黒い雨が降る




黒い雨が降る


忘れ去られたように眠りについた町

かつて抱いていた夢の亡霊が彷徨い

明るさを手離したワンルーム

手を繋いだ静けさと虚しさが居座る


風の音がして窓を開けると

誰にも気づかれないように降る雨がいた

誰からも忘れ去られた僕と

少し似ている気がしたから

孤独を紡ぎ合わせた服を着て外へ出た


雨の中ひとり歩く真夜中の町は

まるでこの世の果てのような静けさで

まるで僕の人生の果てがここにあるのだと

囁きかけてくるような優しさで満ちていた


次第に雨とひとつになり始めた服が

黒く染まっていく様を見て

この雨が黒い色をしているのだと知った

夜が好きな僕にはちょうどいい色だ

そんな事を思いながら

雨の匂いがする空を見上げていた



呑めなくなった酒を浴びるように呑んで

胃と喉が焼けるくらい吐いたところで

汚れた心が綺麗になる訳じゃないし


汚れきった言葉をひたすら飲み込んで

胃と心が爛れるくらいに押し殺し続けたところで

汚れた世界が綺麗になる訳もないし


綺麗だと信じた言葉も

見方を変えれば汚れていたりするし


たった一言でも

鋭利なナイフになってしまうんだ


どれだけの言葉がナイフとなり

僕を切り刻んできただろう

どれだけの言葉がナイフとなり

僕は誰かを傷つけてきたのだろう



黒い雨が降る



汚れた世界に降る雨が

綺麗な訳あろうか

その中を歩く僕が

綺麗な訳あろうか

そんな僕が吐き出す言葉が

綺麗な訳ないだろうが



それでも




もう吐き出さずにはいられないんだ




押し殺してきた言葉で仕立てたナイフを

握り締めて独り歩く真夜中



頬を撫でる風がまるで梅雨の匂いだった










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