第2話 回想1 -中学2年-

あれは2003年だったと思う。

中学2年の中間テスト時期。


テスト週間ということもあって、その週は部活がなかった。

他の同級生たちは学校から帰って勉強をしているらしいが、俺は自転車で本屋に向かっていた。


この当時の俺は部活練習がない日はいつも本屋に居た。

物心着いた時から将来は本屋になるものだと思っていたので、本屋巡りは俺の日課だった。


自転車で町内を走り回るというのはもう一つの俺の趣味。

普段通らない様な道を通ってどこに繋がってるのか発見するとか、

めちゃくちゃ長い坂を登り切るとか、中学生らしい趣味だったと思う。


勉強というものがそもそも嫌い。

というかやる理由が分からなかったので、中学2年の頃まで家で勉強する事はほとんどなかったと思う。

当然、テスト勉強もしておらずその代償はもちろん赤点のオンパレードだ。


夏休みの宿題を本気でやらなかったので先生にめちゃくちゃ怒られたのも覚えている。

ただ読書鑑賞文は書いていたのでそこだけは褒められた。


本屋巡りの際に気になった本をこずかいの範囲で買い、

どうしても欲しいちょっと高めの本は親に頼んで買ってもらっていた。

学校のテストで唯一赤点を免れたのは国語だった。

ただし、点数を取れるのは読み方だけで、漢字を書くのは全然ダメだ。


家に帰ると、制服を脱ぎ捨てる。

きっと後で母親に怒られるんだろうなと思いつつ、

その日も急いで自転車置き場に向かい、町内を共に走り回る相棒である自転車に跨る。


別にその日だけが特別だった訳ではない。

ただなんとなく、本屋へ向かう途中いつもの大通りではなく裏道を走りたくなった。

そういう気まぐれはしょっちゅうあったし、それが面白い。


ただ、裏道への曲がり角を曲がった先に

目の前に人影が見え、俺は急ブレーキをかけた。


奇跡的にその人影とぶつからずに済んだが、

俺自身は曲がってる最中に急ブレーキをかけたので、見事に自転車に跨ったまますっ転んだ。


漫画の中であれば何処も怪我する事なく話は進んだんだろうが

現実問題、俺の右足首は大きく腫れ右腕も擦り傷が酷かった。



「大丈夫ですか?」



もう少しで正面衝突しそうになった人が俺の元へ駆け寄る。

俺はその時初めてその人の顔を見た。


それが佐倉 結衣との出会いだった。


髪はセミロングで黒縁のメガネ、背丈は俺より少し高い。

顔はたぶん可愛い方だと思う。

外でのスポーツより、学校の図書室が似合うような女の子だった。


自分の学校の制服とは違ったので、他の学区の生徒だと思った。

見た目から年上だと思ったが、後日同い年で同じクラスの子だと聞いた時は驚きを隠せなかった。

どれだけ自分が周りに興味を持ってないかが、この時に学んだことだ。



その日、救急車を呼ぶという佐倉の提案を断り、俺は急いで家に帰った。

なんというか、転けた所を女の子に見られたというのが無性に恥ずかしかったのだ。



思春期というのはなかなかプライドの高い時期だったんだなと改めて思う。

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