第7話 同窓会2

ステージに映し出される写真を見ながら、

伊勢まことは生田たちに囲まれていた場所から静かに離れた。


スクリーンには佐倉結衣とまことが写っている写真が流れる。

実家の部屋に置いてあったエメラルドグリーンを背景に二人が写っている写真。


先ほど同級生女子から言われた一言は、これまで沢山言われた言葉の一つに過ぎない。


それでも。


スクリーンに浮かぶ佐倉結衣の写真を見て、その場に居ることが苦しくなった。


写真は次々にいろんな思い出を映した。


入学式。

初めての運動会。

合唱コンクール。

夏の部活動大会。

自然教室や修学旅行。


普段の何気ない日常の写真も数枚あった。


まことは相棒である一眼レフを手に、会場にいる同級生の横顔を静かに撮りだした。

そうすることで心を落ち着かせたかったのかもしれない。


それを見た生田は、

会場に用意された食事を皿に盛り、まことのところへと近寄る。


「まことくん、卵好きだったよね」


生田が盛って来たお皿には卵焼きとミートボール、パスタが程よく盛られていた。


「あ、写真撮ってたね!

 ごめん」


「いいよ、ちょうど腹減ってたし」


まことは一眼レフのストラップを緩め、

斜めがけに背負い、生田からお皿を受け取る。


「生田って女子力高いよね。

 この皿の飯うまそうだもん」


まことは卵焼きをいの一番に口へ放り込む。


「そんなことないよー」


生田は嬉しそうに答え、自分が持っていたグラスを口につける。


先ほどの会話には触れないように、他愛のない会話を繰り返す。

生田にとって、まことに会えて話せる事が今日の一番の目的だった。


二人の元に、あおいが合流する。

そのあおいにくっついて、何人か男性陣も混ざって来た。


気づけば大所帯になったその輪の中で世間話とは違う会話が始まった。


いわゆる、男性陣のアピールタイムだ。


誰に対してアピールをしているのか

何となく気づきつつまことは「すげーなお前ら」と相槌を打っていた。


そんな中、一人の男性がまことに話を降る。


「まことって今、カメラマンやってるんだろう?

 芸能人とかと会ったりすんの?」


少し酔いの回っているその男性は顔を赤くし、

口からはアルコールの匂いをさせてまことを質問ぜめにする。


「モデルとかアイドルとか撮りまくってんの?」

「モデルの○○ちゃん撮ったことある?」

「アイドルの□□の写真集でお前の名前見たぞ!」

と、男性陣の目の輝きが増していく。


「あー、わかったわかった!

 モデルさんとは仕事した事あるし、アイドルの子とかもたまに撮るけど、

 メインはそっちじゃないから、繋がりはねーよ!

 みんなが思ってるほど俺別に売れてないから!」


終いには演者さんの連絡先を聞かれそうだったので、先に断りを入れておく。


何人かの男どもが期待はずれというような顔をする。


九州男児の熱気に当てられ、喉が乾いたまことは新しい飲み物を受け取りにバーカンへ向かう。


「まことくん、大丈夫?」


背中の方から生田の声がした。


「大丈夫、大丈夫。

 ちょっとびっくりしただけ」


と言って笑い、バーカンのスタッフへ


「トニックウォーターありますか?」


と注文する。


「お酒飲まないの?」


という生田の問いに


「今日車で来たんだ。

 何なら帰り送って行こうか?

 あおいもいるけど」


と返す。


すると生田はびっくりした表情で


「いいの?」


と前傾姿勢になった。


まことは思わず笑ってしまった。

あまりにも生田の行動が可愛すぎたのだ。


「そういえばさ」


笑った表情のまま、まことは生田に話しかけた。


「月曜時間ある?

 取引先からの依頼で博多美人を撮りたいんだけど被写体になってくれない?」


まことからの提案に生田は驚きを隠せなかった。

まるで好きな人から突然告白をされた高校生のような表情。


「ダメかな?」


と困った顔をするまことに


「い、いいよ。

 私でよければ」


と答える。


まことは嬉しそうに


「やった!美人ゲット」


とガッツポーズをしてみせた。


二人はその後、担任の先生へ挨拶に行き他の旧友たちとの話に華を咲かせた。


あっという間に時間は過ぎ、時刻は21:00を回ろうとしていた。



まことはホールのドア付近にある受付に目をやる。

結局、この日佐倉 結衣が同窓会の会場に姿を表すことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る