第9話 回想5 -中学2年の冬-

リビングで佐倉との夕飯を済ませるとテレビから聞こえたのは誕生月占いの話だった。


「まことってそういえば誕生日いつなの?」


食べ終わったお皿を片付けながら、佐倉は俺に話しかける。


「10月1日だけど」


「えー!過ぎてんじゃん!

 来年は期待しててね」


佐倉の顔は見えなかったが、たぶん笑っていたと思う。


「佐倉はいつなんだよ」


テレビを消して自分の食器を持って、台所に向かう。


「クリスマスだよー」


とかえって来て、一瞬俺の頭にはてなが浮かんだ。


「あー、12月25日が誕生日って事か?」


納得する様に言葉を吐き出すと


「正解!」


と言って水道の蛇口をひねる。


食器を一旦流し台におく。

冷蔵庫に貼られたカレンダーに目をやると

今年のクリスマスは木曜日だった。


「クリスマスは木曜日。

 あ、でも終業式って24日だよなー」


佐倉が洗った食器を受け取り、濡れた皿を食器乾燥機に置いていく。


「そうだねー。

 まことの通信簿が帰ってくるねー」


母親と同じ様な事を言う佐倉にババァ、と言うと俺は右足をけられた。


「いってぇ!」


奇しくも佐倉と出会った時に痛めた右足を蹴られ

正直、ものすごく痛かった。


「あ、ごめん!」


「いや、いーよ、自業自得だし。

 ・・・クリスマスっていうか、誕生日って予定入ってんの?」


食器乾燥機の中に皿を入れながら、少しぶっきらぼうに問いかける。


「うーん。

 ・・・たぶん無いと思うよ。」


夕食に使った皿を洗い終え、佐倉は手を洗いながら答えてくれた。


「んじゃあ、25日も俺ん家来いよ。

 ピザとかさ食おうぜ」


当時の俺からしたら、精一杯の誘いだった。

女の子にクリスマスの予定を聞くのも初めてだった。


「それいいね!

 じゃあ、その日は私も何か作るよー!」


嬉しそうに言った佐倉の笑顔が嬉しくて、俺は小さくガッツポーズをした。


そのあと、俺の部屋に行き本格的に英語の勉強をした。

佐倉との勉強のかいもあり、2学期の期末テストは中間テストより大幅に点数がアップした。


そのテストで一番点数がよかったのは英語の点数。

それを知った佐倉はすごく喜んでくれていたのを覚えている。


剣道部の顧問の田中先生からは


「これからも勉強も部活も頑張れよ」


と嬉しそうに褒めてくれた。

この時初めて勉強をやってよかったなと思った。




終業式が終わって帰ろうとすると


「まこと!

 今日は私予定あるから先に帰るね!」


と佐倉が言って来たので久しぶり一人で下校することにした。


「まことー!

 今日この後空いてるー?」


クラスの女子たちが俺の席へ近づいてくる。


「この後クラスの何人かでカラオケに行くからまことも一緒に行こうよ!」


あおいとは別のリーダー的存在の女子がウキウキした顔で誘って来た。


「ほら、ななからも何かいいなよ」


小さな声で生田を前の方に押しやる女子がいた。


「あ、まことくん。

 ・・・予定空いてるなら、一緒に行こう」


生田とは音楽の話で仲が良くなっていたので、その誘いに乗ることにした。


「あ、でも俺ちょっと買い物したいんだけど、いい?」


明日の佐倉の誕生日プレゼント兼クリスマスプレゼントをまだ買ってない事を思い出した。


「それならみんなで行こうよー。

 カラオケの隣にショッピングモールあるし」


そう言ってリーダー核の女子は生田の方を向いて「よかったね」と言っていた。


一度帰宅し、制服を脱ぎ捨て私服に着替えた。

ジーンズに白のパーカー、財布と携帯だけを持って自宅の玄関を出る。


玄関の左横には俺の自転車が置いてある。

最近自転車で走り回ってねーな、と思いつつ


「今日はよろしくな相棒」


と自転車に声をかけた。


自転車を走らせ、ショッピングモールに向かう。

後10分ほどでショッピングモールに着くところで、生田が歩いているのを見かけた。


「よっ、生田」


と声をかけると生田はひゃっと小さな悲鳴をあげて驚いていた。


「あー、ごめんごめん。

 生田チャリ持ってないんだっけ?

 なんなら、乗って行きなよ」


と言って俺のチャリの後輪を指差した。


「この辺、警察いないからさ見つかんねーよ」


自転車のニケツは本当はルール違反なのだが、

この当時はまだ警察に見つからなければOKという認識だった。


「あ、ありがとう・・・」


と言って、もぞもぞと後輪へ跨った生田に


「危ないから捕まっててなー」


というと、生田は思いっきり俺の背中に抱きついた。


(自転車にって意味だったんだけど、まぁ、いっか)


生田を乗せ、自転車を走らせる。

何度かバスが通りすぎたが、そのうちの1台にクラスのリーダー核の女子たちが乗っていた。

俺に向かってグッジョブのポーズをしていたが、それが何を意味しているのかは分からなかった。


そのまま自転車を走らせショッピングモールに到着。

無事、警察に見つかる事なく目的地に到着して、自転車置き場に自分の自転車を止めにいく。

生田は黙って俺の後ろを付いて来ていたので、そのままショッピングモールの入り口まで歩いて行った。


その後、リーダー核の女子グループと合流し、

女子たちが雑貨コーナーでキャハキャハと買い物をしている間に、俺は俺の買い物をしていた。


(佐倉ってなに貰ったら喜ぶのかなぁ)


ショッピングモールをあてもなく歩いていると、

後ろに生田がくっついて来ていることに気づいた。


「あれ、生田。

 どうした?

 さっきの店でみんなで買い物してたんじゃないの?」


まるで親戚の小さい子のように黙って付いて来た生田に理由を聞いた。


「まことくんと買い物したいなーって思って」


普段、生田はよく笑うしクラスの男子から人気があるのも知ってるので

こういう風にもじもじしている姿をみて


(俺ってもしかして苦手意識持たれてるのかな?)


と不安になった。


「まことくん、なに買うか決めてる?」


徐々にクラスでの生田の口調になっていく。

どうやら、ボルテージ?みたいなのが上がっているらしい。


「あー、明日佐倉の誕生日だから。

 あいつへの誕生日プレゼント買おうと思ってるんだけどさー、

 ぶっちゃけそういうの買ったことないからまだ迷い中ー」


と笑って答えると


「佐倉さんと仲良いね」


と返された。


「それ、よく言われる。

 あいつとは何か波長が合うんだよなー。

 一緒にいて楽というか」


そう言って俺は生田の隣に立って


「生田は何買うか決めてんの?」


と聞いた。


生田は俺と身長がそんなに変わらない。

隣に立ってみて初めて気づいたのは生田は横から見るとすごい可愛い。


正面の顔が可愛くないという訳ではないが、俗にいう横顔美人というやつだ。


「私はマフラーにしようかなって思ってる…」


少し小声で話と生田は


「あっちのお店にあるからまことくんも一緒に行こう」


と誘われ、そのまま生田とその店に入った。


(マフラーか。

 校則違反でないし、これでもいいなあ)


店に入るなり、たくさんあるマフラーの中から真っ白なマフラーを手に取る。

すると生田も似たようなマフラーを手に取っていた。


「それ、いいよな。

 俺こういう手編み感のあるマフラー暖かそうで好きなんだよね」


と声をかけると


「じゃあ、これにしようかな」


とまた小声で返事をしていた。


生田のボルテージは下がっているのか、

さっきから小声モードな生田をみて俺は少ししょんぼりしていた。


(俺ってやっぱり生田に嫌われてるんだろうか・・・)


考えたくはないが、音楽の話をできる友達が減るのは残念だなと思いつつ


(好かれるように頑張ろう俺!)


と自分を励ました。


そして手に取った白いマフラーをそのまま手に持って、店内を一周する。


すると、俺の好きなキャラクターの小さなぬいぐるみが置いてあった。

どうやらこの店とコラボしているらしく、Tシャツにはキャラクターがプリントされている。


(へー、こういうのあるんだ。欲しいな)


ジーンズの後ろポケットに突っ込んだ財布の中身にはTシャツとマフラーを買う余裕はなかった。

中学生の小遣いでは買えないので、今度親に頼んで買ってもらおうと決めた。

無駄遣いをしているともうすぐ発売される漫画が買えなくなるしなって自分を言い聞かせる。


生田は先にレジでお会計をしていて、受け取った商品は綺麗にラッピングされていた。

きっと誰かに送るマフラーを選んでたんだろうと思いつつ、俺も佐倉へのマフラーをレジに持って行った。


ラッピングは生田と同じものになったので、

会計が終わったあと「お揃いだな」というと「そうだね」と少し戸惑った顔をした。


(うーん、やっぱり嫌われてんのかなぁ。

 でも嫌いなやつと買い物はしねーよな)


とネガティブになりそうな思考を無理やりポジティブ思考に変換した。


その後、雑貨コーナで買い物をしていた女子たちと合流し、カラオケへと向かう。

カラオケの最中、俺は生田に嫌われないよう精一杯努力して話しかけた。


カラオケの終盤、生田がクラスで話すのと同じ声のトーンになった時は心底、安心した。


カラオケは2時間で終わって

みんな門限までに家に帰れるよう帰りのバスの時間を調べている。


生田が代表して支払いを済ませている間、

俺はカラオケの受付にあったUFOキャッチャーに目を奪われていた。


そのUFOキャッチャーの景品は俺の好きなキャラクターのぬいぐるみ。

チェーンが付いているのでカバンに付けられるタイプのものだ。


UFOキャッチャーは1回100円。

ゲームセンターにあるような大きいアームではなくコンパクトサイズのUFOキャッチャー。

これなら取れそうだなっと思った俺は何も考えず、100円を投入口に入れた。


1回目は目当てのぬいぐるみの頭部を掴みはしたが、

他のぬいぐるみの胴体部も掴んでいたので取れはしなかった。


2回目の挑戦では狙っていた頭部を掴みはしなかったが

頭部に繋がっているチェーンの輪っかをアームがくぐった。


(あ、いける)


と思ったら、なんとチェーンを掴んだぬいぐるみが動くと、

隣の景品も一緒に動き合計2つを一気に取ることに成功した!


「え、まことすごーい!

  2つも取ったの?」


後ろで見ていた女子が驚きの声をあげた。


「たまたま取れたんだよー」


とちょっと嬉しそうに答えると、生田が会計を終わらせこっちに近づいてきた。


(いいこと考えた!)


と思って歩み寄ってきた生田に

片方のぬいぐるみを生田に差し出した。


「これ、買い物に付き合ってくれたお礼。

 あげるよ」


とぬいぐるみを生田に渡す。


「え、本当にいいの?

 これもらっても」


嬉しそうに言う生田に周りの女子たちは


「もらっちゃいなよ」

「クリスマスプレゼントじゃん」


と声をかける。


「まことくん、ありがとう」


生田が喜んでくれたことが嬉しくて「おう」と言って笑って見せた。


その後、女子たちとはカラオケ店で別れ、

俺は行きと同じように生田を自転車の後輪にのせ自宅へと自転車を走らせた。


俺たちの中学のあたりまで来ると、

生田は「この辺で大丈夫だから」と言って、自転車を降りた。


「生田ん家ってこの辺なんだっけ?」


「もう少し先だけど、

 今日はこの後家族で食事に行くの。

 カラオケに行くって言ったら学校で待ち合わせって言われたから、ここで大丈夫!」


と少し早くち口調で答えた。


「そっか、ならここで。」


俺も自転車から降りて、自転車の方向転換をする。


「あ、まことくん!

 ちょっと待って。」


振り返ると、ショッピングモールで買ったマフラーを俺に差し出していた。


「え、これ、なに?」


「まことくんにプレゼントしようと思ってたやつだから」


と言って俺の胸元にラッピグをしたマフラーを持ってきた。


「ずっと言おうと思ってたんだけど、

 私、まことくんに憧れっていうかかっこいいなって思ってて、

 1年の1学期の時は話しかけようと思って、でも話しかけられなくて。」


生田はまるで好きな男子に告白するかのように頬を赤くしていた。


「私のサックスの音、綺麗だって言ってくれてありがとう!

 すごく嬉しかったんだ。

 だからそれのお礼って意味で。

 受け取ってもらえるかな?」


俺がクラスの男子なら

このまま逆に告白してしまいそうになるくらい、今の生田は可愛かった。


(女子の変化力ってすげー)と思いつつ、


「ありがとう、ちょうどマフラー欲しいなって思ってたんだ」


と言って生田からマフラーを受け取った。


俺は綺麗にラッピングを開け、その中に入っているマフラーを取り出す。

綺麗な白色の手編みのマフラー。

早速首に巻いて「似合うかな」と聞く。


「うん!」


と満面の笑みを浮かべ生田は俺の後ろをみた。


どうやら、迎えの車がきたらしく


「あ、じゃあまた来年」


と言って、小走りに車の方へ走っていく。


「おう、来年な」

と言って、俺は自転車に跨った。


まさか生田がマフラーくれるとは。

他の男子どもには黙っておこう。


生田からもらったマフラーは首に巻くとすごく暖かくて、俺は口元までマフラーを巻いた。


そして、俺は自宅に向かって自転車を走らせた。

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