第16話 回想9 -始まり-

卒業式もHRも終わって、

まことたちが教室を出るのを横目に私はオタク友達との記念撮影をしていた。


正直。


今ここでまことと一緒に外に出れば

まことファンの女の子たちの視線がキツいのを知っていたから。


おおっぴらに何かをされた訳ではないけど、

その視線だけは耐えきれない。


『なんで。あんたなのよ』


と言われなくても感じる視線。



たぶん、まことは気付いていない。


気は効くし、細かいところに気付くけど


そういう悪意には無頓着。


たぶん私自身の環境のせいもあると思う。


「まことくん行っちゃったけど、いーの?」


「今行ったら確実に他の女子からクレームが来るわよ、

 さっきだってそうだったじゃない」


私に向けられた話は、私以外の子たちで盛り上がる。


「今度は他のクラスの女子や、後輩の子たちもいるしね。

 結衣はひとまず王子様のお迎え待ちってところですかね?」


そう言ってニシシっと笑う彼女に悪気はない。



まことには絶対秘密にしなければいけないことがある。


それはこの子たちが、まことをマンガのキャラクター上で王子様役にし

ハーレムマンガを書いている事。


私はそのマンガの制作には携わってない。

さすがにまことに申し訳ないって気持ちが強すぎるから。


「王子様って・・・

 まことは女の子だよ」


私がそう言うと、きょとんとした顔で

「まことくんは男になりたいんじゃない?」と答えてきた。


たしかにまことの言動や行動を見れば、

女の子の部分は一切ない、むしろ男の子でいるのが当たり前すぎる。


その話は今までまこととはした事ないけど、

たぶんきっとそうなんだろって心のどこかで思ってはいた。



「ずばり!

 私の予感ではまことくんは結衣の事好きだと思うわ!


 というか、あんたたち付き合ってたりしてないよね??」



オタク友達全員が興味津々とばかりに前のめりになった。



「ないないないって!


 そりゃあ、まことの家にはよく行くし、

 一緒に出掛けたりするけど、そーゆーのは無いから!

 うちらは友達なの!」


といって目の前でバッテンマークを作る。


さすがに夜ご飯を一緒に食べてるとまでは、この子たちには言ってない。



「そりゃそーか。

 まぁ、そうだったとしても、今は無理よねー」


「今はって何でよ」


他のオタク友達が会話に混ざる。


「世間の目ってやつよー。

 それこそ、結衣がまことくんにオタクがある事を隠している様に

 マイノリティは肩身が狭いのよ」


と言って彼女はふぅっと諦め顔を作る。


「ネットがもっと広く広まったらどうなるかわかんないけどさ、

 例えば女の子同士で付き合ってますって言ったとして親が納得しないわよ」



そう言う彼女は、後に知ったのだが

まことの様なイケメンな女の子と付き合っていた。


たぶん、自分の経験を私に教えてくれようとしたんだと思う。


「別に、まこととはそんなんじゃないから大丈夫だよー!」


といってその話はそこで終わった。



私たちは卒業後も集まる約束をして、解散した。



私は自分の席に座り、携帯を開く。


修学旅行の自由時間の時に、まことと一緒に写った写真を写真フォルダから開く。


椅子に背中を預けて、天井に向けて腕を伸ばす。


携帯にはカメラから逃げようとするまことの写真。



「高校でも同じクラスになれたら良いなー」とつぶやいて、後ろの席を見る。



まことの席に、まことのカバンが掛かっているのを見つけた。


あいつカバン忘れてるじゃん、と呆れまことにメールを打つ


:カバン!教室に忘れてるから、取りに来なさいよ。


送信っ。


メールを送ったと同時にまことのカバンからブーブーとバイブ音が流れた。


「あ、あいつ携帯を携帯してないなー!」


このまま誰かが来て、

携帯が見つかるのを防ごうとした私は

まことのカバンから携帯を取り出した。


(ごめん!)


と心の中で謝り、携帯のバイブ音を止めるため、画面を開く。


新着メール1件 の表示。


悪気はなかったが、待ち受け画面を見ると、

私の寝顔の写メが待ち受けにされていた。


ちょ、これいつ撮ったの?と思ってよく見ると、

額に『肉』と書かれ、頬に猫のヒゲが書かれていた。


まことの家に行き、気付いたら寝てしまっていて

起きたら顔に落書きをされていた事があった。


きっとあの時だ!と思い、あのイタズラ小僧!と少し怒る。


お返しに、私の携帯の中にあったまことの寝顔の写メを

赤外線でまことの携帯に写し待ち受けに設定した。


きっと携帯開けたらびっくりするぞーっとイタズラをセット完了してニヤニヤしていると、



「さ、佐倉

 ・・・今ちょっと良い?」


と言って隣のクラスの男子が入って来た。



私は咄嗟に携帯を隠し「なに?」と答える。



男子はバツが悪そにそわそわしていた。



さっきまでいたクラスメイトはみんな外に出たらしく、

教室には私とその男子だけ。



私は自分がこれから告白されるなんて

1ミリも思わなかったので


(こういう告白シーンあるけど、色々と無理あるよね)


と内心でダメ出しをする。



「あのさ」


男子が勇気を振り絞って、

告白の言葉を言っているとき、



私はまことの携帯をギュッと握っていた。



すると、廊下の方でドタバタと走る音が聞こえた。


誰かが居たのかもしれないって思いながら廊下の方をみていると、


「あの、佐倉?」


と男子が困惑した顔でこちらを見ていた。



勇気を出して告白してくれたのに、

そっぽを向くなんて失礼な事をしてしまった。


「あぁ、ごめん。

 ・・・ごめんだけど、付き合えない。

 ごめんね、せっかく言ってくれたのに」


と言って笑って誤魔化そうとすると


「・・・やっぱ、伊勢と付き合ってんの?」


男子は悔しそうに下唇を噛みながら聞いてきた。




「・・・まことは女の子だよ。」



私はそう言い、まことのカバンに手を触れる


「でも、まことが男の子だった・・・

 今の告白を断る理由にはなってたかも」


そう言ってまことのカバンを担ぐ。


「それに私、君の事ちゃんと知らないから。

 付き合うっていうのが想像出来ないの。


 ごめんね」


それだけ言い、男子が何かを言って来る前に


「じゃあ、ばいばい」


と言って教室を飛び出した。



(まこと、どこにいるんだろう)


教室を出て廊下を歩きながらまことのカバンを抱きしめる。


うー、と唸り声を上げながら、さっきまでの出来事を振り返る。

こんな事は今までなかったので、

正直心臓がバクバクしているし、今更キンチョーしてきた。


廊下を進み、曲がり角にくる。

この先は下りの階段しかない。



角を曲がると、まことが階段の中腹に座っていた。


もしかして。


さっき走っていく音がしたのは、まことだったの?




疑問を持った瞬間、たまらなく恥ずかしくなった。


「・・・


 まこと!」



精一杯、平常心を保ちながら名前を呼ぶ。


まことはビクッとさせながら、恐る恐るこちらを見上げた。



「な、なんだよ」


ぶっきらぼうに答えるまことを見て可愛いなコイツって思ってしまった。



「さっきの教室のやつ、もしかして聞いてたの?」


まことにつられ、ぶっきらぼうな態度をとってしまう。


「……別に、告白されてるとこなんて、


 聞いてねぇし」


まことはそう言って立ち上がって帰ろうとする。



私は急いで階段を降り


「聞いてたんじゃん」


と言って、まことのカバンをまことの背中に叩きつける。


「あと、カバン!


 教室に忘れてたから。

 しっかりしてよね」


まことを追い抜き、階段の踊り場まで行く


「高校でもよろしくね」と言って笑ってみせる。



「おう」


と言うとまことは私が手に持ってた携帯を掴む。


「これ、俺のっしょ?」


と言って携帯を取り、画面を開く。


「あっ」


と言って、むーって顔を膨らませる。




「・・・中、見たのかよー」


と言って不貞腐れるまことは子どもっぽい顔をしている。




「勝手に人の顔に落書きしたバツよ」


「それは、前に謝ったじゃん」


「そして勝手に写真を撮ってたバツも」


「それは、、、ごめんなさい」


と正直にまことは頭をさげた。


「そうやって素直に謝るところ、好きよ」


といってまことの頭を撫でる。




そのまま、他愛のない話をしながら中学校の門をくぐる。

ハッと思い出し、私は中学校の門のところでまこととの2ショットの写真を撮る。


周りには他の生徒もいなかったので、

まことの手を握り


「さっきの告白だけど、断ったから。

 私にはまことのお守りもあるしね」と冗談っぽく報告した。


この時、まことが嬉しそうに笑っていて私も嬉しくなって笑った。



それから3週間の休みのあと、私たちは鈴木学園の入学式を迎えた。


鈴木学園は女子高だっていうのを

まことはギリギリまで知らなかったらしく


「やってけるかなー」


と不安そうな顔をしていた。


それはこっちの台詞よ、と言いたかったが言わなずにしておいた。


まこと自身は自分が同性から好かれている事に気付いてないし、

気付いたら気付いたでたぶんまことは沢山悩むことになるだろうから、黙っておくことにした。





入学式が終わると、まことは剣道部の武道場に顔を出すと言ったので私もついて行くことにした。


まことは顧問の先生と練習中の先輩たちに挨拶をしている。


中学校の武道場より広いと思う。

さすがは文武両道の学校だなぁって思ってみていると3年の先輩に声を掛けられた。




「伊勢さんの付き添い?

 それとも入部希望なのかな?」



他の先輩たちと違い、剣道着ではなく制服姿のキレイな人だった。


「あ、はい!

 付き添いです。


 中学が同じだったので・・・」



「仲がいいのね」


とニッコリ笑う先輩は、本当に同じ生き物なのかと疑うぐらいキレイな人だった。


「よかったら剣道部のマネージャー、

 やってみない?」


その提案を聞いて、私は一瞬固まった。


「特進クラスでなければ、だけど」


と先輩は言う。


特進クラスは、大学受験を視野に入れた偏差値の高い生徒のクラス。


部活動禁止ではないけれど

特進クラスの生徒は部活動をしていなかった。


「私は特進ではないので、でも」


少し戸惑う。


「私、剣道のことよく知らないんですが

 大丈夫ですか??」


この時、マネージャーの話を断るというのは微塵も思っていなかった。



「もちろん大丈夫よ。

 やっていけば覚えていくから」


そう言って先輩は


「剣道部へようこそ」


と言って私をまことたちが話している輪の中に連れていってくれた。



「あ、山本先輩

 これから、よろしくお願いします」


といってまことが、私の隣にいたキレイな先輩に頭をさげる。



「伊勢さん、よろしく。

 まさかウチの学校に来るとは思わなかったわ」


そう言って山本先輩はまことと握手を交わす。



「部長、伊勢さんと知り合いだったんですか?」



他の先輩が山本先輩の事を『部長』と呼んで驚いた。

え、このキレイな人が剣道部の部長??


中学ではまことやあおいといった、

野生動物のようなギラギラしている人が剣道部にいたので

剣道をしている人はみなギラギラしている人だと思ったのでびっくりした。



「中学の大会で1度当たった事があるのよ。」


そう言ってまことと山本先輩のエピソードを聞かされた。



剣道を始めたばかりだったまことは、

個人戦で初めて当たった山本先輩にボロ負けしたらしい。



その後、お昼の時間に山本先輩のところへ来て


「次はぜってー負けない!」と言って走って逃げたらしい。



「その話は忘れてくださいよ」


と困った顔のまことを見て、すごいなって思った。



今も昔も、まことは敵わない相手に勝つ事を考えている。



果たして自分はどうだろうか、と。


敵わない相手から逃げている自分は。


そんな事を考えたが、その思考は一旦とめた。



今はまず、剣道部のマネージャーとして頑張らなくては!


うん!と息巻いていると、


「え、佐倉、お前マネージャーやんの?」


とまことは驚いた顔をする。


「そうだよ!

 しっかりサポートするからね!」


と言ってピースサインをする。


「あ、先輩方、よろしくお願いします」


と慌てて他の先輩たちに頭を下げる。



こうして、私たちの高校生の時間はスタートした。

初めての部活動に私のワクワクは止まらなかった。

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