第五宵 さぁ、お手を拝借。君はどうする?
「貴方は?」
「この電車の駅員をしています、影角 零でございます。どうぞお見知りおきを。」
カゲカクと聞いて、壁に背中を押し付け必死にそいつから距離を取ろうとする。
こいつが・・・
相手は気味の悪い笑顔を今だ俺の方に向けてくる。
「・・・回りにいた人達は?」
「全員殺しました。」
こいつ、平然と。
そいつは笑顔を変えずに今の状況を説明していく。
その途中で、さっきふっと浮かんだ疑問を駅員に投げかける。
「三回見たら死ぬんじゃなかったんですか?」
「そんなの回りが決めたことでしょう?猿夢は御客様が三回起きたら殺せ何て決まりはありませんよ。」
「じゃあ、俺も殺すんですか?」
「そうしようと思ったんですけどね、気が変わりました、どうぞこちらへ。」
そう言って、退路を空けてどうぞ左手を進行方向へ。
言われるがまま通路に出る。
ふと後ろが気になり、ちらりと後ろに視線だけを向ける。
少し赤い染みが所々についており本当なのだなと思ってしまう。
そのまま進み、輪っかの中に梟、外に蝶が止まったプレートのかかったスライドドアを開ける。
そこにはさっきと同じような車両だった。
「何車両目何ですか?」
「こちらへお座りください。」
さっきの質問はスルーされ、向かって右側の後ろから四番目に座らされる。
取り合えず奥へ座り、駅員と間を取る。
駅員は出会ったときと同じような位置に立ち、再び退路を塞いでしまった。
「ここ、何車両目何ですか?」
「三車両目でございます、お客様。」
「何で俺をここへ?」
「先程も言った通り貴方を殺さないためです。」
「え?」
「あの車両はこの電車に乗ってきた人を殺す、もう少し具体的に言えば、"この電車を動かすために食べさせる"車両なのです。貴方、如月 幽花とお知り合いですよね?」
「・・・知ら」
「知らないとは言わせませんよ。」
あの人を守るための嘘も易々と少し開かれた時に見えた緑色の殺気と声によって封じられてしまう。
なにも返す言葉がなくなり、顔を伏せる。
ここぞとばかりに駅員が畳み掛けてくる。
「貴方と如月 幽花が知り合いと言うことの裏は取れているんですよ。貴方も知ってるでしょ、詰貝先生・・・って言っていましたっけ?」
「・・・もしかして。」
「ええ、あの方にあの方法を教えたのは私ですよ。最も如月 幽花によって地獄に送られたようですが。」
「・・・お前。」
「何を仰っているのです、貴方が地獄に送ったようなものでしょう?」
「元はと言えば貴方が送られるように仕向けたんでしょう。」
「まぁ、そう思われて当然ですよね、現にそう思っていたのですが。私はあの方の情報が欲しかったのです。でも、あの人よりもいい餌を見つけましたがね。あの方と特別な関係があるご様子ですし。」
「・・・それで俺を使ってどうするつもりですか?」
「そりゃまぁ」
駅員がなにかを言いかけたとき、視界の端で何かが壁に勢いよくぶつかる。
駅員も予想してなかったようで、さっきまでの笑顔が崩れている。
「あららー、やり過ぎた?」
そう言って、目の前の駅員や如月さんと同じような制服を着用した人がくの字に曲がった扉であったものを見ながら呟く。
こちらの存在に気づいたようで体ごとこちらへ向けると、制帽を持ち上げ一言。
「どうもこんにちは。ウメヤ駅を管轄する霊界獄卒です。」
そしてふわりと笑った。
「これはこれは、梅宮道留さん。なぜ貴方がここに?と言うか誰の許可を得てここに土足で踏み込んできているのですか?」
「こっちの台詞ですよ、それは。誰の許可を得て私に逆らって居るんです?ここは"私の"駅ですよ?」
「ふふふ、何をふざけたことを」
「黙れ」
被せた言葉に従って駅員の口が塞がれる。
必死に手を使い、引き剥がそうとしているが、一向に開く様子は見られない。
そんな様子を一瞥し、今度は俺に視線を向ける。
「君が今回の被害者なのかな?・・・そうか、そう言う事か。君、如月と会ったんだね。」
「え、何故?!」
「霊界獄卒にはそれぞれ一つずつ花を持ってるんだ。それは自分の使命であり、獄卒をしている理由、前世での罪なんだよ。そしてしばしその花、象徴花を自分の知り合いに植え付ける。植え付けるって言い方は悪い感じがするけど、それは如月が君を守りたいと思ってる証拠。どう、如月と上手くやってる?」
「ええ、まぁ。」
「そっかぁ・・・良かったよ。あ、後ね。」
梅宮さんはさっき壊した扉を自分の前に突き立てる。
物凄い音を立て、同時に衝撃波がこちらにも伝わってくる。
「君は端に居て、一寸こいつ片付けてから如月の所送ってあげるから。」
「おいおい、僕はそいつを返すなんて一言も言ってないぞ!」
「返すも返さないも、ここは私が管轄している駅その物。どうするかは私が決める!」
盾にしていた扉がこわれ、梅宮さんに勢いそのまま突っ込んでいく。
それを流れで受け止め遠心力で正面の扉まで吹っ飛ばす。
梅宮さんは手を動かし、まだ行けるな。と体制を再度構える。
飛ばされた方向から人影がゆらりと蠢く。
「本当に強いなぁ、流石は馬鹿力の鬼だな。」
「あんたこそ、ずる賢い真似してんじゃないの、狐風情が。」
駅員がてを広げると如月さんが口から取り出した物と同じような火の玉が出てくる。
それを横にスライドさせるとそれが増え、すごい速度で向かってくる。
それは段々と猿の姿に変化していき、瞬き一つし終わる前に目の前に飛び付いてくる。
梅宮さんはさっき散らばった大きめの棒状の木の欠片を取り、打つ。
だが、後ろからもう一匹来ているのに気付かった。
梅宮さんは避け損ない後ろによろけてしまう。
駅員はそれを見逃さなかった。
火の玉を鞭に変換、そのまま流れるようによろけた片足に巻き付け、駅員の後ろにあった壁に叩きつけ、床に崩れ落ちる。
「呆気なかったですね、本当。」
「チッ・・・油断しすぎた。」
「今更、負け惜しみですか?その口、開けないようにしてあげましょうか。」
「そんなこと今のあんたには出来ない。」
「でしょうね、でも、ここの区域を抜けてしまえば私の勝ちです。・・・おい、出せ。」
そう言うと、扉が復元し閉まる。
そして、再び汽車が動き出す音が聞こえた。
「もう貴方に動く気力は無いでしょう?あの子は返してもらいますね。」
そう言って、倒れてる梅宮さんの横を通り過ぎ、こちらに向かってくる。
何とかしなければと立ち上がろうとするが、物凄い熱と爆音に駅員の姿を含め視界の一切が遮られる。
呆気に取られていると、誰かに腕を引かれてされるがまま着いていく。
扉が閉まる音が聞こえ、横には傷だらけで息が荒々しい梅宮さんの姿があった。
「君が逃げられる時間を稼ぐ、ここを真っ直ぐ行けば、運転室だからそこにいる人に助けを求めればいいよ。・・・大丈夫運転手は中立の立場。助けを求めれば助けてくれると思う。」
自分も何かしたかったが、あの二人の強さを見ていると自分には何も出来ない事は一目瞭然だった。
素直に梅宮さんの指示に従い、通路を走って運転室に向かう。
向かってる途中、バキッと言う音が聞こえ今後ろで起こっている状況に何となく察しがつき、すみませんと小さく心の中で呟く。
でも、まだ愚かな自分は気付いてなかった。
ここから歯車が少しずつでも着実に狂い始めていた事に。
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