第2話 CBR125R 2013年式

CBR125R。2013年式。重量はわずか136㎏しかなく、単気筒のエンジンは13馬力の非力なバイクだ。それもそのはず。このバイク、第二種原動機付き自転車――所謂原付き2種というやつだからだ。250 CCからのバイクは二輪の小型自動車扱いで自動車扱いをされるが、このバイクはあくまでも自転車のカテゴリーに入る。非力なのも当然と言える。


しかしカテゴリー的に自転車扱いとは言え、普通の原付き(一種)と比べてメリットはかなり大きい。まず制限時速が30㎞から60㎞に上がり、二段階右折も無くなって、車種によっては二人乗りまで出来るようになる。そして何より保険が安い。普通自動車などを所持している場合、大抵ファミリーバイク特約なるオマケがついているので、任意保険に関してはほぼタダみたいなものだ。高速などの自動車専用道路こそ走れないものの、ツーリングを楽しむには十分な性能を持っているのだ。


たまに居る大排気量信者からは馬鹿にされがちなバイクだが、レプソルカラーのスタイリッシュなフォルムはとても気に入っている。


ツーリングに向かうため、キーを差し込みエンジン始動。まんまカブのエンジン音が周囲に響く。ここだけは言い逃れ出来ない点だろう。しかし低速ならともかく、高回転まで回せばそれ程音は気にならなくなる。


ゆっくりとスタートして一速、二速と忙しく上げていき、あっと言う間に六速まで到達した――が、速度はそれ程出ていない。これこそこのバイクの楽しいところだ。レッドゾーンまでぶん回し、ガチャガチャと忙しくギヤを上げたり下げたりといじくり回す。一速や二速で次の信号待ちまで行ってしまう大型バイクでは決して味わえない、公道で限界性能まで使い切ると言う遊びが出来るのだ。


しかも、これだけエンジンを回しても燃費は悪くないのだ。平均してリッター40㎞を下回る事は無い。カブ程では無いにしろ、驚異的な燃費の良さだろう。


途中で合流した仲間のバイクと共に峠にさしかかる。先行するのはエストレヤ。あれもパワーがないバイクだが、排気量的にこちらの倍なので、登りになるとグングン引き離されてしまう。待て待て。まだ慌てる時間じゃ無い。このバイクの本領は下り。この車体の軽さは武器だ。下り最速とは俺のことだぜ――とか思ったのも一瞬。既にエストレヤの姿は無く、繋がっていたインカムは無情にも無音となっていた。




峠を抜け、麓に降りてコンビニで休憩中、合流した仲間と談笑しながらさっきの出来事を思い出す。途中からソロツーみたいになっていたものの、心にあるのはやっぱり楽しいの一言だ。上手くない――いや、ハッキリ言って下手くそな運転しか出来ない自分だけど、やっぱりバイクに乗っているのが楽しくてしょうがない。コーナーにさしかかる度に体を傾け、地面に近づく恐怖と興奮を体全体で感じるのは、他の乗り物では絶対に味わえない感覚だろう。


同じ速度でも、車なら鉄の塊に守られている安心感がある。自転車ではこぎ続けなければならない足が邪魔になるし、速度域が違う。やはりバイクは独特な乗り物だ。


この素晴らしい乗り物に巡り合わせてくれた友人には感謝の言葉しかない。ありがとう。あと……出来れば、もう少しゆっくり走って欲しい。こっちは一応自転車扱いなのだから。

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