第11話 帰り道

21:00を過ぎ、同窓会の1次会が終わった。


幹事がマイクで2次会のアナウンスをしていたが、

伊勢まこと、平川あおい、生田ななは帰宅の準備をしていた。


3人がホテルの駐車場へと向かっていると、

他の同級生たちが「もう帰るのかよ」と話しかけてきた。

やり過ごす、と言ったら失礼かもしれないが

酔っ払った同級生たちを交わしながら車へと到着した。


「それにしても、

 お前、男どもからの人気すごかったな」


車のドアを開けながら、俺があおいに話しかけると


「本当!

 平川さんってすごいモテるんですね」


と生田が話に乗ってきた。


「学生時代のあれはなんだったのかねー」


とメスゴリラ呼ばわりされていた学生時代をどうやら根に持っていたらしい。


「メスゴリラは男子たちの照れ隠しだったんだろ」


そう言って、車に乗り込みシートベルトを閉める。


駐車場の出口に差し掛かると

ホテルの入り口で同級生たちが酔っ払って肩を組んでいる姿が見えた。


「そういや、二人は酒あんまり飲んでないの?」


あおいも生田も顔を赤くしておらず、

陽気になっていないのでまことは二人がお酒を飲んでいないと思っていた。


「飲んだわよ、日本酒とかワインとか。

 私ずっと飲んでたじゃん」


「私も、梅酒だけど

 そればっか飲んでたよ」


と答える二人の顔をバックミラーで見て


「九州の女は本当に酒が強いんだな」


と漏らした。



だが、車をしばらく走らせていると

あおいと生田がぐーぐーと寝息を立てながら寝ていることに気づいた。


どうやら二人とも酔いが回ってきたようだ。


天神の街から離れ、高層マンションの群れを抜けていく。

もうすぐで俺たちの地元に着くというところで後部座席から声がした。


「あ、そこの本屋さんです!

 まことくんの特集を組んでいたのは」


と言ったのは生田だった。


「生田、起きてたのか?」


寝ぼけていたのか、それとも一瞬起きてまた眠りに入ったのか。

バックミラーで生田に目をやるが生田は気持ち良さそうに寝ていた。


まことはたった今、通り過ぎた本屋に寄りたい衝動を抑えた。


さすがに寝ている人間を乗せたまま車を降りるわけにも行かないので、

二人を送ってから寄ることにした。


その本屋は大手チェーン店で24時間営業している。

きっとまだ間に合うだろうとは思いつつ、少し車のスピードをあげた。


先にあおいの家に行き、そのあとは生田をうちに送り届けた。

二人とも目をさますと

しっかりした足取りで自宅の玄関をくぐっていった。


「さて、と」


まことは車に乗り込み、タバコに火を付ける。

深く息を吸い込み、車のカーナビを見る。


時間は22:00を回っていた。


「どうすっかなー」


先ほどの本屋に行くかどうかを考えた。

時間も遅いし、別に明日改めて寄ってもいいと考えたが、


無性に


今行った方が良いと思った。


自分の特集が組まれていると聞いてから

どういう風に自分が評価されているのか知りたかったのもある。


その特集がどういう経緯でされたのか店の人に聞いてみたいとも思った。


口に加えたタバコはまだ半分も吸っていなかったが、灰皿に押し付け火を消す。


そのままハンドルに手をかけ、アクセルを踏む。


住宅街の細道から大通りに出る。

時間が遅いせいもあって、通りを走る車はまばらだ。


あっという間に目的の本屋に到着した。


広いフロア、天井にはコミックスや実用書など本の種類を示す看板が吊るされている。

その案内に目をやりながら、まことは写真のコーナーへ足を進めた。


店内に流れていたのは最近の流行りの曲、

というよりかは少し昔の、まことたちが中学生や小学生の頃に流行っていた音楽が流れていた。


自分が学生時代に聞いていた音楽が、

今では懐メロ扱いになっている事に月日の経過を感じた。


写真のコーナーへはフロアの中央にあった。

他の書店では珍しく、コミックスとライトノベルの棚の通路だった。


次の棚を曲がれば写真コーナーに着くというところで店内のBGMが変わった。

そのBGMは小学生の夏休みによく流れていた曲。


夏の定番曲といえばおそらく誰もが聞いたことがある曲。

それを耳にしながら、まことの視界に写真コーナーが見えた。


大きなポップで「話題のカメラマン:真琴」と書かれ、

雑誌の切り抜きでまことの写真が貼られていた。


(うわぁ、マジで俺の特集されてるわー)


恐る恐る。

その特集コーナーへ歩み寄る。


ふと、ポップから目を逸らした。


自分の顔写真が貼られていたので、周りの目を気にしただけかもしれない。


普段あまり気にも留めないが、

その時はただ気になった。


自分の膝あたりに組まれていた特集コーナー。


自分の写真集や少しだけ映った雑誌のバックナンバー、

少し高い位置に飾られている説明のポップ。



それから、まことの視線は隣に立っていた女性の横顔を見た。



店内に流れていたBGMの歌詞が重なる。



今は夏ではないし、もう学生でもない。



その曲が流行ったのは10年以上前のことだし、

季節は夏から秋になろうとしていた。



それでもその曲の歌詞と、

今、まことが体感している状況は酷似していた。



心臓が高鳴る。


BGM以外の雑音が耳に入らない。


次第に自分の胸の鼓動すら聞こえてくるようだ。


油断していた。

特集が組まれていると知った時、こんなこと考えもしなかった。



あの同窓会の会場には現れなかった、



佐倉結衣が真琴の写真集を手にとって読んでいた。

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