砂の骨
前島矩歩
第1話
「波が来るたびに海藻が溶けてゆくんだよ」誰かがそう言っていた。目の前の海は青かったから、嘘だと今わかったけれど。
むしゃくしゃして、いくつか蟻を潰した。
晩夏、人も少なくなるだろうと踏んだ両親が僕と妹を海に連れてきた。そこそこ混んではいたのだけど「空いててよかったね」と、母が言った。底が見えても泳ぐのは苦手みたいで、しばらく木陰で休むことにした僕を残念がってた三人は遠くで揺れていた。
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ここはどこかの砂漠。空気が、砂が、体を突き刺してくる。そんなところで水を求めるわけでも、玻璃のように澄んだ空を見るわけでもなくて、僕は目の前の少女が穴を掘るのを眺めていた。
「砂の骨を探してるの」
ずっとこうしているわけにもいかないから思わず声をかけたけれど、返ってきた答えはよくわからなかった。場違いな若草のワンピースが揺れて、くちなしの香りが頰を撫でた。
手で掬うたびに塞がってしまうのに、何が出てくるというのだろう。
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浜辺の陽は傾いていた。灼けた右手がヒリヒリと痛んだ。まだ蟻が歩いてるのがおかしくて、側にいたのを潰した。顔を上げると、歩いてくる三人が見えた。
彼らの下に眠る骨を、少女が一つの骨を見つけるのを想った。
夜の砂漠には潮が満ちている。
砂の骨 前島矩歩 @kikokuho
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