第12話 それでいいの?

 山川愛莉の肉体を全身拘束刑によって改造して誕生したアイリはエリーと入れ替えられた。二体のガイノイドはどこかに運ばれて行った。二体とも配属は決まっており、アイリの方は愛莉を全身拘束刑に陥れた者たちに近いところに配属されるのは確実だった。


 「本当にややこしいことをするわね。廃棄予定のパーツを組み立てて作った機体と入れ替えるなんて、どうかしているわよ。こんな事を出来るのは隠密でしょ?」


 山崎技師長は淳司に質問していたが、真実の答えなど期待していなかった。淳司の正体は分からないが、先ほど差し出された電子許可証は真正で、それを出せるのは政府のごく一部の、トップもしくはフィクサーなのは確実だった。


 「まあ、そういうことさ。そうそう、悪いが山崎技師長。来週から国連本部のある香港に出張するようにとの命令が届くはずさ。あんたの人間を機械に改造する技術は恐怖だからな。取りあえずこの国から脱出しろってことさ、俺のクライアントはな」


 淳司はそういいながら、端末から司法省行刑局のデーターベースにある二体のガイノイドのデータを交換していた。これでダミーと入れ替える事ができた。


 「こんなややこしい事をしなくても、あの愛梨とかという娘を秘密裡に出国させて、どこかの国で再改造すればいいだけじゃないのよ。私は司法長官の執行命令書に従っただけだからね」


 山崎技師長はそういうと、白衣を着替え始めた。目の前に男がいるなんてお構いなく。


 「その司法長官だけど彼も出張さ。国連特別刑事裁判所にさ。取りあえず帰ってこれないってことだから、その間に色々と工作する予定なのさ」


 淳司の発言はまるで政府を操っているかのようなものであった。それなら少女を秘密裡に消すことも可能なのに、何故こんなにややこしい事をするのか分からなかった。絶対これは陰謀があるのだと認識できた。


 「そうなんだ、でさっきの愛莉って娘の再改造は誰がするのよ? あそこまで機械と同じ身体にしてやったから、私は嫌だよ! 人間を機械にする技師は数多くいるけど、元の人間に戻せるなんて、たしか技術的に確立していないんじゃないのよ。まあ、外観だけはなんとかなるだろうけど、それでいいの?」


 着替えが終わった山崎技師長は淳司を見ていた。この男は外観はいい加減だが何をしているのか分からない恐ろしい男だと感じていた。場合によっては口封じされかねないと思うほどだった。


 「それでいいのさ。彼女にはやってもらう事はいっぱいあるからね。本当なら”人間の少女”だったときに会えたらよかったけどな。もうちょっと早く彼女の正体を把握していたら、もう少しマシな作戦が取れたというのに!」


 そういうと、淳司は山崎技師長の顎に手をかけた。彼女は淳司の瞳の奥にある何かの機密の一端を目の当たりにした。


 「そういうことだよ、山崎技師長! あんたは今日はアイリとエリーの二体のガイノイドを生み出して調整した! そう認識したまえ。それと、俺はただのメッセンジャーボーイさ。そういうことさ」


 すると、山崎技師長の記憶は改竄された。彼女もまた肉体はそのままでも、人間を機械にするために電脳化されていたのだ。淳司にとってその場にる電脳の短期記憶を書き換えるのは簡単なことだった。

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