第4話 双子とお試しデート 1
──エリサとの顔合わせ当日。
あの日から優斗は、エリサと会うこの日まで、ずっと今日のことばかり考えていた。
日時や待ち合わせ場所は後日、エリサからゲーム内で伝えられた。
その日は仕事が休みだったので了承すると、その会話を最後に、エリサとチャットでのやり取りを終えた。
エリサから話題を振られても、上手く返事ができない。前までしていた愚痴もどこか遠慮してしまい、エリサからの相談も聞くことができなかった。
どうしても会ったときのことを考えてしまう。
それはまるで、ずっと好きだった相手との初デートの日を控えた少年のようで、緊張や不安が、私生活を狂わせていた。
「それに俺、相手が誰かわからないからって、めちゃくちゃ恥ずかしいことばっか話してたしな……」
愚痴や悩み相談や笑い話といった、今までしてきた会話が、会うとわかると急に恥ずかしく感じられた。
なにせ今まで顔も名前も知らない相手だからこそできる話を、優斗はエリサに幾つもしてきたのだから。
それに向こうが出す女子高生あるあるといった話を、優斗は得意気にアドバイスしてきたのだ。
どんな顔で会えばいいのか……。
そんなことを考えながら、優斗はお昼の12時よりも30分ほど前に、待ち合わせ場所である札幌駅へ向かう為に地下鉄の電車に乗っていた。
普段のボサボサな黒髪は整髪料で整えられ、服も大人っぽく見せようと、上はジャケットで、下はジーパンだ。
8月現在では、東京や他の県では半袖でも暑いぐらいの気温だが、北海道では少し肌寒く、夜になると長袖を着なくては寒いほどの気温だ。
なので、時期としても今の優斗の服装は合ってる──のだが、
「変、じゃないよな……」
慣れないお洒落に、優斗は少しだけ不安を感じていた。
そして電車を降りると、優斗は待ち合わせ場所へと向かう。
駅の中には幾つものお店が建ち並び、土曜日ということもあって人も大勢いる。
優斗は待ち合わせによく使われる、駅構内にある白い謎のオブジェクトの前でスマートフォンを見つめた。
エリサの連絡先は知らない。
ただ12時にこの場所で、ということだ。
待ち合わせ場所としてよく使われるこの辺りには、同じく待ち合わせ場所に使ってる人が大勢いる。
その中には、制服姿の女子学生もいる。
もしかして?
そんな風に思ったが、すぐに首を振る。
今日は土曜日。さすがに学校はないんだから、本当に女子高校生なら、わざわざ制服で着たりしないだろう。
「──お待たせ!」
そんな事を考えていると、不意に可愛らしい女性の声がした。
優斗はビクッと体を震わせ、声の主を見る。
けれどその女性は優斗ではなく、その近くにいた別の男性の元へ近付いた。
「おせぇよ、いつまで待たせんだよ」
「ごめんごめんー、電車に乗り遅れちゃってー!」
「まったく。ほら、行くぞ」
「うん! 今日の映画楽しみだねー」
どうやらカップルのようだ。
優斗は「焦らせるなよ」と愚痴りながら、再びスマートフォンに目を向ける。
いつもは見ない政治のニュース、その並べられた文字の意味を理解せず、ひたすらに文字だけを追う。
「……あの」
また別のカップルか。
そう思い、優斗は顔をスマートフォンへ向けながら、目線だけを声のした方へ向ける。
声はすぐ前から聞こえた。
そして声の主は、長く綺麗な黒髪を耳にかけると、優斗を不安そうな表情で見つめた。
「え……?」
「あの、ユウさん、ですか……?」
目の前の彼女と目が合った瞬間──時が止まった。
これは比喩ではなく、優斗にはそう感じられたのだ。
先程まで騒々しかった周囲の雑音や、お腹へ訴えかける美味しそうな匂いや、周囲の眩しいほどの光が消える。
それほどまでに、視界にはこちらを見つめる彼女しか映らない。
「あ、あの……」
2秒ほど目を合わせてから、目の前の彼女は戸惑うように首を傾げた。
清楚なイメージを持たせる顔付きだが、大きな瞳の左下の
背丈は160ほど。引き締まった腰回りなのに、胸の膨らみは一般的な大人の女性よりある。
雪のように白い肌を隠すような水色のワンピースを着た彼女。
もしかして、彼女が──。
そう思ったとき、
「ちょっと恵令奈! 待っててって言ったじゃん!」
二人の沈黙を切り裂くように、派手な見た目の女性が走ってくる。
大きな英語の文字でプリントされたTシャツに、ショートパンツ。ネックレスやピアス、シュシュなどの装飾品。
その身形同様に、明るい茶色の髪を右肩から垂らし、しっかりと化粧をされた女性。
はあ、はあ、と息を荒くした茶髪の彼女に、黒髪の彼女はため息混じりに答える。
「有紗はお手洗いに何十分かけるのですか? 私はそんなに待てませんよ」
「仕方ないじゃん、メイクが上手く決まらなかったんだから。というより、恵令奈が早いのよ」
「化粧は家でしてきました。というより、そこまで必要ありませんから」
「ムカッ! それじゃあ、まるで、あたしが化粧ベタベタ塗ってるみたいじゃん!」
「そんなこと言ってませんよ。……もう、走って追いかけてきたら、せっかく準備してきた髪型が台無しですよ?」
「あーもう! めちゃくちゃ早起きしたのにっ!」
優斗を置いて、黒髪の女性は茶髪の女性の髪を整え始めた。
そして優斗は、二人を見て声を漏らす。
「もしかして、エリサか……?」
「「え?」」
二人の視線と、優斗の視線が交差する。
「もしかして、ユウさんなのですか……?」
と、黒髪の彼女が目を大きく開き、
「ユウくん、なの……? ほんと、ほんとに?」
と、茶髪の彼女が口を大きく開いた。
優斗が頷く。
二人は瞳を輝かせ、勢いよく優斗の手を握った。
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