船乗り
少し時代が進む。
港は小さな町と呼べるくらいになった。
簡易的な浮き桟橋も、立派なものに代わり手すりもついた。
船乗り向けだった小さな食堂もサイズだけは大きくなりテーブルも増えた。
宿も安っぽいままではあったが部屋は増えた。
店長の腹回りも増えた。
船もまた少し大きいものに変り、貨物の他に人も10人20人は運べるものに
なった。
相変わらず黒塗りに白線なのは変わらないが。
昔、小さな黒い船で、小さな港に来た者たちの大半は、すでに陸に上がったが、
当時最年少だった細身の少年は笑顔が皺になり、日焼けした筋骨逞しい船乗りに
なった。
白髪も目立ってきたが、現場の指揮をとる毎日を過ごしている。
でかい声で、その彼が今だに言う。
「人魚がでるなんて聞いてたら来なかったよ」と
彼が若いときに、彼より後に船に乗った男がいったという。彼の酒が入ったときの定番の話だ。
「そいつが、海を眺めてたら波間に人の頭が見えた。
溺れてる人がいる!なにかないか!ロープを投げようか?って、ロープを取るに走りかけて
気がついた。
陸も見えない沖で溺れてる人がいるわけ無いだろうと、何かの見間違いだろうって身を乗り出して
よく見たら15歳ぐらいの女の子が波に揺られながら笑顔で手招きしてたって。
それから奴さん、人魚見ちまったから海に引きずり込まれるって怯える怯える
そして、ほんとにある日、いなくなっちまった。つっても港についたときだから、陸に逃げたんだろうけどな。
俺は見たことないが、人魚の歌ってのは聞いたことがある。頭の中でクワンクワン響いて立ってられなかった。あれなんだったんだろうな、聞いたやつは頭がおかしくなって船乗り同士ころしあっちまうって聞いたけど、そんなことはなかった。ただ、怖がって船降りちまったのはいたな」
こんな調子で不思議な話や武勇伝やらがエンドレスに続く。
話のレパートリーは1000を超えると言われてるが、新人は半年もしないうちに暗記するほど繰り返し聞かされることになる。
そんな彼らが飲んでるワインは、食堂の女将に頼まれた樽入りの大衆ワイン。お手頃価格で香りが爽やかで果実感がいいらしい。
テーブルに並ぶは新しい名物となったラムチョップとジャガイモや人参など気まぐれに合わされるサラダ、あとは固いパンなど。
最後は定番の新しい名物のマトンカレー。
これらは、彼らが運んできた穀物や調味料などなくてはできないもの。
彼らにとってこの食事はただの食事ではない特別な時間である。
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