとしないだろう。
「わかったよ。でも無理しないでね」
そう伝えると、有紗は「はーい」とお金を出してお店の外へ向かう。
優斗と恵令奈もお金を出して、二人もお店を出ようとすると、
「……それに」
恵令奈は優斗の裾を掴み、耳元で囁く。
「──奢ってもらってお金を使うより、次にまた会えるときに、残しておいてほしいです」
「……え、それって」
恵令奈からふんわりと甘い香りを感じて振り向くと、恵令奈は顔を赤くさせながら、優しく微笑んだ。
「言葉通り、また会いたいって意味ですよ」
だが、
「二人とも、何してるのー?」
有紗が後ろを振り返ると、恵令奈はにっこりと微笑み優斗から離れていた。
「はいはい、今行きますから。さあっ、有紗が待ってます、行きましょう」
恵令奈はそう言って前を歩く。
有紗と恵令奈、互いがいない時の二人の反応に戸惑いながらも、優斗は鼓動が早くなってるのを感じた。
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