第2話 教育者

僕はどうも、教育者という人種を好きにはなれぬのです。それは物心付いたときからずっとでした。

学校なんか嫌いで、何度も行きたくないと思いました。同級生が嫌だったのもありますが、何よりも教師が嫌だったのです。


いえ、僕は保育士さえ嫌いでした。

彼らは自分の言うことを聞く子供を可愛がるかと思えば、ちょっと小生意気な子を可愛がる。真面目に物事に黙って取り組み、言うことをちゃんと聞く子の事なんて見向きもしないのです。むしろ、何も話さず、自分の意見を圧し殺す子どもなど扱いづらいのでしょうか。


僕はずっと彼らの事をみていました。そして気付きました。


彼らは自分が正しいと思い込んでいるのだということを。



大人の考えで説得すれば子どもは、何も言い返せません。子ども故に言い返す言葉も考えも思い浮かべることは難しいのです。

難しい言葉で兎に角先生の言うことが正しいのだと諭されればどうしようもないのです。


いえ、先生の言葉が正しいのだと思い込んでいる子どもからすればどうしようもないのです。


でも、それで彼ら教育者は満足するのです。それで子どもがわかってくれたと思うのです。


僕はそれがとても愚かだと思いました。


愚かな彼らは己が愚かであることを知らずに生きていくのです。

愚かであることを知らずに教育者として成長するのです。

只の自己満足を基盤として彼らは教育者という道を突き進んで行くのです。


そして恐ろしいことに彼らはいざというときに役にたたぬのです。

救いの手など差し伸べてくれぬのです。むしろ、巻き込まれたくないから遠巻きに見るのです。

僕は彼らを役立たずだと思った瞬間があります。


ある日の事です。

ある人が沢山の人に囲まれていました。

ある人は沢山の人に責められていました。

沢山の人はある人を脅していました。


彼らはそれを横目に通り過ぎました。

「こわいね。」

そう言った者もいましたが、その人もそう言っただけで通り過ぎました。


彼らのほとんどはその場を通り過ぎ、立ち止まることはありませんでした。

彼らを引き留め、助けを求めても。

「忙しいから。」

彼らはそう言って通り過ぎるのです。


そんな彼らに僕らは教え、育てられるのです。

それが教育です。



そして僕は、僕の言葉を一切信じてくれない教育者に出会った事があります。

僕にとっては学校生活の中で一番衝撃的な事でした。


ある日僕はクラス朝当番でした。

朝早くに学校に行き、職員室に行きました。

担任は居ませんでした。

他の先生に聞くと、休みだと伝えられました。

何か連絡事項はないか聞くと、ないと言われました。

返却物ロッカーに在るものを持っていってと指示されたので、入っていたノート全てとストーブのコンセントを持って行きました。

朝、担任の代わりに副主任が来ました。

連絡事項をクラス全員に伝えた後、彼は僕に向かってこう言いました。

「お前は当番をサボった。」

と。

勿論そんな事はないので僕はノートをクラスメートに返却したこと、ストーブのコンセントを持って行ったことを伝えました。

「いい加減な事を言うな。嘘をつくな。」

彼はそう良い放ちました。

証拠のストーブのコンセントもあるのに。

「お前、後でこっちこい。」

そう言われ、僕は廊下でまた責められました。

「いい加減な事ばっかり言うな。当番をサボって良いと思っているのか。」

僕が何度説明しても彼は

「お前は嘘を言っている。」

の一点張りでした。

耐えられなくなった僕は、朝、担任が居なかったので他の先生に連絡事項を聞いた事を伝えました。

するとどうでしょう。

「そうなのか。じゃあ良い。返却物を回収しといてくれ。」

そう言って立ち去りました。


きっと彼は返却物が回収されていないことだけを見て、僕がサボったと思ったのでしょう。

でも、朝の当番と返却物が入れ違いになる事は良くある事でした。


では、彼は何を根拠に僕を疑い、僕をクラスメートの全員が居る中で嘘つき呼ばわりをしたのか。

返却物を根拠にしているのなら、どうして他の先生に確認しなかったのか。

何故僕の言葉を信じず、他の先生に聞いた事を話すと急に信じたのか。



何故彼は僕に一切の謝罪をしなかったのか!!


今思い出しても虫酸が走る。

腸が煮え繰り返る。



生徒よりも他の教育者を信じた彼。

生徒の本当の姿を見ていない彼ら。

何かあればと言いながら、何かあれば何もしたくない彼ら。

生徒を信じ、時には疑わなければならないのにその時と場合を誤る彼ら。



僕はそんな彼らが平等を謳うのが赦せません。

僕はそんな彼らを信用する事ができません。



だから僕は今まで、僕の事を理解してくれる教育者に出会った事はありせん。


僕は歯痒い。

何も出来ない僕自身が恥ずかしかった。

何も出来ない僕自身が悔しかった。

誰も助けてくれない事実が悔しかった。

誰も助けてくれない事実が哀しかった。



勿論、全ての教育者がこんな彼らばかりではない。

でも、僕はこんな彼らのせいで教育者に嫌気がさしてしょうがない。

出来れば関わり合いになりたくない。



だから僕は。




教育者なんて嫌いだ。






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