キマグレなヨリミチ

「ねえ、寄り道して行かない?」

「え?」


静かだった車内に突然投げ掛けられた声。

寄り道、とは?


「如月駅とかって知ってるかな?」

「あ、聞いたことがあります!でも、あそこって怖い所なんじゃ?」

「えぇ、あそこ怖くないよ?」

「へ?」

「本当だよ、もし良かったら案内してあげる。如月駅含め、他の駅も。」


一寸待ってね。そう言って運転室に引っ込んで行った。












「青くて綺麗。」


言葉で表した状況そのものだ。

白い砂浜にエメラルドグリーンの海。

暑くもなくかといって冷たくもない。

温かい。

子供体温位の温かさだ。

朝夜の区別はあるものの、温度はそこまで変わらないらしい。


「本当に綺麗。」

「そうでしょー。」

「駅員さん。」

「恵凛でいいよ。ここね、霊界でも有数の観光スポットなの。」

「へぇー。」

「今はまだお盆じゃないから見れないけど、亡者が精霊馬にのって遺族のもとへ流すのもここなんだよ。その時に、前夜祭をやるんだけどそれがまた楽しいんだ。屋台も出てるんだよ?」

「へぇー。参加してみたいです。」

「生きている内は駄目だよ。ここの屋台で出てるもの食べたら黄泉竈食ひになっちゃうから。死んだときにね。」

「黄泉竈食ひ《よもつへぐい》って何ですか?」

「あれ、知らない?・・・そっか、昔の言葉だし、オカルトじみたこと知ってそうにないしね。黄泉竈食ひって言うのはあの世のものを食べること。食べたらまだ生きててもあっちに戻れなくなるんだよ。」

「・・・じゃあ、やめときます。」

「宜しい。時間も時間だから、次行っちゃおうか?んー、どこ行きたい?時間もないから後、一駅位しか回れなさそうだけど。」

「じゃあ、如月駅で。どんな所なのか気になるので。」


そう言うと、左ポケットから携帯を取り出す。


「そうだね、ヤミ駅とウメヤ駅通った次だから近いし、いいよ。それじゃあ行こうか。」

「ヤミ駅とウメヤ駅ってどんな所なんです?」

「ウメヤ駅は本当梅が何処でも咲いてるよ。強いて言えば、そうだなぁ・・・平安京みたいなところ。大通りに屋台がずらぁって並んでて、紅白の提灯が釣り下がってる。寝殿造の公家の家がちらほらあって、本当風情のある街だよ。でも、ヤミ駅はねぇー暗いかなぁ、全体的に。あそこは気分が下がる。霊界獄卒達も就きたがらないな、あそこは。あぁ、でも実害はないから安心して。静かだし、煩いのが嫌いな人はたまに避難してる。」

「へぇー、案外悪くなさそう。」

「そうでしょう、そうでしょう。・・・っておっといけない。早くしないと如月駅見る時間なくなっちゃう。もう、行こうか?」

「はい」


如月駅か、どんな所だろう。












「ういっ・・・あれぇ、恵凛ちゃんじゃん。どうしたのー、おじさんと一杯どぉー?」

「酒臭!本当何やってるんですか!幽夏さんに、怒られますよ!」

「いいの、いいの。あの子今仕事だからぁー。」


なんだこれ。

おじさんやお姉さん老若男女が飲んで歌えのドンチャン騒ぎ。

笛を吹いたり、鼓うったり、何が何やら。


「あのぉ、これは?」

「ああ、ごめんね。いつもは威厳のある神様なんだけど、お酒入ると、こうなっちゃうんだよね。本当、ごめん。」

「え、神様なんですか?!」

「そうだよ。」

「あれ、恵凛ちゃん、その子は?ここの子じゃないねぇ。」

「ああ、一寸訳ありでね。彼岸に行く途中なの。」

「あー、往復切符使ってしもうたんかい、勿体無い。」

「往復切符?」

「あの世とこの世を行き来するのって往復切符が必要なんだよ。君・・・じゃなかった結ちゃんって七五三やった?」

「はい。」

「色々と諸説はあるんだけど、基本的に七五三ってご報告、感謝、祈願を行う奉告祭なんだけど、それと同時に神の子を降りて、人間の子になる日でもあるんだ。生まれたと同時に同じような券はあるんだけどそれは片道切符、その子がもしこの世の生活に慣れなかった場合、すぐ戻って来れるようにするためにね。で、七五三最後の年、七歳になったとき、神社の神様が片道切符を回収、代わりに往復切符をその子に渡す訳。この理由はさっき言った通りだよ。」

「そうじゃ、そうじゃ。迷いこんでしまったときに使うのは勿体無いがのぉ。」

「でも、その3割って貴方達ですよねぇ?」

「そ、そうじゃったか?」


ふいに、恵凛さんが時計を確認する。


「あ、やばい。もうこんな時間、急がなきゃ。もう、手続き済んでこっちに向かってる。」

「ああ、待ちなさい。お嬢さん、これを。」

「これは?」

「恋愛成就よ。」

「でも・・・」

「もっておきなさい、大丈夫。きっと上手く行わ。」

「貰っておいた方がいいんじゃない?」

「・・・分かりました。」


少し複雑な気持ちのまま別れを言い、電車に乗る。

少しだけ、足が重かった。












「・・・恋愛成就、嬉しくなかった?」

「いえ、そうじゃないんです。ただ、今更感が半端なかったので。」

菊理媛神くくりひめのかみ

「え?」

「さっき、それをくれた神様の名前。伊弉冉尊いざなみのみこと伊奘諾尊いざなぎのみことの仲を取り持った神様。縁結びが得意。」

「・・・何が言いたいんですか?」

「諦めない方が良いってこと。多分菊理媛神もそう言うことを見越してそれを送ってくれたんじゃないのかな?」

「・・・期待していいんですか、本当に?」

「さあね、行ってみないと分からない。」


キーッ。


外には黄泉駅と書かれている。


「さあ着いたよ?今から会いに行こうか。」


そう言われて、恵凛さんの後を着いていく。

一面に咲く色とりどりの彼岸花。

その奥には、見たことのある影が遠くを見据えていた。

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