第三宵 目の前の蜘蛛の糸を、俺は

「ごめんなさい、待たせてしまって。」

「いいよ。今はここ一帯が私の管轄なんだし、それに何でか君は怪異に巻き込まれ体質見たいだしねー。」


紙の束から俺に視線を移す。

いつもの黒パーカーに短パンをはいた如月さん。

自分では対処が難しく、それの専門かどうかは分からないがある程度近い位置にいる如月さんに頼るしか考えが浮かばなかった。

本当は男が同年代の女の子に頼るのは恥ずかしいことなのだがこればっかりは・・・

粗方の内容を話した後、如月さんは指を顎に添える。

そして俺に聞こえるように呟く。


「これは私には一寸手出しが出来ないかもな。」

「え、そうなんですか?」

「何処まで私の事話したっけ・・・えぇっと。」

「霊界獄卒の主な仕事と管轄。」

「あぁ、そうそう。管轄があるってことまでだね。霊界獄卒は一人一つずつ駅を持ってるんだ。その前後の地域が管理者の手の出せる範囲。そして、運転手と基本タッグを組んで行動する。私の場合は日替わりだけどね。で、私の管轄しているのがキサラギ駅。」

「え、あのですか?!」

「そうだよ。元は前の人がいたんだけどね。その人、諸事情で獄卒の仕事が出来なくなったからその代わりで、ね。で、話は戻るんだけど、多分君が乗った電車は、カゲカク駅、皆にはヤミ駅って呼ばれてるけどそこを管轄している奴の電車だ。前も言ったようにその駅のの管轄者を捕らえたりするのは霊状を持っていないと無理なんだよね。その霊状もすぐには発行出来ない。被害が出てから約1週間。だけど、あっちも馬鹿じゃない、逃げ回ってる。だから、今回のような事件が長引いてるんだろうね。」

「被害者は?」

「神隠しに近い状況に陥ってる子がいる。酷い場合には、ニュースでやってるような変死をしている。前者の場合だと数日間行方不明、その後見つかった時には行方不明になった期間の記憶がごっそりと抜け落ちている。って言うことが大半。多分、君に相談してきた子はそれの未遂で終わったんだろうけど。でも、今神様は大人しくしてるし、酔っ払いもいないから、それも含めてそいつがやってる事は間違いないだろうね。」

「え、神様酔っ払うことあるんですか?!」

「あるよ。神無月の時期は出雲大社に集まって飲んで歌えやのどんちゃん騒ぎ。揚げ句の果てにそこら辺にいた人間を隠してその親族をからかって遊んだり。気に入ったから寿命あるのに黄泉の国連れてきたり・・・本当にやめて欲しいよ、本当。」

「そうなんですか。それで打開策とかあるんですか?」

「んー、今の所ないねー。それに君に相談して来たって子と話してた時見たあの状況を見るとー、その子が鍵になるのかな。その子が善意でそいつと結託してるのか、ただ脅されてたのかはまだ分からないけど裏で繋がってることは明白だね。」

「じゃあその子から情報を聞き出した方がいいんでしょうか?」

「聞き出しても余り変わらないと思うよ、この状況。」

「ですよね。」

「まだその電車がキサラギ駅を通ってくれるんだったら手の出しようがあるんだけど、あいつ警戒してるのか無人の駅しか経由しない。まぁ、捕まれば即地獄巡りだから当然だけど。」

「無人とかあるんですね。」

「人界にもあるでしょ?それと一緒。でもその所は無法地帯だから魑魅魍魎がうようよ居るけど。」


それを想像しただけでゾッとする。

絶対通りたくねーそこ。


「あぁ、言っとくけど君の通ってる学校半分その地域入ってるから。」

「え、そうなんすか?」

「そうなんすよ。」

「まじかよー。」

「まあ、君が思っているよりも悪い子じゃないよ、その子達。ただの浮遊霊だし、大半は。」

「それはそうとその子が鍵になるってことは分かったんですけど、聞き出せないとなると・・・どうすればいいんでしょう。」

「んーぶっちゃけその子は君を呼び寄せるための罠だと思うよ。」

「え、どういう事って如月さん!」


何を思ったのか、いきなり俺の腕を掴み、上の薄手の羽織の袖を上げる。

何をしたいのか分からず一人で慌てていると、人差し指で空を切ると青い火が指の先に灯り、ゆらゆらと揺れる。

それを俺の腕に近付けて、肘の間接の手前辺りをなぞって行く。


「これって!」

「これで察したでしょ?」


なぞった所の一部が黒く変色し、腕の上に大きな手を浮かび上がらせる。


「マーカーだよ。自分の獲物を取り逃さないようにね。ねえ、その子と話してるときや昨日その電車に乗るときに誰かに触られなかった?」

「あ、そう言えば子供に背中を押されて。」

「多分その時につけられたんだね。」

「まぁ、後二回。猿夢は不定期だからすぐには来ない。忘れた頃にやって来るって奴だよ。それまでに何処まで対策を練れるかだね。」

「そうですか・・・」

「そんな落ち込まないでよ。こっちでも何とかやってみる。電車で乗り込んで見ても良いし。まあ、様子しか見れないけどね。」

「ありがとうございます。俺も俺でこれから頑張ってみます。」

「うん頑張って。」


これだけ分かったのだから大きな収穫と言えるだろう。

問題はここからだ。

問題が山積みになっている。

さて、どう解決しようか。

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