ジュノ

お店で働きたいとやってきた彼女の名前はジュノといった。


「ジュノってのはこの辺では聞かない名前だけど、どういう意味なんだい?」

生い立ちを語りたがらない彼女に名前の由来を聞いても、とは思ったが。


「昔聞いたけどもう忘れてしまいました。鳥の名前とか言ってた気がします」

にこりと笑う。よく通る奇麗な声。客の受けもよいだろう。。


聞く前から自分で自分に付けた名前かもしれないと思ってはいたので、それ

ならそれでいい。


仕事は覚えが早く、てきぱきとよく働く。ぱたぱたといったほうがいいかも。


寝食を共にして働く日々、益々あの子に似ていると感じてきていたが、10日も

過ぎるころ、似ているのではなく似ているところを探していた事に気がつく。

あの子がいなくなったことに負い目を感じていたのだ。

あの子だったらと思ってしまっていた。


意識して見れば違うところだってたくさんある。

人のことを聞くのは好きで世話好きだ。


ある日、常連のオリーブと呼ばれてる油を主に扱う男が店にやってきた。

いつもの挨拶となった

「そろそろ嫁を見つけて結婚は?」

「相手がいないとできないよ」

なんて話をしていると、ジュノが聞き耳を立て始める。

本人は気づかれてないつもりだろうが、ぱたぱた動いてたのがピタリと止まる

急にテーブルを拭いたり、コップを磨いたり。

暫くするといつの間にか寄ってきて

「可愛いと綺麗ならどっちがいいですか?」

なんて身振り手振りを付けて聞き始める。

顔は?髪型は?家庭的?仕事熱心?等々質問攻めが始まり、ひとしきり聞き終えると

「仕事に戻らなくちゃ」ってパタパタと去っていく。


オリーブが気があるのは実は近所の野菜を扱ってる店の娘さん。

たまに店の手伝いで店頭に出ている。元気ハツラツな子だ。

これは公然の秘密状態でみんな知っている。ジュノだって知っていた。

では何をわざわざ聞いていたのか。

「情熱!熱意です」

とのこと。


後日、娘さんが店頭に出ているときにジュノは偶然を装って会いに行く。

世間話をしながら、恋人の有無や好みのタイプを聞いて帰ってくる。

成り行きで買わされたかぼちゃを小脇に抱えて。

今回は挑戦する価値ありとなった。


ジュノが大丈夫といえばうまくいく。無理といえば無理。

これは才能だと思う。天賦の才能と言ってもいい。

もしかしたら、若いのに苦労してたのかもしれないが。

問題を見つけて、要所を絞り解決策を出す能力が高かった。


そんな日々が続いた、

ジュノへ相談するのを目当てにした客も増え始めたある日。

貿易商の屋敷からワインの配達の依頼が入った。

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人になれば Dogs Fighter @cycle20xx

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