第4話 回想2 -中学2年-

2003年。

佐倉 結衣と初めて出会った翌日は、中間テスト初日の日だった。


水・木・金の3日間テストは行われる。

最初の水曜日は国語・理科・社会だったと思う。


昨日、派手にすっ転んで怪我した右足は見た目は派手に晴れてはいるが軽い打撲。

3日ぐらいで腫れは引くと思うが、歩くたびに軽く痛みがはしり、不便だった。


学校への登校中に後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。


「まーこーとー!!」


ダダダダダッと足踏み音。

後ろを振り返る間も無く平川あおいが俺の背中にタックルを食らわせてきた。


普段なら踏ん張りきれるが、今日はそう言う訳にも行かず

あおいのタックルと共に俺はアスファルトに倒れ込んだ。


「いってー・・・」


倒れた俺は両手をつき、思わず声がでる。

あおいはすぐさま起き上がり、俺に謝罪の言葉をかける。


「ごめんごめん!

 今日は勢いつけすぎたかな?」


あおいは倒れ込んだ俺へ手を差し伸べる。

その手をありがたく借りながら、起き上がるとあおいの額にデコピンを食らわせた。


「昨日自転車でこけて足怪我したんだよ。

 お前のタックルはいつも通り凶暴だったけどな」


「まことが自転車でこけるって珍しいね。

 ・・・大丈夫なの?」


俺にデコピンされた額に手を当てながら、あおいは俺の右足を見ていた。


「骨には異常ないと思うよ。

 たぶん、ただの打撲。」


倒れた時に制服についたアスファルトのかけらをはらい落とす。


「それなら良いけど、もうすぐ大会なんだから気をつけてよねー」


平川あおいと俺は同じ剣道部だった。

秋に行われる大会はテストが終わった次の週にある。


剣道は野球やサッカーと違い、試合時間は短く、区大会と市大会は同日中に行われる。

午前中が区大会、お昼を挟んで市大会っていうところだ。


「そういえば、顧問の田中先生が今日の社会の時間テストの担当なんだってー」


「えっ、まじかよ」


田中先生は剣道部の顧問。

普段は温厚で良い先生だが、怒るとめちゃくちゃ怖い。

本当に怖い。


「だから社会のテスト中に寝ちゃダメだよ」


あおいはそう言って、

周りの男子からなぜメスゴリラと言われるのか不思議に思うほど、

可愛らしい笑顔を浮かべた。

と言っても、俺はあおいがキレたら本物のゴリラ並みに暴れるのを知っているので

例えどんなに可愛く見えてもときめく事はない。

断じて。


あおいと部活の話しをしながら学校の門を潜る。

俺の中学2年時の教室は3階。


4階建の校舎が二棟立っていて、1階と3階に両棟を繋ぐ渡り廊下がある。

一方は生徒棟。

2Fが一年生のクラス、3Fは2年生のクラス、4Fが3年生のクラスがある。


もう一方は職員棟。

1Fには職員室と校長室。

俺は入ったことがないが応接室もあるらしい。

他にも視聴覚室などの専門教室がある。


昔、この辺の中学はこの学校だけだったらしく、

生徒の数がマンモス級の時は教室が足りなかったらしい。


だが俺が中学生の頃は、テレビでも少子高齢化が訴えられていて、

むしろ教室は使ってない所の方が多かった。


俺が中学生だったのは今から14年前。

まだ2000年代が始まったばかりの2003年が思春期真っ只中の中学2年生。


当時はスマートフォンなんてものはなく、

のちにガラケーと呼ばれる携帯電話を持っているのもクラスに一人か二人程度。


世間一般では音楽はMDと呼ばれる小さなディスクに音楽を入れて持ち歩いていた。

俺はMDコンポを持ってなかったので、当時はCDプレイヤーだったけど。


だから何が言いたいかというと、

学校に携帯を持ち込んでいるのがバレにくい時代だった。


もちろん見つかったら没収されるが

まぁまぁな高級品だったので帰りの時間には返して貰えていた。


生徒棟の3階まで登って、廊下の中央まで歩き自分の教室に入る。


教室の窓際の一番後ろが俺の席。

漫画の主人公みたいだが、俺は小学生の頃からこの席にこだわっていた。

今思えば、軽い中二病が入っていたと思う。


夏は窓からセミが突撃してくるし、

冬は窓が氷みたいに冷たいけど、窓の外を自由に眺められるこのポジションが好きだった。


あおいは逆に先生と一番近い教壇の前の席に座っていた。

なんでそこの席が良いんだ?

と聞くと、

授業中に男子がちょっかいかけてこないからと返ってきた。


なるほど。

当時はなぜ男子があおいにちょっかいを出してくるのか分からなかったし

そういうものだと思っていたが、今思えば好意を抱かれていたから関わりを持ちたくて男子がちょっかいを出していたんだと思う。


自分の席に座って携帯を開く。

この時間は先生が見回っていないので、机の上で携帯を操作する。


「あ、携帯持ってるんだー」


不意に話しかけられ、一瞬焦った。

大人っぽい落ち着いた口調だが、声質自体は幼い。

どこかで聞いたことのある声の方向を見ると、佐倉結衣が俺に向かって話しかけていた。


「え、あ、昨日の・・・」


そう言いかけて佐倉は自分の話を先に切り出す、


「昨日のやっぱり伊勢だったんだね!

 あんまりちゃんと顔見れなかったから本人か分からなくてさー」


図書室にいそうな大人しそうな女の子だと思っていたが、なんともよく喋るタイプの女子だった。


「昨日の足大丈夫だった?

 自転車のままコケて、轢かれてたよね?」


佐倉が俺の足の方へ目をやる。


「あ、うん。

 大丈夫。

 って言うか、同じ学校だったのか。

 制服違ったから違う学校の人だと思った」


驚きを隠せない。

というのはこんな感じかと思いながら答えた。


「むしろ同じクラスだし!」


佐倉はそういうと、面白そうに笑った。


俺が通っていた中学の女子の制服はセーター服に白いラインが入ってた。

デザインは似ているが、佐倉のセーラー服には白ではなく、赤いラインが入っていたので同じ学校だとは思わなかった。


「夏休み明けに転校してきたの覚えてない?

 先月の事なんだけど」


佐倉は小学生に話しかける高校生のように優しく言葉をかける。


「・・・あぁ、あの時の」


この時、やっと俺が佐倉が転校生だったことを認識した。

夏休み明け、宿題をやっていなかったバツの悪さから始業式もHRも居眠りをしていた。

その日の始業式前に確かに転校生がっていう話を担任の先生が話していたことを微かに思い出した。


「悪りぃ、その時漫画読みすぎて寝てたと思う」


宿題の件もあるが、確かに始業式の前日は夜遅くまで漫画を読んでいたので嘘ではないはずだ。

正直に謝ると佐倉は、漫画好きなの?なに読んでる?と目を輝かせた。


それから俺と佐倉は漫画の話をした。

俺の家に漫画がたくさんあると言うと読みたい!と言うので

テストが終わった後に俺の家の漫画を桜が読みにきた。


テスト週間が終わり、翌週の授業でテストが返却された後、

テストの点数が悪すぎて俺は職員室に呼ばれ、剣道部顧問の田中先生に目一杯怒られた。


たまたま職員室にきていた佐倉にその時の様子を目撃され「一緒に勉強しよう」と言われた。



その時、初めて「勉強する理由」が出来てしまった。

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