第28話 繋がらない電話

お父さんが意識を失って2日経った。


昨日、一晩待合室にいたので私は一度家に帰り

夕方にもう一度お父さんの病室に向かった。



夕食を食べていなかったので、病院の1Fにあったコンビニでおにぎりを買った。

お父さんの病室に近い食堂で食べる事にした私はコンビニ袋を片手に一度お父さんの病室によった。


「・・・お父さん」


病室で横になっていたお父さんはまだ意識が戻っていない。

病院の先生曰く、そろそろ覚悟した方がいいと言われた。


お父さんの顔を見ていると誰かが病室に入って来た。


「あら、ゆいちゃん。

 来てたの?」


「あ、おばあちゃん。

 うん、さっきね。

 私、ご飯買ったからちょっと食べてくるから、ここよかったら座って」


そう言って私は自分が座っていた席をおばあちゃんに譲った。


「気を使わせちゃってごめんねー」


おばあちゃんはそう言って私が差し出した椅子に腰掛ける。


私はおばあちゃんを病室に残し、食堂でコンビニのおにぎりを食べた。

テレビでは天気予報が流れ、今日一日のニュースを伝えていた。


時間は17:00。



昨日、まことと別れてからまこととは連絡をとっていなかった。

携帯の画面を広げ、新着メールの問い合わせをする。


何件かの新着メールを受信するも、それは全部広告メールだった。



ー まこと、怒ってるかな



まこと宛にメールを送ろうと思ったが、ちょうど夕食どきだったらしく

患者さんが次々に入って来たので携帯を一旦隣の椅子に置いた。


病院で携帯を触っていて怒られた事はないけど、なんとなく居心地が悪い。


私は残りのおにぎりを頬張り、飲み物を喉に通す。



患者さんたちがいなくなったらメールを送ろうと思ったが、

食堂にくる人が思ったより多かったので、私はお父さんの病室に戻る事にした。




お父さんの病室に入るとおばあちゃんがお父さんの顔まわりを綺麗に吹いていた。


「お父さん、ここまでよく頑張ったよね」


そういっておばあちゃんは愛おしそうにお父さんの顔を撫でる。


「ゆいちゃんもね・・・

 色々あったけど、自分のこと責めちゃダメよ。

 あなたは何も悪くないからね」


おばあちゃんの優しい言葉に、私は涙が込み上げそうになった。



「ありがとう、おばあちゃん・・・」



その晩、私はお父さんの病室に泊まろうと思ったが

22:00を過ぎてからお母さんが病室に入って来た。



「あんた・・・」



お母さんは何か言いたそうにしたが、

私の隣におばあちゃんがいたので何も言わずに私の反対の方にパイプ椅子を広げて座った。



「おばあちゃん、私やっぱり帰るから・・・」


「え、でも夜も遅いし大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。

 まだ最終のバスあるし、歩いてでも帰れる距離だから」


「そう?

 でも心配だわ・・・

 タクシーで帰りなさい、ほらお金はおばあちゃんが出すから」


そういっておばあちゃんは財布から5千円札を取り出し、私の手に握らせてくれた。

最初はその5千円札を返そうと思ったが、おばあちゃんが女の子が夜遅く歩くのはダメよと言ったので折れる事にした。



私は自分のカバンを持ち、お父さんの病室から出る。

バスの時間を調べようと携帯を探したが、カバンの中に私の携帯が見つからなかった。



「え、携帯、ない?

 なんで?」


カバンの中を引っ掻き回すが、携帯は入ってない。


「そうだ、食堂・・・」


最後に触ったのは確かに食堂だった。


私は急いで食堂に行ったが、私が座ったところには私の携帯はなかった。



ナースステーションで聞いても携帯の届出はなかったらしい。



病室に戻ろうかとも思ったけど、お母さんのあの目を見るのは嫌だった。


『なんであんたなのよ』


そういう目をお母さんから受けるのが何より苦痛だった。


ー 病室にあるなら、明日探してみようかな。


本当はまことにメールか電話をしたかったけど、もう時間も遅い。


ー 明日携帯が見つかったら連絡しよう


私はそのまま病院を出て、バス停へと向かう。

カバンに入れていた折りたたみ傘を指し、時刻表を見ると

少し前に最終のバスが行ってしまったらしい。



「・・・ついてないなぁ」



あたりを見渡し、タクシーを探したが珍しく空車のタクシーが走っていなかった。



「・・・歩いて帰っても大丈夫だよね」


時間は22:15。


少し時間はかかるけど、歩いて帰れる距離なので私は歩いて帰る事にした





自宅のあるマンションに着く頃には23:00を過ぎていた。


「結構時間かかったな・・・」


マンションの玄関をくぐり、階段を登る。


マンションにエレベーターは備わっているものの、2Fなので階段の方が早い。

自宅の玄関を開ける。


廊下の電気がつきっぱなしになっていたが、

誰もこの家にいないはず。


私はリビングまで行って、誰もいない事を確認して自分の部屋に入る。


ベットに腰掛け、ゆっくりと横になる。


「まこと、アメリカ行っちゃうのか・・・」


お父さんの事もあって、考えないようにしていたけど

やっぱり一人になるとまことの事を考えてしまう



「・・・あれ」



ー そういえば、まこと、いつアメリカに行くんだろう・・・



アメリカに行くことは聞いたけど、いつ出発なのか聞いていなかった。


「あー、もう・・・

 本当ついてないな・・・」



明日携帯が見つかったらすぐに連絡しよう。

まことの事だからきっと不安に思ってるよね、多分・・・



まことのことを考えながら横になっていると、気づいたら眠ってしまっていた。



ガンガンっ!



扉を激しく叩く音が聞こえ、私はうっすらと目を開けた


「あんた!

 携帯、なに郵便ポストに入れてんのよ!

 いらないなら捨てるわよ!」


お母さんの怒鳴り声が聞こえてはっとする。


「ご、ごめんなさい!」


私は部屋の扉を開け、お母さんから携帯を受け取った。


「・・・」


お母さんは私の顔を見るなり嫌悪感を抱いているのがわかる。


「ごめんなさい、お母さん・・・」


もう一度謝り、私は部屋の扉を閉める。



携帯の充電が切れていたので充電器に携帯をさす。



私は昨日の服の格好のままだったので、携帯を充電器にさしクローゼットから着替えを取り出した。



着替えを終えると、充電が少し溜まった携帯が起動した。



私はまことに電話をしようと思い画面を開くと、新着メールが2件あった。


ー ・・・えっ


2通目のメールを見て、私は背中が冷たくなるのを感じた。



ー 昨日、まこと待ってたの?



どうしよう。


携帯の時間を見ると、時間は10:00


いつもの休日なら、まことはまだ寝ている。

とりあえず携帯にかけても出なさそうなので、まことの実家に電話をかける事にした。


プルルルルっとコール音がなる


「っはいー、伊勢でーす」


「あ、みさきさん。

 こんにちは、佐倉ですけど・・・」


「結衣ちゃーーん!

 えー、なにどうしたの?

 まことなんか忘れ物でもした?」


「え・・・?

 どういう事ですか?」


「へ?

 もしかして、まこと結衣ちゃんに言ってないの?」


電話の向こうのみさきさんはうっそーと言いながら慌てた声で続けてこう言った


「まこと、11:00の飛行機でアメリカだよ?」


私はみさきさんのその言葉を理解するよりも前に自分の家を飛び出していた。



昨日、まことが雨の中待っていたであろう公園を走り過ぎ、大通りへと向かう。


ー 急げば、まだ間に合う・・・


昨日おばあちゃんから貰った5千円を握り、タクシーを探す。

ここからなら空港まで30分ぐらいだったはず・・・



住宅街の昼間に走るタクシーは少なく、

タクシーが捕まえられるであろう場所まで走った。


途中、まことの携帯に電話したけど

電源を切っているのかコール音すら鳴らなかった。


「まこと、ごめん・・・」


繋がらない電話口に向かって私はなんども謝った。



やっとタクシーを捕まえて空港へと急いだ。


空港についてまことの姿を探した。


よく漫画や小説で主人公がこういう場面で再開するシーンがあるけど

私は結局、まことを見つけられなかった。




私が空港の中で走り回っていると、

11:00に出発するアメリカ行きの飛行機の乗り込みが完了したというアナウンスが流れた。

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