‘‘架空の‘‘終電
「どうしよう、終電遅れる!」
塾帰り。
時間は午後11時を指そうとしている。
今日は両親が共働きで、路面電車を使って帰るように言われていたのにそれをすっかり忘れていた。
「あ、待って!」
一足遅かったらしい。
どうしようもなく取り合えずベンチに座る。
この辺のバス情報を調べてみるが、もう終わっている。
ワンマンで行くのもありだがここから駅まで約2kmはあるので、歩いている途中で終電が出てしまう。
ああ、怒られるだろうな。
泣く泣くチャットアプリを開き、理由と迎えに来てほしいと書いた。
紙飛行機のマークを押そうとして手が止まる。
親に迷惑かけるのも。
それにここからなら少し時間はかかるが歩いて帰れない距離でもない。
先程のメッセージを消し、スクールバックを肩にかけた。
駅に背を向け、歩き
キーッ
止まれと耳に劈く。
振り返ると電車が目に入る。
あれ、終電過ぎたんじゃ?
扉が開き、ひょこっと人の顔が出てくる。
ストレートで先が内巻きのセミロング。
少し明るい茶色。
よく駅員が被っている制帽。
制服は紺色のスーツジャケットに下は中にフリルがついたプリッツスカート。
黒いタイツに、ローファー。
屋根付近に設置してある蛍光灯は中性的な顔立ちの女の子を写していた。
「あれ、こんな所にお客さんだ。乗ります?」
断ろうとも思ったが、折角だし乗せて貰うことにした。
二人分の椅子が壁に沿って連なった室内。
床は木の板を継ぎ接ぎに繋げており、たまにギィと軋んだ音がする。
窓枠も木で出来ており両開き窓の間の太い梁には、注意書が薄くなったベルが取り付けられていた。
「どうぞ、座って。」
取り合えず適当に座ると、駅員さんは自分の向かい側に腰を下ろす。
「ねえ、君。本当に失礼なこと聞くんだけど、最近、49日以内に人を亡くした?」
「え?」
何故そんなことを聞かれるのか、意味が分からなかった。
戸惑う私をみて、あぁ、ごめん。と謝られた。
「辻道駅の話聞いたことあるかなと思ったんだけど、まあいいや。あのね、この駅は彼岸、まあ、あの世だね。そこに向かっている。」
「え?!一寸待ってください、これ普通の路面電車。」
「落ち着いて。でね、この電車って49日以内に死んだ人、その上未練がある人じゃないと見えないんだよね。この説明を聞いてもう一回聞くけど、その人に未練はない?」
胸が飛び上がる。
ある。
無いわけがない。
もう一度、あの人に会えたならどれだけ嬉しいだろうか。
でも、会えない。
あの人はもう
「しんでる、のかな?」
「え?」
「あぁ、ごめん!勝手に人の思ってること見ちゃって。でも、その人に会えたらいいんだよね?」
「簡単そうに言わないでください。無理ですよ、死人に会うなんて。」
「もしかして、信じてない?」
「当たり前でしょう。この時代に幽霊なんて。」
「じゃあ、外見てみてよ。」
促され外を見る。
空にはさっき出ていた月も星もなく、黒一色に染まっている。
線路の近くには炎がチラチラと揺れており、見るからにここは自分の知っている道ではなかった。
「これって。」
「だから、言ったでしょ、黄泉行きの電車だって。これで、信じてくれた?」
スッと眼が細くなる。
笑顔に暖かさが見受けられない。
受け入れろ、と言うことだろうか。
今の状況を
「は・・・い。」
「そっかぁ、良かった。じゃあ、本題に入るね。会いたい人って誰?」
「・・・私の彼氏です。事故死で。」
「因みにいつ?」
「一ヶ月前です。」
「了解。」
「え、それだけで分かるんですか?」
「夏場はあんまりこう言う事無いんだよ。だから調べやすい。」
そう言って、厚さ10cm位の厚表紙本を取り出し、ペラペラとページを繰る。
「・・・そんなに珍しい?」
「いえ、重そうだな、と思って。」
「そうだねぇ、重いし持ち運び面倒だけど、デジタルにしちゃうと通知が届かなかったりするから、自動で亡者が書かれるこれの方が何かと困らないんだよ。・・・あ、あった。けど、これは。」
「どうしたんですか?」
「君の彼氏さんの名前って早場 満くんだよね?」
「ええ、そうです。」
「因みに事故にあった場所何処?」
「えっと、辻道駅の二つ隣の水戸駅って所のすぐ近くの交差点ですが。何にかあったんですか?」
「君の彼氏さんね、まだあっちに来てないみたい。」
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