第9話 思い出してみると
国家機密であるとして開示されなかった裁判記録を見て愛莉は一連の事を思い出していた。裁判官の審理は殆ど有罪ありきなのがバレないようにする工作があったのは確かのようだ。そこまで愛莉を全身拘束刑に追い込む必要があったといえる。
愛莉が晴美にアルバイトだといって頼まれたのは二か月前のことだった。愛梨は理工学部の学生で勉強が忙しくアルバイトはしたことなかった。元々奨学金で学校に行っていて贅沢な事をしてこなかったので、買い物することもなかった。
愛莉が頼まれたのは暗号の解読だった。しかしそれは国防省のデータベースの暗号キーで、その暗号キーを解読するのは世界最速のスーパーコンピューターでも数千年かかるというものだった。そんなことを知らない愛莉はクロスワードを解く気分で三日で解除してしまった。もちろんそれは彼女の洞察力の賜物であった。しかし、その暗号キーで侵入したのが晴美の彼氏という正体不明の男だった。その男がしたことを何故か愛莉がしたとされた。
もちろん愛梨は解読したことは認めたが、それが不正アクセスのためでなかったと主張した。しかし取り調べ官はまともに聴取をおこなわないばかりか、自白調書を作成せずに起訴してしまった。そして全身拘束刑に処されたわけだ。
「そうなんだよね、あたしって最初から全身拘束刑でガイノイドにするのが決まっていたわけなんだ! 嫌よ、そんなの! でも、メソメソしてはおれないわ。で、どうすればいいわけなの?」
愛莉は足を組んでリラックスした姿勢をとっていた。それにしても現実は「武骨な」ガイノイド。こんな風にすることも出来ないし、自分で好きな姿勢も出来ないのが残念だった。
「愛莉ちゃんは、とりあえずガイノイドのままでいてくれ、一緒に行動するから大丈夫さ。だからな」
そういいながら淳司は近寄ってきた。そしてハグしてきた。やっぱりこいつ女たらしなんだ! そう思ったけど愛莉は満更でもなかった。
「こう言った事が出来るようにしてやるから。まあ出来る限り元の姿に戻してあげるからさ」
今度のキスはかなりディープだった。ああ、こんなの想像でしかしなかったのに・・・でも、これも仮想現実。実体験ではありえないことなので、悲しくもあった。本当の愛莉の身体はガイノイドのアイリの内臓にされていて、自由に動けないし他の誰しも人間と認識される姿でなかった。
全身拘束刑を受ける直前、簡単な説明があったけど、頭部の改造だけでも気が滅入るモノであった。眼球は人工のものに交換され、歯は完全に樹脂の中に閉じ込められ、口蓋はナノマシーンで満たされて特殊な器官にされ、髪の毛は無くされ、頭蓋骨全体を覆うハードギアによって電脳化される・・・まあ、頭蓋骨をここまでいじったら元に本当に戻れるのか疑問であった。極端な話、全身拘束刑が終わってもロボットにままで一生を終える者もいるのは理解できる話だった。
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