第4話 改造完了

 愛莉は身体も意識も溶けてしまう感覚に襲われた。どうやら人間ではなくなったようだ。機械と生体が融合した一種の機械生命体という名の道具にされてしまったようだ。もう山村愛莉という人間ではなくなった。今はヤマムラ・アイリという国家が所有する多目的ガイノイドの一体としてリボーンしたようだ・・・



 意識も遠くなっていった。意識が薄くなっている間分かったのは、身体がロボットにしか見えなくなるように、金属的な質感を持つ外骨格に覆われていく事、内臓がロボットの部品に改造されること、そして大脳皮質がナノマシーンによって電脳化され、機械生命体的な動作しか出来ないようにされていくことだった。もはや、道具でしかない自分の存在を嘆きながら、愛莉としての自我は消失した・・・


 その直後。愛莉だった身体はガイノイドの内部構造に変わっていた。身体に継ぎ目が現れ、内部構造が見えてきた。その内部構造は人体由来の有機素材で人造筋肉のような質感になっており、血液が流れているように見えなかった。その内部に様々な器具が挿入されたあと、次に開けられたのが頭頂部だった。頭頂部から見えたのは委縮した大脳皮質のようなモノが見えた。大脳皮質はナノマシーンによって電子素体に置き換わっており電脳化されていた。そして内部構造のチェックが終了した後は最後の仕上げだった。完全に人間の姿を無くすことだ。


 ガイノイドの素体の表面にガイノイドにしか見えないようにする外骨格が接合されて行った。まず関節部が取り付けられ、その後に表面を覆う複合材コーティングされた装甲のようなものがはめ込まれて行った。この時、愛莉だった素体に取り付けられたのは戦闘用装甲女性兵士用の外骨格だった。これが選ばれたのはメーカーに在庫があったからだ。愛莉のオリジナルサイズに合うようなもので、格安で提供されたものだった。ちなみにメーカーは「安養寺ハイテクノロジー」だったという。


 最初はそれなりに可愛らしい少女だった愛莉は武骨なロボット然としたガイノイドの内臓にされてしまった。もう、彼女を人間だと認識するのは無理な姿だった。分厚い手足の装甲、腰と腹部は女性らしい曲線で構成されているが胸は器具が内臓されているような大きなドーム型。頭部はヴァイザーを被ったようなヘルメットであった。ウエストもくびれていたが、背中と腰には様々な機器があって、女性型ロボットと同じになった。


 「これで措置終了です。山村愛莉はこの世から抹消されました。かわりにガイノイドのアイリが誕生しました。現在はスリープ状態にしています、最終チェックは司法省刑事局にお任せします。一週間後に、こちらの部屋に戻してください」


 柴田技師長の目の前には憐れな全身拘束刑にされた少女の姿のかわりに、ガイノイドと呼ばれる女性型ロボットが横たわっていた。その中には山村愛莉の肉体を切り刻んで材料にしたものが詰まっていた。少女の皮膚は外骨格と癒着し、生体脳は電子素子を注入され電脳化されていた。また筋肉組織も内臓組織も改造されてしまったが、大きな改造を受けなかったところもあった。骨格と生殖器だ。骨格は造血細胞を温存するために必要だったし、生殖器もホルモンの分泌が必要だったし、彼女は天才的な頭脳を持っていたので、場合によっては優れた人類を生み出す研究に必要かもしれないと存置された。


 動かなくなった愛莉、いやアイリはそのまま収納ボックスに入れられ、司法省の別の機関へと運ばれた。そのとき、ちょっとした手違いでアイリを欲しがっていた者たちの息がかかっていない、担当部署に運び込まれたことから別の物語が始まった。


 その部署で電脳化された愛莉をアイリとして意識が書き換えられている間、刑事局の担当官がアイリの電脳内の記録をチェックして恐ろしい事を確認した。もしかすると冤罪ではなかったのではないか、この事件は! そこからアイリの軌跡は思わぬ方向へと歩みだすことになった。アイリが人間の姿を取り戻す戦いの日々が!

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