第7話
『異境狩り――複数の、能力を持っている、だと……?』
ショッピングモール近くの、空き家。そこで、緊急の会議が開かれた。
運よく、ハルト兄さんとも電話が繋がり、里と兄さんも交えた会議となる。事情を把握した、里の長老は呻くような声を上げていた。
『今まで、そんな例を聞いたことがない。しかも、変化、巨人、翼――そんな異境の住民、いるはずがない……っ!? 何かの間違いではないか?』
「ですが、長老、自分も見ております」
『くっ……まさか、サラがだまし討ちに攫われる、とは……』
「――すみません、長老」
申し訳なくなり、僕は頭を垂れると、長老はかぶりを振って告げる。
『いや、あいつは護衛の本懐を果たした、ということだろう』
『しかし、厄介なことになりましたね』
悩ましげな口調で、兄さんがため息をつく。背景的に、飛行機のようだが――。
『調査結果を申し上げます。アイリ殿。お兄さまは、恐らく異境狩りに拉致されています。確かな情報です』
「そう、ですか――やはり」
唇を噛み締めるアイリを見守りながら、僕は推測を深めていく。
ということは、異境狩りの胸元にあった、あの不自然な脈動は恐らく――。
視線を上げると、兄と視線が合う。確信めいた目つきに、僕は訊ねる。
「兄さん、ってことは、異境狩りの力の正体は――」
『ああ、ほぼ間違いないだろ。とすれば、すぐにサラちゃんやユウキ殿を助けないと、まずいな――殺されるか、始末される可能性がある』
その声に、僕以外の全員が息を呑んだ。泡を食った様子で、長老が叫ぶ。
『は、ハルト、それはどういう――?』
『長老、説明は後で。リント、位置は分かるか?』
「ああ、GPSが生きている。位置情報は、共有する――その上で、僕が突入する。多分、それが適任だろう?」
『……まあ、そうだろうけど。お前が出張る必要は、ねえんだぞ? 安全地帯で引っ込んでいるっていう選択肢もある。それでも行くんか?』
試すような口調に、僕はすんなりと頷いていた。
当然、僕が後衛に引っ込んで事態の応援に徹することもできる。だけど、それはやりたくない。僕の手で、全力で助けに行きたい。何故なら――。
「まあ、そういうことだよ。兄さん」
『――いい面構えだ。覚悟は上等だな。じゃ、作戦を立てるか――救出作戦だ』
その言葉を聞き、その場にいる僕と親父、アイリは頷き合った。
サラの携帯のGPSが示したのは――明らかに、それらしい場所だった。
「廃工場――ま、誰かを捉えておくのはおあつらえ向きかもしれないな」
夜――穏やかな風が吹く住宅街の中、そこを見据えて、三人の人影が降り立つ。
僕と、アイリ、そして、親父だった。
親父は筋肉のある腕を組み、目にわずかな力を込める――。
「――いるな。三人、人影がある。罠、ということはなさそうだ」
「無事か?」
「二人とも、今のところは」
ほっと息をつく僕とアイリ。アイリは、親父を見上げて少し目を細める。
「それがリントのお父様の力なのですね」
「ああ、温度の分布を判断できる。尤も、俺の力はリントやハルトの足元にも及ばんが」
少しだけ悔しそうに、小さく首を振る。苦笑い交じりに、僕は頷いた。
「うちは母さんの力が強いんだ――それを、継いでいてね」
「なら、期待させていただきます。時間稼ぎを、お願いします」
「ああ、分かった――親父、アイリを頼んだよ」
「万が一のときは、任せてくれ」
アイリと親父、順番に拳をぶつけ合わせる。そして、二手に分かれて行動し始めた。作戦は単純――陽動と、本命。
本命であるアイリが、裏に回り込み、機を伺う。
その間に、僕が派手に突入する。
まあ、普段なら明らかに逆の方がいいのだが――今回は、別だ。
胸に手を当て、深呼吸。そして、胸元に刻まれた、印に触れる。これが、封印――それを再確認しつつ、前に進み出た。
地を蹴り、屋根から飛び降りて、廃工場に歩み寄る。
そして、その扉を――ゆっくりと引き開けた。
がらんと何もなく、広々とした空間。そこの真ん中に、一人の男が立っていた。黒ずくめの服を着た、痩身の男――顔つきは分からない。
だが、分かる。目の前の男が、異境狩りだ。
「――落とし前を、つけに来たぞ。異境狩り」
「はっ――愚かな。わざわざ、やられに来るとはな……」
その言葉と共に、どくん、と男の胸が鼓動を放つ――それを合図に、めきめきと相手の身体が変化しつつあった。四肢が肥大し、毛が全身から生える――。
獣人の、異能――そのまま、奴は構え、力強く地を蹴った。
長く伸びた爪が、肉迫と共に喉元へ迫る。それを、ゆっくりと掌を持ち上げて遮る。
そのまま、衝撃――ぎん、と響いた金属音に、男が目を見開く。
爪が、掌によって止められている。その肌は破れず――鱗によって防がれている。
「残念だったな――先に、僕の方を拉致するべきだったんだよ」
封印は、すでに解かれている。
徐々に生えてくる鱗が全身を覆い尽くしていく。瞳孔が、縦に割れ、金色に光っていくのが分かる。視覚が冴え、熱の動きがよく分かっていく。
しなやかな四肢に、筋肉が馴染んでいく――懐かしい感覚に、思わず身震いした。
「――ッ!」
咄嗟に逃れようと、男が後ろに飛びずさる。だが、遅い。
僕は踏み込みと同時に、拳を固め、満身の力で――打ち込む。
ずどんっ、と凄まじい破裂音と共に、男の身体が吹き込んだ。壁に叩きつけられ、呻き声を上げる。抜群の、膂力だ。
「ま、さか――貴様……ッ!」
「そう――僕の力は」
ゆっくりと拳を構えて、僕は不敵に笑う。
「竜人、だ」
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