第23話 新しい道へ
師匠に弟子入りをお願いして3ヶ月が経った。
和樹さんは最初弟子入りしてきた俺を門前払いしたが、
俺は和樹さんが良いと言うまで、
毎日和樹さんの福岡での拠点である事務所に通いつめた。
「お前、日本を離れる覚悟はあるか?」
弟子入りを認める条件として、
和樹さんは俺に海外に行く覚悟を聞いてきた。
俺は何も考えず「行きます」と答えた。
和樹さんの指示のもと、俺は急いでパスポートを作った。
出発は高校の卒業式の後すぐ。
どんな反応が返ってくるのか分からなかったので
佐倉にはギリギリまで黙っていようと思った。
母さんに話した時には号泣された。
父さんには本気で怒られた。
姉さんは家族の中で唯一、応援してくれた。
年が空けてからは忙しく過ごした。
「親の金で渡米する奴は許さん」と和樹さんに言われ、
飛行機のチケットやら当分の生活費を稼ぐために
和樹さんの事務所にバイトとして雇われていたからだ。
3学期は週に一回ぐらいの登校でよかったので、
俺は平日のほとんどをバイトに費やした。
佐倉から何度か何をしているのか問われたが、
頑なに渡米の事は話さなかった。
弟子入りをする前に大学の願書を出していたので、一応試験だけは受けた。
佐倉に試験の出来を聞かれた時は正直焦った。
「学部は違うけど、一緒の大学だったら良いなー」
そう言って笑う佐倉の姿を見て、俺は申し訳なさでいっぱいになった。
大学の合格発表は3月の20日頃らしいが
その頃にはもう俺はアメリカへ飛び立っている。
ー 試験、別に受けなくてもよかったかなー・・・
自宅のベットで携帯をいじりながら、うとうとと眠りにつく。
大学の試験が終わってからは本格的にカメラのことを勉強した。
今まで学校の勉強は全然頭に入らなかったが、
なるほど、俺という人間は興味のある事には真面目に勉強するタイプだったらしい。
和樹さんからお古のカメラを譲ってもらってからは
とにかく写真を撮りまくった。
それはもう、子どもが大はしゃぎで新しいゲームをするように
毎日バッテリーが切れるまで撮り続けた。
2月の中旬から高校の卒業式の練習が始まった。
その頃にはなんとか渡米の資金も溜まり、
バイトはひとときの休みに入った。
「まこと、バイト何してるの?」
卒業式の練習が終わって、教室に戻っていると佐倉が話しかけてきた。
「内緒だよ、内緒。
そうだな、卒業式終わったら言うよ」
「えー、なにそれー」
佐倉は不満そうに言うが、それ以上は聞いてこなかった。
バイトが休みになったので、俺はまた佐倉と過ごすようになった。
過ごすと言っても、俺の部屋で漫画を読んだり図書館で勉強したり。
俺はその何気ない時間を大切にしようと思った。
特別な事はしなくて良い。
ただ、二人で同じ時を過ごせれば良いと思っていた。
たまに佐倉が用事があると言って俺の家に来ない時には
地元を歩き回って、写真をとった。
本当は佐倉に写真の被写体をお願いしたかったが、
その時の俺はそう言う事をお願いするのに
ちょっとした恥じらいを持っていた。
ー 今度、一枚だけお願いしてみようかな・・・。
ガキみたいな話だが、佐倉の写真を常に持っていたかった。
よくある、財布の中に写真を入れるとか。
そういうのに憧れを持っていたのは確かだ。
そうこうしているうちに卒業式を迎えた。
中学の時と同じ様なシチュエーション。
声を殺しながら泣く同級生たちを見ながら、俺は佐倉の方へ目を向けた。
ー 結局、写真は撮れなかったな。
3日後にはアメリカに発つ。
ー 卒業式が終わったら、言うか。
俺は理事長先生の言葉を聴きながら、
佐倉になんと言うのが正解かを考えていた。
言葉を考えながら、佐倉がどんな反応をするのか心配になった。
母さんの様に泣くのか、
父さんの様に怒るのか。
ー 姉さんの様に応援してくれると、ありがたいんだけどな。
佐倉の方を見ながら、泣く佐倉、怒る佐倉、応援する佐倉。
色んな佐倉の表情をイメージした。
ー おこられるのは・・・
やだなぁ・・・
俺は佐倉は怒ったら速攻で逃げる覚悟を決め、
他の人の反応を思い出した。
*
家族の次に話したのは平川あおいだった。
あおいは最初、俺の言っている意味が分からなかったのか
少しの間固まっていた。
そのあと、すっごい勢いで殴られた。
そして、あおいの実家である剣道道場へ行き最後の真剣勝負をする事になった。
「中学ではあたしの圧勝だったのになー」
あおいは防具を身体につけながら、独り言の様にこぼした。
「高校では俺の圧勝だけどな」
俺は早々と準備を終え、竹刀の調整を始めた。
「私の人生最大のライバルはまこと、あんただよ」
あおいはそう言うと
真剣な眼差しをまことに向けた。
「俺、負けねーよ?」
あおいの真剣な表情に俺も真剣に返した。
そして、更衣室を出て剣道場の中央に立つ。
「とりあえず、2本先取で」
「おっけー」
時間無制限の2本勝負。
審判はいないので、打たれた方の申告制にした。
竹刀を構え、お互いに殺気を放し合う。
外で何かの音が聞こえた瞬間、俺とあおいの試合は始まった。
この日の勝負は、あおいの勝ちだった。
練習不足といれば、確かに俺は練習不足だった。
それでも、負けた事が悔しくてそのあと、何度か試合を繰り返し行った。
「まこと、あんたが選んだ道なら応援するわ。
でも・・・
夢を叶えずにヘラヘラ帰ってきたら、ぶっ叩いてやるから」
あおいは竹刀の切っ先を俺に向け、
試合の時の様な殺気をまことに向けた。
「あったりまえだろ」
俺も、竹刀の切っ先をあおいの方へ向ける。
*
ー あおいの時みたいに殴られるのは嫌だな
体育館での卒業式を終え、教室に戻り窓を眺める。
中学の時の様に、一人の生徒が泣き出し
他の生徒も一斉に声をあげて泣き出した。
部活動のクラスと言う事もあって、
仲良しグループではなく、
3年間共に競い合った仲間との別れを惜しんでいた。
卒業式後のHRも終わり、教室をでたところで
俺は佐倉のクラスに顔を出した。
「佐倉、いる?」
HRは終わったのに、教室には大半の生徒が残っていた。
「どうしたの?まこと」
教室の奥から佐倉が歩いてきた
「この後、一緒かえろー」
「いいけど、それ言うためにわざわざ来たの?
別に教室来なくても、あとで剣道部のみんなで集まるじゃん」
「そりゃそうだけど、一応予約入れとこうと思ってな」
最近の佐倉は予定があると言う事が多かったので、
今日は先約が入らないうちに誘っておこうと思った。
佐倉の用事がなんなのかは聞いてなかったが、その時は時に深く考えてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます