裏路でのハプニング
赤い月。
さっきの黄泉の途中から折り返し彼の事故現場に足を運んだ。
この時間だというのに、車は一切通っておらず、信号は誰も居ない向かい側に進めの合図を送っている。
静かで、寂しげな場所。
「ここ、本当に私達の住んでいた場所ですか?何か少し暗いような。」
「ここは、あの世に行けずにさ迷っている人が行きつく世界だよ。名前はないけど私達の界隈では
「ここに居るんですか?」
「あっちに行ってないとなれば残るはここぐらいだよ。何かの理由でここに留まってる。早くしないと一生ここで暮らすことになってしまう。来世は君とは会えないだろうね。」
「そんな。」
「まぁ、大丈夫だよ。49日まで時間があ・・・りゃ、これは。」
「何ですか、これ。」
建物全体に黒い蔦の様なものが絡み付き、建物の窓ガラスは所々は割れ、ヒビが入っている。
その源を辿っていくと、交差点の中央に座り込んでなにかをしている子供かいた。
これを見て普通の子供だと言える人はまず居ないだろう。
その子供は自分達の存在に気付いたのか、手を動かすのを止めた。
顔をこちらに向ける。
目は空洞で奥は真っ暗。
鼻は丁度真ん中から右に直角に折れ、右の口角が耳辺りまで割けている。
頭を赤べこのように上下に揺らしながら笑った。
「あソぼ?」
「私は霊界獄卒、案内支部の者です。あなたがここに連れ込んだ性で困っている人がいるのですが返していただけませんか?」
「いや。ここハ寂シい、誰もいナイ。だから、オ友達を作ってルダけ。何が悪いノ?何がイケないの?」
「それなら一緒にいきましょう?あちらには沢山の人が居ますよ?楽しいですよ?」
「嘘ツき、お母サンやオ父さンに会えナイ。オ友達もキてクレない。声をかけテモ無視シテくる。あんなに友達ダって言っテくれタノニ。皆嘘ツきだ!呪ってやる、呪ってやる呪ってやル呪ってやル呪ってヤル呪ってヤル呪っテヤル呪っテヤル呪ッテヤル呪ッテヤルのロッテヤルのロッテヤルノロッテヤルノロッテヤルアハハハハハハハハハ」
それに連動するように建物のに絡み付いていた蔦が一気にこちらへ向かってくる。
駅員さんは私を抱えて後退する。
「まさか、こうなるとは。本当口下手って厄介です。」
「駅員さん、上!」
「うわっ、ありがとうございます。」
次々と来るが、ひらりひらりとかわしていく。
「これからどうしよう。私あの子に手だし出来ないんだよねぇ。」
「そうなんですか?!」
「うん、恥ずかしい話だけどね。あの世にも閻魔大王さま直属の部署があって、其々に役目があるんだけど、亡者に手出しできるのは獄卒、規定を越えた罪を犯した生者をあの世へ強制送還するのは霊界獄卒。私達、霊界獄卒、案内支部は生きた人を一度だけ彼岸に案内し、亡者とその人へとの間の未練を立ちきり、輪廻転生を円滑に進める役を担う部署。それ故、生者、亡者両方を傷付けてはならないと言う制約があるんだよね。邪に落ちても亡者は亡者。私にはどうしようも。」
「それじゃあ、どうするんですか?!」
「・・・どうしましょう。」
「えぇ!」
「基本、獄卒とタッグを組んで行動するんだけど、今日予定だった獄卒の子熱出しちゃって。大抵、スムーズに事が運ぶから大丈夫かなーって思って一人で仕事してたんだけど、迂闊だったな。後で先輩に怒られる。」
「その迂闊さはともかく、幽霊も風邪引くんですね。」
「引くよー、元は皆人間だし。あ、でもこの世よりもきついかな、多分人間だと死んじゃうレベル。」
攻撃が止まり、20階はありそうな高層ビルに着地して、下ろしてもらう。
見失ったようで、あの子は頭をキョロキョロさせているのがかろうじで分かった。
どうしようかなぁ。と体育座りで右膝に右肘を置き、手を顔に添え、遠くを見つめる。
その時、突然着信音が鳴った。
私の着信音ではない。
駅員さんは慌てて、左ポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。
画面をタップし、耳に当てる。
スピーカーモードで大声で聞こえてきたのは、男の人の声だった。
「
「ごめんなさい!本当大丈夫だと思ったんです、最近何事もなく進んでたからぁ。」
「お前は気が緩みすぎるって何度言ったらわかんだ!獄卒が風邪引いたんなら報告しろ!ほう・れん・そう!仕事の基本だろ!」
「すみません、本当すみません!」
シリアスムードぶっ壊して、駅員さんへの説教が大声で響く。
駅員さんは誰も居ない空間にずっと平謝りを決め込んでいた。
「たく、お前は。まぁ、今回は多目に見てやる、今何処に居る?」
「辻道駅の二つ隣の水戸駅って所のすぐ近くの交差点の裏路です。」
「そこ、危険区域じゃねえか。分かった、代わりの獄卒をそっちに行かせてある。」
何が爆発する音で携帯からあの子が居る下の交差点へと目を向ける。
下には既に土煙が舞っており、姿は見えない。
ただ、代わりの獄卒の人だろうと予想は着いた。
「後はそいつに任せろ。恵凛帰って来たら、始末書と・・・説教な。」
「そんな、先輩多目に見るって言ったじゃないですかぁ。」
ブツッっと切れる音がして通話が終わる。
駅員さんは落胆していた。
下も片付いたようで、駅員さんと一緒に降りていく。
目の前にはふわっと巻いた金髪。
服は上は黒のスーツジャケットに同系色のスラックス。
駅員さんと同じような制帽を被り、切れ長の栗色の目をした男の人が下にうつ伏せで転がっている女の子を見つめていた。
「あれ、
「あ、恵凛ちゃん。やっほー。」
目を見開き、手を振る獄卒さん。
さっきの冷たい雰囲気とは違い、回りに花が飛んでいる幻影まで見えそうだ。
「今日非番?」
「さっき仕事から帰った所だよ。」
「そうなんだ!ごめん、本当。」
「いいよいいよ、この後は非番だったし。その子は?」
「ここで事故った子の彼女さん。多分、そこに転がってる子を助けようとしたら、って感じじゃないのかなぁ?」
「そうなんだ。ここにいた子は皆あっちに送ったから手続き済ませたら会えるんじゃないのかなぁ。」
「そっか、分かった。」
「それで、その子はどうするの?」
「取り合えず、閻魔様の所かな?もう100日以上立ってるし、結構な人、引き込んじゃったら、もう天国は望めないだろうね。」
「え、地獄行きですか?!」
突然口から出たことに自分も驚き、口を隠す。
獄卒さんは、あぁ、と何か察したように言葉を続けた。
「別に地獄に行ったからって来世を望めない訳じゃないよ。多少、来世は悪くなっちゃうかもしれないけど、閻魔様に裁かれて、逃げずにちゃんとやったことを悔い改めたら大丈夫。」
「そう、なんですか。」
「そうそう。」
「じゃあ、そろそろお仕事再会しようかな。後で、慰めて。」
「あぁ、また
「はーい、じゃあね!」
そうして、獄卒さんと別れた後、再び電車に乗り込んだ。
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