少年は誰にも知られず夜になった





「私はあなたを愛しているのよ」



あなたはそう言って


優しい手で頭を撫でてくれた

それはあなたの愛

柔らかい手で手を握ってくれた

それはあなたの愛

あたたかい腕で身体を抱きしめてくれた

それはあなたの愛

清らかな声で名前を呼んでくれた

それはあなたの愛



そう信じて疑わなかった

母の愛



窓から見える海が

君は世界を知るべきだと言う

窓を叩く風が

君はここに居てはいけないと言う

窓を濡らす雨が

君の心の泣き声がいつも聞こえていると言う

窓を覗く月が

君はこちらへ来ていいんだよと言う



夜が全てを照らした



窓に映るのはいつも僕ひとり



この部屋を満たすのはあの人の面影だけ

この部屋を漂うのはあの人の残り香だけ

この部屋に留まるのは気づけば僕ひとりだけ



夜が全てを明かした



窓に映るのは今はもう僕だけ



いつからか僕ひとりだけ



海が

風が

雨が

月が

夜が

僕を手招いている



僕は信じていたあの人を

この部屋に閉じ込めて

扉に鍵をかけて

火を付けた








そして僕は夜になった







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