第11話 悪夢よ!

 全身拘束刑にされてガイノイドの電脳になっても夢を見るもんだと愛梨はおもった。本当は愛莉の自我プログラムがあるからかもしれないが、どうして電脳でも夢をみるのかについては知りたくもなかった。まだ人間だと思っているのだから。


 夢の中の愛莉はハダカであった。体つきはそんなに自信はなかったけど、女の子としては及第点だと思っていた。まあ欧州の古典的な題材にある裸婦像程度のものだとおもっていた。そんな身体に、顔のない影が多数群がって来た。そして、その影は愛莉の身体を引き裂いていった! でも、不思議な事に痛みなどなかった。引き裂かれる前に身体が固い岩か氷のようになっていたから。でもそれは人間性の喪失のように思えた。この時、山村愛莉という少女は生物的には死亡したのかもしれない。


 引き裂かれた身体に何か#膠__にかわ__#のようなものと一緒に練られ誕生したのがエリーであった。愛莉の心のレプリカを持っているが、本人そのものではない。コピーでしかなかった。


 でも、そんなコピーでも貴重なものとされたものがあった。電脳だ。どうやら電脳を巡って争いが起ころうとしていた。目の前で数多くの黒く醜い影が戦っている。その戦いは凄惨なもので周囲を傷ついて破壊していた。エリーは心の中で叫んだ! 争わないで! 私の#電脳__そこ__#の何が必要だというのよ! すると一つの影がはっきり見えてきた。


 「決まっているじゃないのよ愛莉ちゃん、君の#電脳__ハート__#に決まっているんじゃないか! 君は自分でも気が付いていないだろうけど、人類の運命を変えるかもしれない可能性を持っているのだよ。しかも、肉体を捨て神にも悪魔にもなれる姿になっていることに気付いていない。だから覚醒する前に君を独占したいと考えているのさ!」


 そう説明したのは淳司だった! 彼も私を裏切っていたの? エリーの電脳に埋もれかけている愛莉の心は泣き叫んだ! すると、もう一つの影が出てきた。


 「そうさ! 君の頭脳は優れているのさ! 電脳化すれば神にもなれる素質があるはずだ! だから全てを仕組んだのさ。愛莉をわが手の元に入れる事を! もう少し待って居るがよいぞ! 肉体という生物的な牢獄から解放したんだから、神になるがよいぞ!」


 その声は傲慢かつ奢っているように感じた。神ならざる人間が神になりかわってしまうなんて! それに一介の少女の人生を台無しにして電脳化して何をするというのだろうか!


 「なんてことを! 神になんかなりません! できればフツーの結婚をしてフツーの生活をして、年老いたら子や孫に見送ってもらう平凡な人生が良いです! あたしを元の愛莉にしてください!」


 愛莉は心から訴えた。すると淳司がこんなことを言った。


 「そういったところで、こいつらは無駄さ! 科学万能を狂信的に信じていやがるからな! そんな宗教的な偏執している連中に訴えても無駄さ! 愛莉ちゃん、戦う気はあるよな?」その言葉に愛莉は不思議な感じがした。戦うだなんて!


 「戦うって誰と? あたいを冤罪に陥れて全身拘束刑にした奴? それとも・・・?」


 愛莉の問いに淳司がある名前を叫んだところで、夢から覚めた。愛莉の心は再びエリーの電脳の中にロックされた。ロックしている間も愛梨の思考は続いていた。表に出すことは出来ないが。それにしても、あのチャラ男の淳司は一体何者だろうか? 仮想現実の中でイメージのやり取りを出来るのだから、多分彼も一部もしくは全て電脳化されているのは間違いなさそうだった。


 このとき、悪夢のような考えが浮かんだ。本当に私を全身拘束刑に陥れたのは淳司とその背後にいるというクライアントではないだろうか? もしそれが正しければ・・・もう人間に戻れない? そうなれば・・・その悪夢の回答だけは天才的少女の人生を電脳化して誕生したハードウエアをもってしても可能性は考慮できても回答を出すにはデータ不足であった。

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