第3話 処置

 愛莉の訴えなどお構いなく柴田技師長による全身拘束刑の執行がすすめられていた。執行が終われば人間とし扱われなくなり、国家が所有するロボットの一体にすぎなくなる。そのため執行と同時に愛莉の住民登録の抹消が刑事局によって行われ、法的には愛莉は存在しないことにされた。


 一連の作業の中で、犯罪者として処罰されるデモンストレーション、すなわちロボット化が愛莉に施された。抵抗できないように意識を保ったまま動けなくなる薬物を投与された。意識を保ったままにされるのは、自分が犯した罪を自覚させ、また自分が全身拘束刑に処せられているのを十二分に認識させるためであった。それには愛莉は涙を流すほかなかったが、口には猿轡さるぐつわのような器具をセットされ、両手両足を拘束具で固定された。


 それは磔はりつけにされたような姿であった。この時、意識を失わなかったのが後々まで後悔してしまう目に遭う事になった。その様子はまるで食肉に加工される家畜にでもなった気に愛莉はなった。さきほど法的に人権を保障すべき人間でなくなったので、動物扱いであった。


 「説明だけはしてあげるわね。あなたの身体をこれから改造するわね。機械と融合させてあげるわよ。ちょっとおしいわね。あなたのように綺麗なお肌、無くなってしまうのね。でもねガイノイドになったらそんなことは考えられなくなるわよ。あなたの記憶はデータ化されて残るけど、自由な自我など刑期中は無くなるからね。素体の由来ということしか意味はなくなるしね」


 そういって柴田技師長は愛莉の顔から胸を触っていた。その姿はこれから処刑される娘のように座らされていた。これから人間としての身体を失うから、処刑に等しかった。


 愛莉は両手両足を固定された後で。着ていた服を全て脱がされた。このように出来るように裁判所から護送される時に安物の囚人服に着替えさせられた理由がわかった。人間でなくなることを自覚させるために、こんなひどい仕打ちをするのだと。愛莉は抵抗できないまま、ハダカにされた。この措置室にいるのが女性しかいないのがせめてもの救いだった。人間としての服を奪われた愛莉は、機械の素体でしかなかった。


 その時、愛莉は思い知らされた。全身拘束刑は一部の凶悪犯しか執行されないと、司法省は宣伝していたし、扱いは酷くないともいっていたのに、実際はここまで屈辱的だった。これって、モノとして扱われるのに早く順応せよというものらしかった。モノはモノらしく扱われるから。


 ハダカにされた愛莉は全身にクリームのようなモノを塗られたあと驚いた! 髪の毛も含め全身の体毛が抜けてしまったのだ! 大学生になって少し脱色したりパーマをかけた髪の毛もなくなってしまった! もう、人間ではなく自分はマネキンのような姿になったとしか想像できなかった。


 もし、この光景を見たら誰もが非人道的な刑罰だと思う事だろう。一方で、ここまで酷い刑罰を受けるのだから、それ相応の犯罪者に違いない、因果応報だといって突き放されるかもしれなかった。かつての死刑囚は人を殺めたのだからそれ相応の死の罰を受けると主張されたように、人間で無くなるような刑罰を受けるのは極悪人だと。実際、柴田技師長以下この措置室にいたスタッフ全員がそれなりの凶悪な犯罪者だとおもっていた。でも愛莉は国家の機密を漏らすことを首謀していなかった、誰にも認められなかったが! 絶対誰かに嵌められたんだと確信していた。しかし、もう後戻りすることは出来なかった。


 次にマネキンのようになった愛莉の全身を特殊なインナースーツが装着されていった。それは包帯のような形状をしていて、柴田技師長が指示しているガイノイド、これも元人間の囚人かもしれないが、そいつらによってミイラに包帯を巻くようにして包まれてしまった。


 まかれた包帯は熱を発しながら愛莉の皮膚に融合していった。そのとき、全身が熱くて泣く叫びたかったが。もう感情を表現するように身体が反応することは無くなった。身体は愛莉のものではなくなっていた。同級生に暗号を解除するのを頼まれただけなのに、ここまでの仕打ちをうけるなんて、理不尽だと憤りたかったが全ては手遅れだった。それなりに可愛らし少女だった愛莉はこの世の中からいなくなってしまったのだ。いまいるのは愛莉の抜け殻であった。


 この時、愛梨の身体は目鼻口そして下腹部以外がゴムのような素材に覆われ、ゴム人形のようになった。それはもう人間ではなくなっていた。人間の形をしたなにかであった。猛烈な熱気に蒸されるような感覚とともに、全身が溶けてしまう恐怖を感じていた。


 そのとき、愛莉は理不尽な扱いを受けたあるアメリカ人の囚人の話を思い出した。その人物はサミュエル・マッド医師といい、19世紀のアメリカ合衆国大統領だったリンカーンを暗殺した実行犯ジョン・ウィルクス・ブース一味を宿泊させ、治療を行ったとして、後に軍事裁判で終身刑を宣告されたという。逃亡を手助けしたとして暗殺者の一味とされたわけだが、それはまるで自分だと愛梨は思った。


 愛莉が逮捕されたのは、国家機密漏えいに加担し深刻な国家的危機を招いたというものだったが、裁判中は自分がやったとされたことなのに、ほとんどすべてが国家機密だとして法廷で開示されず、まともな審理が行われないまま有罪にされてしまった。それも全身拘束刑という死刑にも等しい刑に! あんまりにも厳しい刑なので泣いてしまった!


 「それでは、これから山村愛莉は法的に除籍されます。これから内臓処理を行い、生命維持システムの構築と外骨格の装着措置を行います。では、いいですね?」


 柴田技師長の愛想もない声が措置室に響いていた。いいですね? といわれても反論できないじゃないのよ! そう反論したかったが、既に口蓋は大きく開けられ、体内に向けて改造マシーンが挿入されていたからだ。それと同時にインナースーツが本来の愛莉の皮膚組織と完全に融合したため、愛莉の身体はロボットを構成する材料でしかなかった。


 改造マシーンから放出されたナノマシーンと改造に必要な物質によって、少女の身体だった物質はロボットの骨格と内部動力、そして制御機構として変換されていった。インナースーツに覆われ見えなかったが愛莉の肉体は再構成されていった。筋肉組織は人工筋肉と同様な素材に、内臓は人工筋肉に稼働物質を供給するもに変えられていった。


 また頭蓋骨に直接開けられた穴を通じて挿入された管からは、愛莉の脳細胞を電子素子に置き換える作業が行われた。それはいわゆる電脳化であった。電脳化された人間は、電子回路と同様になるので、簡単に書き換えができるような状態にされた! もはや愛莉にプライバシーなど存在しなかった!


 人間からロボットに変換させられていく作業の中で、このような酷い目に遭うきっかけを愛莉は思い出そうとしていた。すると、あるライバルの顔を思い出した。あいつはたしか、同じ大学の研究班に在籍していた・・・名前が出なくなっているわ! 自分の記憶も改変されているのかしら? そんな恐怖に襲われた!


 「もう少しで、人間をすて機械に生まれ変わるわよ! 全身拘束刑といっても本当は私が受けたいぐらいだわ♡ だって素敵と思わない? メンテナンスさえ行えばほぼ半永久的にグッドなボディでいられるのよ! 歳をとってお肌のお手入れ面倒になったなんて言わなくてもいいのよ! 羨ましいわね! 」


 柴田技師長の嫌味なささやきを聞いて愛梨は。お前が自分でやれ! そういいたかった。刑罰として受けているというのに! 好き好んで機械に改造してもらう嗜好の人もいるようだけど、自分は絶対なりたくないのに、ロボットなんかに! それなのに・・・

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